07.死の宣告

 



 この世には三つの種族が存在する。

 一つは科学の力で発展を遂げる人間。一つは人間を殺すために闇から生まれるシャドウ。一つは人間により、シャドウ殺戮と愛玩用に作り出されたドール。


 彼らは互いを怨み、利用し、生きている。

 この、死ねば何も残らぬ世界で、今日も歪に、生きている──。



 ◇◇◇◇◇◇



 カランコロン。


 音が鳴った。黒と白を基調とした店内に響くそれは、陽気に、来客を迎えるように声を上げる。


 頭上で揺れたドアベルを視界、赤い長髪と、同様に赤い瞳を持つ少女──ペットは促されるままに店内へと踏み込んだ。疎らに人の気配を感じるここは、まるで隠れ家だ。

 店内の席は一席しか埋まっていないというのに、不思議な話である。


「いらっしゃいませー」


 と、愛らしい、それこそ鈴を転がしたような可憐な声が耳に届いた。視線を向ければ、そこにはみ空色の髪をツインテールにした少女が一人、笑みを浮かべながら立っている。


 赤い瞳の少女だった。身長はペットと同じく低身長。140〜145センチの間だろう。

 白いシャツと群青色のワンピースに身を包んだ彼女は、どこからどう見てもお人形。可愛らしいという言葉は彼女のためにあるものだと言われているようだ。しかも極めつけは左目の下の泣きぼくろ。これをお人形と言わずなんと言うのか……。


「ようこそダークアップルへ! 看板娘のありすちゃんです! どうぞお見知り置きを……」


 明るく挨拶していた少女が、そこでピタリと言葉を停止。じっと来訪者を見て、げんなりと肩を落とす。


「って、なぁーんだ、ゼロさんか。と、かわいい子もいますねぇ。その子が例の?」


「ああ。ペットというそうだ」


「ほへー、ペット」


 驚いた、と言いたげに目を瞬き、ありすと名乗った彼女はにこやかに笑った。ぺこりと一礼した彼女に、ペットも同様に頭を下げる。


「意思疎通は大丈夫そうですね。リーダー呼んできます」


「頼む」


「はいはぁーい」


 パタパタと駆けいく小柄な背中を見送り、ペットの前で一切表情を変えずに会話を成していた白髪の男、ゼロが軽く息を吐く。詰めていたものを吐くようなそれに、ペットはじっと視線を向け、そしてさり気なく彼へと寄った。ぴとりと寄り添うようにしても反応を見せぬ強固な彼に、彼女は内心舌を打つ。


 普通の男ならこれでイチコロの筈なのに……。


 思考していた少女は、そこでハッと気がついた。

 モノクロでかつオシャレさを残した店の中、焦げ茶のバンダナを頭に巻いた、赤い髪の男がいることに。

 バンダナと同じ色の黒いボーダー柄の衣服を身に纏う彼は、隣に桃色とオレンジ色を混ぜたような、不思議な髪色を持つ、色素の薄い水の色の瞳をした、白い衣服の少女を座らせている。その前方には小柄すぎてあまり見えないが、白銀の髪を持つ誰かが座っているようだ。


 男を目にした途端、ペットの頭に数多の音が浮かんでくる。それらは口々に言った。『神殺しのドール』だと。


 最強に近づくために創られた、感情も形成途中の未完成ドール。だというのにアレは既に独り立ちして存在している。こんな事があっていいのか。いや、あること自体間違っている。なぜならドールは人形。未完成のモノは動くことすら許されない。


「……ゼロさん」


 ペットは傍に居る男を呼んだ。男は黒い瞳を静かにペットへと向けている。


「あの方は誰ですか……? あの方はなんですか?」


 浮かんだ疑問を口にし、「いいえ、それよりも」と話題を変換。彼女は視た未来を口にした。


「あの方、死にますよ」


 それは、死=無意味なこの世界には相応しくない──一つの死の宣告である。

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