第三話:大怪盗ビッグディック、不法侵入する
ビッグディックは城壁に向けてマグナムハンドから針を発射するとそれをひっかけて登り始めた。むろん、四隅の塔から監視の目はあるが本人が小さすぎることもあり見つかることはなかった。
そして首尾よく侵入すると、城本体に向かって小さな体をさらに小さくして向かった。警備員はうろちょろしているが障害物などを使いうまく隠れていた。そこにスナッチからオグリングの無線で連絡が入る。
「こちらスナッチ、聞こえているかしら?」
「おう!聞こえてる!」
かなり大きめな声である。そこにスナッチがすかさず叱責を入れる。
「しー!そんな大声で話さないでよ!見つかっちゃうでしょ!」
「ご、ごめん・・・」
「はあー・・・まあいいわ!その城には四つの入り口があって今のところすべてロックがかかっているわ!」
「じゃあどうやって侵入するんだ?」
「そのロックは全部電子ロックだから私がクラックして開けてあげる。それまでばれないように潜んでなさい」
『電子ロック・・・?』
ビッグディックは電子ロックが何かわからず、少々戸惑った。そして気にしないことに決めた彼は、スナッチの連絡を待ちつつ植木鉢の後ろに中腰で隠れていた。
しかしここでビッグディックを生理現象が襲った。
尿意である。
「スナッチ!こちらビッグディック!こちらビッグディック!応答願う!」
「なによ!今解析してるんだから連絡しないで!」
「おしっこに行きたいんだ!」
「なんですって!なんで済ましてこなかったのよ!」
「だって興奮してて・・・」
ビッグディックは顔を赤らめてばつが悪そうに指をいじくる。
「もう・・・してもいいけどばれないようにね!」
「わかった!」
ビッグディックも今度は小さな声で答えると植え込みに向かって放物線を飛ばし始めた。
じょーーーーーー
という音が暗闇にこだまする。そして長いこと続いた放物線は途切れ途切れになり、最終的には飛び散る水滴になった。その後ビッグディックはその粗末なモノをしまおうとすると・・・。
「誰だ!」
という声とともにビッグディックに向けて光が当てられた。光の中に浮かび上がったビッグディックの粗末なモノは、情けないことこの上なかった。
そして警備員が声を投げかける。警備員は二人組でマスクをつけ、銃を構えている。
「貴様、その一物からして男だな・・・。毛も生えてるところからして第二次性徴はもうすでに始まっている!俺は騙されんぞ!お前は“大人の”男だ!」
そこにスナッチから無線が入る。語気からは焦燥感が聞き取れた。
「ちょっと!どうすんのよあんた!ばれちゃったじゃないのよ!早く逃げなきゃ!」
しかし、ビッグディックはその言葉を意に介さずにやりと笑った。そして社会の窓全開でぶらぶらと粗末なモノをひけらかした状態でこう言い放った。
「そうだ! 俺の名前は“大怪盗ビッグディック”! この城からPTAを盗みに来たのさ!」
二人組の警備員の頭の上には? マークが浮かんだ。そして二人が後ろを向いてひそひそ話を始める。
「おい、知ってるか?そんな名前の怪盗」
ビッグディックはそれを聞いて目をそらす。そしてついに自らが起こしている醜態に気づいたのか、急いで股間のモノをしまい始める。
「いや、知らねえな・・・それよりあれ見てみろよ、あんなにひけらかしてる割にそんなに大きくねえぞ。実は小学生だったりして笑」
ビッグディックの顔の赤らみは取れ、徐々に不機嫌になっていった。警備員の発言が、おそらく彼の中のプライドを刺激したのであろう。頬は引きつり、目が血走り始める。そしてひたひたと一歩ずつ警備員のほうへと向かっていった。
その様子を察知したスナッチから無線が入る。
「あんた、何する気?ここで騒ぎを起こしたら入れなくなるかもしれないわよ!ちょうど相手は後ろを向いてるんだし逃げちゃえばいいじゃない!」
しかし、ビッグディックは普段では絶対に聞くことができない、静かな怒りがこもった声でこう返した。
「男にはなあ・・・どんな理由があろうと引き下がっちゃあいけない時があるもんだぜ」
無線からスナッチの大きなため息が聞こえた。
その変な意地のせいで高校退学になったのに、まだ懲りてないのかしら・・・。
と思っていた。
警備員はビッグディックの静かな怒りに気づくことなく、相変わらず後ろを向いてひそひそ話を続けている。
「あり得るな」
「だよなw」
「はははははははははは・・・フグウッ!?」
そこにはついに限界を迎え、二人のうち片方にカンチョウをお見舞いするビッグディックの姿があった。むろんマグナムハンドを使用して、である。そしてその警備員はどさりと力なく倒れこんだ。
「ひ!?おまっ・・・ちょ、ちょ、ちょっと待てよ!」
そしてビッグディックはもう一度にやりと笑うとおびえる警備員にじりじりと近づいていき、オグリングに表示された弱点(股間)に一撃アッパーをお見舞いする。渾身の力を込めたそれは見事に股間をとらえ、ぐちゃりという大きな音を立てた。
せめて彼のお袋さんがつぶれていないことを祈ろう・・・。
城中に警備員の絶叫が響き渡る。そして絶叫のこだまが終わった瞬間その音は警報音に変わった。そして城中に無線が響き渡る。
『先ほど警備員の絶叫が聞こえた!侵入者の可能性あり!各員警戒態勢を取れ!』
「ほらーこうなっちゃったじゃない!」
スナッチが無線で叫ぶ。そして我に返ったビッグディックは
「ど、どうすればいいかな・・・?」
「とにかくさっき裏口のドアを開けたからそこまで走りなさい!」
「裏口ってどこさ!?」
「オグリングに表示するから!早く!!!!」
「わ、わかった!」
そして城の中庭はサーチライトに照らされ、ビッグディックは地面に向けられた光の柱の間を縫うように走っていく。最初こそ、この方法でうまく言っていたのだが、ついに四つのサーチライトに照らされてしまった。ビッグディックが・・・
もうだめか!
と思ったその時!サーチライトの光が消えた。
スナッチがクラックして消したのである。ビッグディックはこれ幸いと、オグリングに表示された点に向けて疾走を開始する。あたりからは「見つけたぞー!」と言った言葉や、銃声などが聞こえた。
しかし、弾丸はビッグディックの小さな体をとらえることなくすべて外れ、明後日の方向へと飛んでいった。そしてスナッチはその姿に感心しつつ、ビッグディックの位置を確認していると、なんと目的地から遠ざかっていることが分かった。すかさず無線を飛ばす。
「あんた何やってるの!?そっちは逆の扉よ?」
「えっ!?そうなの!?」
「・・・・・」
こいつは地図の見方もわからないのか・・・
とあきれるスナッチだったが、現在ビッグディックの向かっているほうにも扉はあるためオグリングに表示させようとした。しかし、また間違えられても困る。ということであえて表示しないでおいた。そしてその時間を使い、その扉のクラッキングを開始する。
そしてビッグディックは扉を発見し、スナッチへと無線を入れた。
「なんか扉あったよ! やっぱり俺の行ってるほうでよかったんじゃん!」
スナッチはその勝ち誇った言い方に若干イラっと来たが、すぐに落ち着いてこう言った。
「・・・もうその扉でいいわ。開けたから入りなさい」
「おk」
ビッグディックはそう言って開けようと思案する。しかし開け方がわからずまごついているうちに追手が到着する。みるとその男は先ほど股間に一撃をお見舞いした警備員だった。マスクをしているが、股間を抑えてもじもじしているところを見るに間違いなかった。
「やっと見つけたぞ、怪盗・・・ビックディラン!お前を警察に突き出してやる!」
「俺は“大怪盗ビッグディック”だ!間違えないでもらおうか!」
いまだに自分の名前にこだわりを持っている彼は、捕まることより呼び方のほうが大事だった。その様子にスナッチがあきれていると突然城の扉が開いた。
彼女が開けたのである。
ビッグディックはしめた!と言って飛び込むとそのまま深部へと走り出した。警備員も飛び込もうとするがそれは上から降ってきた仲間によって邪魔された。
「「「「「御庭番五人衆参上!」」」」」
カッコよく決めポーズを決める彼らを警備員が怒鳴りつける。
「お前らなにすんだ!お前らのせいで侵入者を逃がしちゃったんだぞ!」
それに対して御庭番の一人、赤い服を着た男が反論する。
「これは我々の伝統の決まりだ。貴様ら平の者にはわからんだろうな!」
「何が伝統だ!その伝統のせいで逃がしちゃ意味がないだろ!」
そこに緑の服を着た男が割って入る。
「はーい、僕はレッドの言う事が正しいと思いまーす!」
「お前は黙ってろ!」
何やってんだこいつら......。
それを監視カメラで見ていたスナッチは困惑気につぶやいた。そして彼女は無表情で扉を閉めた。それに気づいた警備員がこう言い放つ。
「ふふ、この先は貴様にとって地獄でしかない!せいぜい気を付けるんだな!」
「そんなことよりこの問題の責任の所在はどちらにあるか決めようじゃないか!」
レッドがここぞとばかりに割って入った。
「うるせえ!」
警備員がレッドにつかみかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます