初任務
1-8 初任務
ジンが竜撃隊に入ってから数日が経過した。
初日こそドタバタしていたが、それ以降は至って普通の日常が続き、ジンは順調に竜撃隊の生活に馴染みつつあった。
その筈なのだが、
「エミリア先輩。探してた漫画見つかりましたよ」
「お~、サンキュ~。これでやっと続きが読めるよ~。あ、あとお菓子のお代わりよろしく~」
「おいライト。何かお前宛に荷物が届いてたんだが」
「あぁ、そういや今日来る日だったな。そこら辺に置いといてくれ」
「おーい、アリサ、この書類アークのところに持って行ってくれ」
「ちょっと待って」
何故か、この少女とだけは上手く馴染めないでいた。
「どうしたアリサ。オレちょっとエミリア先輩に頼まれてたお菓子の買い出しに行かないといかなくて、手が離せないんだけど」
「エミリアに敬語は分かる。ライトにタメ口なのも分かる。けど何で私には完全に上から!? 私はあなたの大・先・輩!」
「オレ年功序列主義だから、歳下に敬語はちょっと……」
「さっき思いっ切り歳上のアーク呼び捨てにしてた!」
「オレ尊敬出来る人にしか敬語は使えないから、お前はちょっと……」
「普通にさっきと言ってること違う! それだと私がエミリアよりも尊敬出来ないって話になる!」
アリサはビシィッと、すぐそこのソファで寝そべって漫画に読み耽ってるエミリアを指差してそう叫ぶが、ジンは「どうどう」と諌めて、
「エミリア先輩はちゃんと自分の仕事を持っている。『さーくる』とやらで出す漫画や小説を描く仕事で、あれはサボっているようで歴とした仕事の一環だ。
ライトもとっくに今日の仕事を終えた後だし。今帝都に残ってる竜撃隊の最後の一人は、教師の仕事をしているんだろう?
オレの知る中では、お前だけが自分の仕事を持っていない。少し違うと思うが、働かざる者食うべからずだ」
「そ、それは、私は……」
図星を突かれたのか、アリサの勢いが減少し、しどろもどろになって続く言葉を探している。
「それ牢獄で税金で生かされていたお前がよく言えるなぁー」と、傍で聞いていたライトとエミリアの思考がシンクロしたのは、また別のお話。
「いや~、随分アリサも表情豊かな子になりましたな~」
「ジンが来る前と比べたら、確かにその通りだな。本人は絶対に否定するだろうが」
ジンとアリサの戯れを温かい目で見守るライトとエミリア。
二人の言う通り、アリサはジンが来る以前と比べて別人のように変わった。
以前の彼女は、会話は必要最低限。自分から話すことは滅多になく、感情を昂らせることなど稀だった。
それが今ではあんなに感受性豊かに。
まるで成人した娘を見て咽びなく父親のように、エミリアは熱くなった目頭を押さえていた。
「私だって、仕事さえ貰えばきちんと熟す! 馬鹿にしないで!」
「だから頼んでるんじゃないか。この書類をアークまで頼んだって」
「私はあなたのパシリじゃない!」
「面倒臭いなこの子」
「話は聞かせてもらった!」
毎日恒例となりつつあるのジンとアリサの喧嘩が始まるかと思いきや、部屋の扉が大きく開け放たれ、胡散臭さ100%の竜撃隊隊長が入室してきた。
「丁度よかった。ほれアーク。判子待ちの書類」
「何度も俺のことは隊長と呼べと言っているだろう。まあいい。お前達に任務が回ってきたぞ」
「「「っ!」」」
その場にいた全員の目の色が変わる。
竜撃隊に回される仕事というのは、正規の帝国騎士軍でさえも手こずる厄介な案件。当然、その難易度に容易なものなど一つもない。
「といっても、これは前々からライトが追っていた案件に、ようやく上からの指令が来たってところだな。お前に任せるよ、ライト」
「りょーかい。やっとお許しが出たか」
アークから指令書の束を受け取り、ライトは澄ました顔でそれを流し読みしていく。
「……なるほど。好きにしていいんだな? 隊長」
「ああ。お前がしたいようにするといい。――だが、最後に書いてある条件はしっかり守れ」
「…………」
ライトが言われるままに指令書の最後の記述に目を向けた途端、その手にビリッと稲妻が走ったかと思えば、手に持つ依頼書が真っ赤に燃え始め、一瞬で焦げクズとなった。
「……隊長、あんた本気か?」
「ああ、本気だとも。よろしく頼むぞ。頼りがいのあるライト先輩?」
いやらしい笑みを浮かべたアークは、またもいがみ合っている最古参と新人の方に視線を向けるのだった。
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