第四話:大怪盗ビッグディック、罠にはまる

 一方そのころ、ビッグディックは・・・。

 罠にはまっていた。

 彼はスナッチの言う事を聞かず、迷路のような城の中を適当に進んだところ巨大な落とし穴にはまってしまったのである。深さ数十メートルはあるその穴をひたすら落ちていき何かがクッションになり、運よく無傷だった。

 それが何かはわからない。

 そこにスナッチから無線が入る。


「おーい、生きてる?」


 いてて・・・と言ってビッグディックは立ち上がるとこう返した。


「大丈夫だよー。これから俺はどうすりゃいいんだ?」

「いうこと聞かないからこうなったんでしょ?今度から言うこと聞くって約束しなさい」


 ビッグディックは少し憮然とした顔をするとこう言った。


「・・・わかったよ」

「今何が見える?」

「右に通路が見えるよー!早速進んでみる!」

「ダメ!」


 これでもか!というほど大声でスナッチが怒鳴りビッグディックは耳鳴りでしばらく動きが取れなくなってしまう。


 そんな彼をよそにスナッチはネットでトリコ・チンコール城を調べた。そして内部地図を入手し、ビッグディックに指示を出した。


「おーい聞こえる―?」

「き、聞こえるよー・・・。」

「その穴はどうやら侵入者撃退用の落とし穴だったみたいね。よく生き残ったわね。ちなみにその落とし穴海外の評価だと“誰もかかる人はいないだろう”っていう評価だったわ」


 ビッグディックは後半を無視してこう返す。


「スナッチ!どうやったら抜け出せるんだ?」

「待ちなさいってば!今調べてるから!・・・どうやらその穴はゴミ箱にもなってるみたいね。つまりあんたが助かったのって・・・」


 つまりビッグディックはゴミがクッションになって生き残ったのである。一般人にとっては喜劇なのか悲劇なのかよくわからない状況だが、ビッグディックは違った。


「よかった!ゴミ箱で!」


 スナッチはやっぱりこいつは頭がおかしいんじゃないか? と思ったが細かいことは気にせず、さらに調べ物を開始する。それにビッグディックが異を唱える。


「いけるなら行っちゃったらいいじゃん!なんでそんなに調べるのさ!」


 スナッチはあきれてこう返した。


「あんたねえ......私だって相方として死なれたら困るのよ!私しかあんたの所在地わかんないんだから私が遺言聞くことになっちゃうでしょ?それに宝石だって手に入らなく......」

 後半に連れて言葉は小さくなっていきついに聞こえなくなってしまった。スナッチは作業に戻ったがここでビッグディックがあるものを発見する。


 それは......。


 明らかに成人していない女の子のあられもない写真だった。すべて顔が潰されており誰かは判然としない。


 この写真をだれがどんな目的でとったのか皆目見当もつかない。さらにほかにも女の子の写真がたくさん捨てられていた。雰囲気から明らかに同じ女の子であることがあった。そしてさらに掘り返すとロリものの同人誌も落ちている。つまりこの写真は......。


「なあ、スナッチ?」

「今度は何?」

「これは何だと思う?」


 何よそれ? と言ってスナッチが画面越しにその写真を見た。そして彼女は身震いすると、完全にドン引きしてビッグディックにこう言った。


「あんた・・・そんなものに興味あったの?」

「興味なんかねえよ!俺は巨乳で、デカ尻が好きなんだ!」

「......それはそれで引くけどね......。まあ、そんな汚いもの捨てときなさい!わかった?」


「わかったよ......」

 しかし、ビッグディックは一枚だけ写真をポケットに入れた。そしてスナッチが抜け出す方法を発見する。

「右の通路は通っちゃあだめ!その先はマグマがあるわ。上に穴が見えない?」


 ビッグディックは上を見上げると、そこには上下に大きな穴が二つ開いていた。しかしビッグディックは下の穴しか見えていなかった。


「確かに開いてる!」

「じゃあそこにマグナムハンドで入って!そうしたら上の階層に行けるわ!」


 スナッチは上の穴しか調べられていない。要するにそう言う事である。そしてそんなことを知らないビッグディックは、下の穴にマグナムハンドをかけて入っていった。


「いけた?」

「行けたー!」

「じゃあ先に進んで!そうしたら大広間に出るはずよ!」


 その言葉通りにビッグディックは先に進んだ。すると当然のごとく大広間には出ず、一つの牢獄のような部屋の前に出た。そして隣にはエレベーターがある。

「なんか大広間じゃなくて牢屋?みたいな個室の前に出たけど?」


 スナッチから帰ってきた言葉は雑音にまみれ、聞けたものではなかった。


「ど・・・こと・・・ちょっと・・・え・・・」

「え、何? 聞こえない!」


 そして、ついには雑音以外は聞こえなくなってしまった。妨害電波でも流れているのか? はたまた機材トラブルか?


 もちろんビッグディックはそんなこと露ほども考えていない。目の前の扉に夢中である。扉は一部が鉄格子になっており、そこから中を観察することができた。彼が中を見ると火のついたろうそくが乗った机と使い古された椅子、そして......

 ベッドの上に小さな女の子が座っていた。


 中はろうそくが灯っているとはいえ暗く彼女の顔を見ることはできない。しかし、彼女の頭の向きから、壁掛けの時計を眺めていることはわかった。そしてふと鍵穴を見てみると、中から鍵を開けられない構造になっており、外からは簡単に開けることができた。


 とはいってもそれを多少なりとも躊躇するのが人間という生き物だが、そこはビッグディック。迷うことなく扉を開けて中に入った。


 ギィッ・・・という音が響き扉が開けられる。おそらくかつて移築された城のままなのだろう。蝶番は真っ赤にサビついていた。そしてその扉を開けた先にその女の子はいた。


 先ほどは暗くてよく見えなかったがよく見ると女の子は白いバスローブを着ていた。


 そして、扉の音に気付いたのか女の子は顔を上げてこちらを見る。そして明らかな作り笑いを浮かべてこう言った。


「ご主人様。待っておりました。今日も私を・・・」


 とここまで言ったところで彼女は何か違うことに気づいたのか、作り笑いが消え、驚きの表情に変わる。そしてビッグディックもさすがに驚いていた。


 この子は、ボランティアを行っていた時出会ったあの少女だった。


「な、何で君がここにいるんだ!?」


 ビッグディックはやっと頭まで言葉が回ったのか、ついに驚きの声を上げる。少女も負けじと声を上げる。


「あなたは!あの時の怪盗さん?ほんとにわたしを盗みに来たの!?」


 しばらく呆然とするビッグディックの耳には、無線から聞こえる雑音に混じったスナッチの声ははるか遠くにあった。彼にとっても今回の出来事は非常に困る出来事だった。なぜかというと盗もうとしているのは“PTA”なわけで彼女ではない。


 かといって少女の期待を裏切るわけにもいかない。それはビッグディックの男としての本能が許さなかった。彼はどう答えようかと口をもごもごさせ、どもってしまう。


 それを見て少女の目は驚きから失望に変わる。


「そうだよね・・・私なんかどうでもいいよね・・・」


 それを聞いて我に返ったビッグディックはとっさにこんなことを言った。

「ち、違うよ!俺は君“も”盗みに来たんだ!」

「 “も” ?つまり私は二の次なの?」

「いや・・・そ、そうじゃなくて・・・」


 またビッグディックは口ごもってしまった。見かねて少女が口を開いた。


「ま、二の次でもいいや!ありがとね!盗みに来てくれて!」

「は、はい・・・」


 少女はベッドから立ち上がって身支度を始める。まあ身支度と言えば最初にすることは一つしかないわけで・・・


 つまり服を着替え始めたのである。


 慌ててビッグディックが制止する。


「ま、待ってくれよ!いくら小学五年生だからって全裸になられちゃ困る!」

「なに?お兄さんロリコンなの?」


 ビッグディックは急いで後ろを向き目を背ける。


「お兄さんは相変わらず変な服装してるね!」

「変じゃない! これは僕のトレードマー......」

「わかってるって!」

「......君の名前は?」

「尾宮悟りっていうの。“り”はひらがなの“り”、カタカナでもいいよ!」

「と言う事は尾宮家の・・・」

「長女よ。あなたはなんて呼べばいいの?」

「あの時ちゃんと言っただろ?大怪盗ビッグディックって!」

「......」


 悟りは嫌そうな顔をする。それはそうである。ちょっとでも教養のある人ならビッグディックが何を意味するかは一目瞭然。これを生のまま読める女性なんて・・・そういえばスナッチがいた。


「......その名前の代わりに、お兄ちゃんって呼んでいい?」

 ビッグディックはちょっと気おされてこう答えた。

「いいよ......」

「じゃ、行こう!お兄ちゃん!」

 ビッグディックが振り返ると、明らかに高級な服を着てそこには満面の笑みを顔に浮かべた悟りの姿があった。

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