第六話:大怪盗ビッグディック大人の女に出会う
ビッグディックは前述の通りエレベーターを止められ、一階で降りた。そして階段で上がることを決めた彼は悟りに階段の位置を聞いてみた。
「悟り、階段はどこ?内部の人なら知ってるんじゃないの?」
悟りは困ったような顔をしてこう答えた。
「ごめんなさい・・・。私、内部の事はそんなに詳しくないんです。中を歩くときも基本的に目隠しされているから・・・それとお兄ちゃんは何を盗みに来たんですか?」
「俺はこの城にお宝を盗みに来たのさ!PTAって言って巨大なダイアモンドなんだけど、何か知らない?」
「巨大なダイアモンド?・・・さあ、知らないけど・・・。それってごしゅじ・・・お父様が持ってるものなの?」
ビッグディックは一つ首をかしげてこう言った。
「うん。多分そうだよ」
「変だなあ・・・お父様はそんなもの興味ないはずだけど」
前述の通り細かいことは考えない男、ビッグディックは
「まあいっか!」
と一言言って通路を歩き続けた。間接照明が点々と点いており、雰囲気としては壮言というよりはパーティールームのような色使いである。そしてさらにその間に点々とある出口の方向を表す緑色の看板を横目に道なりに行くと、網目状の模様がついたクッションで覆われた両開きのドアに出た。
その間もスナッチにはつながらず、雑音自体は消えたものの今度はシーンと静まり返っていた。ビッグディックはというと......特に気にしていなかった。
いつか繋がるだろうと思い、楽観的に構えていた。
先ほどのドアに二人とも耳をつけて中をうかがう......するとかすかに重低音とエレクトロニックサウンドが聞こえてきた。
悟りがいったん耳を離して怪訝に思う。
なんで?
一方ビッグディックは......
「開けなきゃ始まらないし開けてみようよ!」
そう言って悟りの制止を振り切り、ドアを開けた。そこには・・・
ナイトクラブが広がっていた。
あっけにとられる悟りと、目を輝かせるビッグディック。あたりには重低音が鳴り響き、人々が踊り狂う。壇上にはDJと思しき人物がMVとともに音楽を操っていた。
そしてその光景に魅了されたビッグディックは悟りを置いて中へと言ってしまった。
「あ、お兄ちゃん!ちょ、ちょっと待って......」
悟りのその声は重低音にかき消されてビッグディックの耳には届かなかった。そして彼女はビッグディックを見失い、ここから探し続けることとなる。
一方ビッグディックは体が小さいため人と人の間を簡単にすり抜け、群衆の一番前まで行くと能天気に踊りだした。そう、この男は完全にここに来た理由を忘れている。さっきまで言ってた階段とPTAのことである。
そして時間を忘れて踊りだした。ボーイからソフトドリンクを受け取り、一気に飲み干しもう一度踊りを再開する。そんなルーティーンを何度も繰り返した。
とそこに背の高いナイスバディな女が現れた。体のラインを強調する真っ赤なボディコンを着ている。その恰好は一昔前のバブルのころを想起させた。そしてその女はビッグディックに語り掛けてきた。その声はこの爆音の中でもよく通る声だった。
「ねえ少年! 乗ってるじゃない!」
「僕は少年じゃない! 大怪盗ビッグディックだ!」
とりあえず、身分をばらすところから入るのが実にビッグディックらしい。
「大怪盗? へえあんたそんなことやってるんだ!」
女性も腰をくねらせて踊っている。そして女性はこう名乗った。
「あいにく私も怪盗よ!私の名前は“怪盗バージニア”よろしくね!」
普通の人なら怪盗と聞いた時点で同じPTAを狙っていることぐらいわかるだろう。しかしビッグディックはそんなこと考えない。そもそもそんなことすでに忘れており、さらに言えば仲間の登場だと能天気に喜んでいた。そして女性がこう続けた。
「もしかして、あなたもPTAを狙ってるの?」
ビッグディックはそういえばそうだった!とポンっと手を打った。
「そういえば俺もPTAを狙ってるんだ!」
と言って彼はバージニアのほうを初めて見た。むろん、彼女は先ほどのような扇情的な服を着ている。そしてそれはビッグディックにとっては明らかに許容量オーバーなわけで。
ビッグディックはすぐに目をそらし、踊りが停止する。そこに間髪入れずにバージニアが突っ込んだ。
「あららぁ?どうしたのお坊ちゃん?まさか私の体にびっくりしちゃった?いいのよう!あなたのような子嫌いじゃないわ!」
ビッグディックは、僕はお坊ちゃんじゃないと言ったが先ほどまでの威勢はどこへやら。声が小さすぎて気づいてもらえないほどだった。そんなビッグディックをよそにバージニアが畳みかける。
「ねえあんた。私と組まない?」
ビッグディックが目を背けたまま答える。
「何で?」
「知ってるでしょ?PTAは時価数十億のお宝。売れば一生遊んで暮らしていけるわ。二人で分けても十分な額よ。一人で盗むより二人で盗んだほうが成功率は上がるんじゃない?」
願ってもない申し出だが、彼女としてはこの話に裏があった。盗むことに成功した暁には全額バージニアがとってビッグディックには泣き寝入りしてもらおうという魂胆である。
とはいってもこの男にこの話を持ち掛けるのはどうかと思うが・・・。
しかしビッグディックは迷うことなくこう言った。
「絶対に嫌だ!」
結構な大声でバージニアを直視して放ったその言葉には確かな決意と、意志が感じられた。そう、この男は方法や目標はどうあれ、一度決めたことをやり遂げる男なのである。
まあ、真正のバカではあるが・・・。
そしてバージニアはその言葉と、主に声量に驚いて踊りを停止しくびれた腰に手を当てる。そしてあきれたようにこう言い放つ。
「別にいいじゃない。何?そんなに独り占めしたいわけ?分け与える気はないの?」
それにビッグディックが語気を強めて応対する。
「俺はもともと分け与える気で盗み出そうとしてるんだ!お前とは違う!」
バージニアは下品に笑うとこう言った。
「バカじゃないの? 何義賊気取っちゃってるわけ? そんなことして何の得になるっていうのよ? それにあんたの名前なんて聞いたことないし、どうせ初めてなんでしょう?だったら悪いことは言わない、私と組んだほうがいいわ」
そこにやっとビッグディックを発見した悟りが到着する。そしてバージニアと彼の顔を交互に見ると困惑してこう言った。
「どうしたのよ?お兄ちゃん?何かあったの?」
「・・・・・」
ビッグディックは何も答えない。しかし状況を察した彼女はバージニアに言い返す。
「お兄ちゃんに何言ったんですか?変態さん」
非常に静かで辛辣な罵倒である。それに若干身じろぎしたバージニアは、こう返した。
「あら、これはこれは尾宮総裁の娘さんじゃない。どうしたのあの部屋......というより牢獄を抜け出して?この男に惚れちゃった?それともお父さんに対するほう......」
「それ以上はやめてください。なんであなたが私の事を知ってるかは知りませんけど、惚れてなんかないです。それとそんな服でいわれても説得力ないです。黙っててくれますかクソビッチさん」
ブチッ!
と何かが切れる音がした。その発生源はむろんバージニアであり、美人に分類される顔をゆがめ、般若のような顔つきになる。そして額には青筋を立て、身を震わしている。
どうやら悟りは地雷を踏んだらしい。
その間ビッグディックは二人の静かなケンカに入れないでいた。彼の脳内の回路では処理しきれないほど難しい話だったのである。なのでただ茫然と二人の言い合いに対して、交互に相槌を打つマシーンと化していた。
話を戻そう、当然クソビッチと呼ばれて怒らない女はいない。・・・と言ってもバージニアの怒りようは異常だった、ついに彼女は頭ごなしにこう言い返した。
「クソビッチですって!私はクソビッチじゃないわよ!あんたと一緒にしないでほしいわ!さっきの言葉、取り消しなさい!」
「取り消しませんよーだ! 変態! 雌犬! 売春婦!」
「キー!」
バージニアは猿のような声を出しプルプルと震えた。それとは対照的に悟りは勝ち誇った顔をしてバージニアから目線をそらした。するとDJが音楽を操る壇上の奥、この会場の最深部の暗闇に浮かび上がる階段を見つけた。
階段の前にはSTAFF ONLYという看板が立っている。それを見てビッグディックに話しかける。
「ねえお兄ちゃん!お兄ちゃんったら!」
はっ!とフリーズ状態から解放されたビッグディックは寝起きの子供の様な言語になっていない返しをした。
「お兄ちゃん・・・しっかりしてください!階段見つけましたよ!ほらあそこ!壇上の奥にある」
ビッグディックも必死で背伸びをして壇上の奥を見つめる。そして階段を見つけ歓喜の声を上げる。
「やった!早速行こう!」
そう言って二人して壇上に上がろうとしたその時!バージニアがこれまでにない大声をあげた。
「そうはさせないわよ!四天王さん!見つけたわよ!ここに侵入者がいる!」
「なんてことするのよ!このクソビッチ!」
そんな悟りの罵倒空しく、音楽は鳴りやみ、先ほどまで踊っていた群衆はざわざわと雑音を発し始める。そして視線はビッグディックのほうに集まった。そして中には彼の身長を卑下するものも出てきた。その言葉に耐えかねたビッグディックは何とか壇上によじ登り大見得を切った。
「俺の名前は大怪盗ビッグディックこの城にある秘宝を盗みに来た!」
その言葉に対する人々の反応は様々だった。あるものはかっこいいと思い、あるものはくすくす笑いをし、最大多数はあっけにとられてものも言えなかった。
そしてバージニアは心の中で
『この男と組まなくてよかった』
と安堵した。
そして悟りはというと・・・。
『やっぱりこのお兄ちゃんバカなんだな・・・』
と思っていた。とはいえ助けに来てくれた人を裏切るわけにも、見捨てるわけにもいかない。このお兄ちゃんを介護すると決めた悟りだった。
そして先ほどまで音を奏でていたDJが歩み寄る。DJはキラキラのサングラスをつけ、妙に厚着している。しかしファッションとしてはまとまっていた。
その男をビッグディックは仁王立ちで待ち構える。そしてゆっくりと、そして肩で風を切ってビッグディックの近くまで行くとこう言った。悟りは何かされるんじゃないかとハラハラしていた。
しかし・・・
「はははははははは!いいねビッグディック面白いぜあんた!」
とDJは結構上機嫌。そしてこう名乗った。
「俺の名前はDJ・松方重信だ!よろしくな!」
と言って右手を差し出し、握手を求める。それにビッグディックは快く応じた。そして松方はこう言った。
「確かにあんたは面白い。だがこのフロアのマスターは俺だ。だから俺のルールで勝ったら上に行ってもいい」
悟りは不安を隠せなかった。もし、頭脳戦だったらどうしよう・・・。
はたしてそのルールとは!?
次回に続く。
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