10.警備の仕事
己の種族の名を取りドールと命名された組織では、なんでも様々な仕事を引き受けるそうだ。
失せ物探しから殺人依頼まで、多種多様な依頼を受けるというから、もう何でも屋にでもなればいいんじゃないかとすら思えてくる。
今回の任務は、ある宝石展の警備を頼みたいという話だった。夜の19時〜22時まで開催される、極短い展示会だ。
展示会には多くのお偉いさんが来るらしく、警備は彼らの護衛も兼ねているのだとか。
依頼者は宝石商ダルカナ。海外ではわりと有名なお方らしいが、興味無いのでそこら辺はスルーした。
「ダルカナの作る宝石は、全てなんらかの形を模しているそうです。かなりの造形美のようですね。それらを見た人は口を揃えて言うらしいですよ。『まるで生きているみたい』、と……」
チラホラと視界に映る強面の男たち。
自分たち以外にも雇ったのか、何チームか存在している警備の者を尻目、ペットたちは足を止めて地図を確認。頷き合う。
「宝石展ダルカナ。会場北側はここですね」
「私たちが警備する部屋ですね」
「他にも何人かいらっしゃるようですが……」
「それほど用心深い人物ということでは?」
会話する女性組を視界、ペットは視線を、この場で唯一の男へと向けた。
赤い髪に赤い瞳を持つ彼は、あの時死を視た男だった。忙しなく辺りを見回しじーっとガラスケースの中の宝石たちを見るその姿は、心做しかウキウキとしている。
しかしそれはきっと、作られたものなのだろう。
ペットは哀れみの篭った眼差しで彼を見遣り、やがて顔を背けた。別に彼の感情が作り物でも、彼がどこぞで野垂れ死のうとも、自分には関係ない。気にするだけ無駄な話である。
「ぺ、ペットちゃん、だっけ? 危なくなったら守りますので、安心してくださいねっ!」
やや上擦った声をあげてそう言ったのは、癖のある長い茶の髪を高い位置で結い上げた、黒いヘアバンドをした女性だった。髪と同じく茶色の瞳をキラキラと輝かせて笑みを浮かべる彼女は、ペットたちに比べると高身長だ。165センチはありそうである。
白を基調としたシャツワンピに身を包んだ彼女は、その下から黒いスカートを覗かせている。靴はお洒落なヒール付きのもので、到底警備の仕事をする者とは思えない出で立ちだ。
「亜莉紗さん。ありがとうございます」
ペットは感謝を口に、その場で大人しく佇んだ。そんな彼女の隣、あの桃色とオレンジを合わせたような色合いの髪を持つ少女がそろりと寄る。
「緊張しますか?」なんて問うてくる彼女は、この仕事に就く前に自己紹介されたから知っている。美鈴だ。
ペットはゆるく、否定的に首を振ると、そのままじっと残りの一人──色素の薄い桃色の髪と瞳を持つ女性を見た。
癖のある髪を軽く右の位置でサイドテールにした、細身の女性である。
スラリとした体型の彼女は、暗い灰みの、赤系の色をした厚手のコートに身を包んでおり、コートの下からは白く長いスカートが覗いている。そして足にはコートと同色のロングブーツ。首からは黒いゴーグルをさげており、いつでもそれは装着可能なようだった。
「……なんですか?」
どこかキツイ口調で、訝しげに、向けられる視線に言葉を発した女性、カエデ。凄まじく不愉快そうな顔をしている彼女にゆるりと首を振ると、ペットは何事も無かったように前を向く。
「神壊さん、あまりうろつかないでください。キョロキョロしない」
「でも美鈴、この宝石凄いぞ! キラキラしてる!」
「そりゃあ宝石なんですからキラキラしてますよね。ほら、それよりもシャンと立つ。全く、幾つになっても子供なんですから……」
まるで母親と息子の会話である。
見た目確実に逆な二人なのに、交わしている言葉は完全に親子のそれだ。因みに分かっているとは思うが、この場合の親子とは美鈴が母親で神壊が息子という立ち位置である。
ペットは楽しげ(?)な二人の会話に息を吐き、時計を見た。
現時刻は18時。展示会開始は19時からなので丁度一時間後だ。
「ペット。なにか視えたらすぐに言ってください。いいですね?」
やや厳しい口調のカエデに、こくりと頷く。そして、集中。
いつでも力を発揮できるように、目に意識を一点集中させる。
何も無いといいけどな。
でも何か起こって欲しいな。
二つの気持ちが心の中でひしめき合い、半端な気持ちを生む。そんなペットの心情を知らぬ第四班の皆は、各自位置につきながら警備が始まるその時を待った。
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