第3話
イベント当日、よく晴れた休日の街並みを抜け、イベントスペースに入ると、すでにたくさんの人々が集まっていた。
指示されるままに列に並び、周りの女性たちが期待と興奮にざわめくのを聞く。つられて緊張してきた。きちんと報告できるような経験を、これからわたしはできるんだろうかと考えながら、友人の推しの前にたどり着いた。
彼は、映像や画像で見た通りの、爽やかな青年だった。身長が高いから、見上げるような格好になってしまう。
彼はわたしに、旧知の友達に対するような親しげな笑みを向けた。
わたしは、薄手の手袋をした両手を体の後ろに隠すようにした。
「すみません、手が不自由で――」
言い終わる前に、彼はわたしの右腕をつかみ、乱暴ではないがしっかりとした力で引き寄せると、わたしの右手に右手を添えながら左手で握手した。
「ありがとう」
こげ茶色の瞳がわたしの目をのぞき込むように見る。一瞬、手袋が功を奏したのかと思った。しかし、意識が視覚から手の触覚に移った瞬間、体に電流が走ったような衝撃を感じた。
わたしは彼の手を振りほどき、逃げ帰ってしまった。
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