『小さなお話し』 その120

やましん(テンパー)

『今年の夏はひとあじちがうぜ』

 『これは、ある日の、夢を、そのまま、お話にしたものです。ただし、いくつか、くっ付けております。つまり、フィクションであります。』


       🚃💨



 たしかに、今年の夏は、ひとあじ、いや、ふたあじ、ちがうな。


 あるばんのことです。


 やましんは、過去にタイムスリッパしました。


 いや、タイムスリップです。


 しかも、かなり、危ない世界です。


 まだ、両親がぎりぎり、健在で、いっしょに電車に乗ってお出掛けです。


 しかし、大きな川に沿って走っておりましたところ、車内放送がありました。


『このさき、非常に、危険な区域に入ります。おきをつけください。』


 危険な、と、言われましても、なにが危険な、のかが、わかりません?


 どうやら、川が、溢れそうならしいのです。


 そりゃ、危険ですが、みな、平然としています。


 しばらく行くと、あたりは、海か、湖になっていますが、電車は、そのまま、進むのでした。


 これは、許されること、なのでしょうか。

 

 しかし、この電車は、たいへん、豪華な電車で、中には、コンサートホールや、お風呂がありました。


 そこで、いまのうちに、お風呂でも、入ってこようか、と、やましんは、大浴場の車両にでかけたのです。


 なんてことない、普通のお風呂やさんみたいですが、そこは、電車の中なので、妙に細長いのです。


 『これは、また、すごいなあ、あまり、豪華なものではない。その、普通さが良いなあ。』


 とか言いながら、広くはない、湯船にひたりました。


 それから、空いた洗い場を探しました。

  

 湯船から、遠い方が、つまり、入口に近い方がすいておりました。


 『どちらまで?』


 ちょっと、年上らしきおじさまが、尋ねてきたのです。


 『終着まで。』


 『ああ、なるほど。』


 しかし、やましんは、終着がどこなのか、知りません。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


 さて、やがて、よるになりました。


 コンサートが始まりますが、やましんは、両親がいるので、チケットは持っていましたが、遠慮したのです。


 最初の音だけ聞いて、ホールから出たのです。


 曲は、ブラームス先生の、『ピアノ協奏曲第1番』でした。


 冒頭の、あの、かっこよい、壮大な響きがしました。


 (このあたりは、不思議なところで、ホントに聞いてるような、抜群のリアルさがありました。もしかしたら、付けたままだった、古いボーズのラジオCDで、鳴ったのかもしれないです。)


 なんで、電車のなかに、大きなコンサートホールがあるのか?


 そこは、まあ、夢ですからね。


 ホールからでると、また、電車の車内です。


 いつもの、ように、母が気分が悪いと言って、寝てしまいました。  


 周囲からしたら、またか、と、いう感じなのですが、本人は、必死なのです。


 体調がわるいというのは、本人には辛いことですが、見た目が変わらない場合は、あまり、理解されないものです。



 やがて、電車は、街のなかに、入って行きました。


 すると、上空に、巨大な、宇宙船が現れたのです。


 それも、かなり、たくさんです。


 そうして、地上を、攻撃してきたのです。


 さあ、大変です。


 回りには、たくさんの人がおりました。


 電車は、いつのまにか、通勤電車になっていたのです。


 やましんは、両親の、大荷物をかき集めました。


 集めても、集めても、なかなか、まとまりません。


 間もなく、電車は、駅に止まりました。


 やましんは、両親を連れて、駅に降りました。


 宇宙船が、空から、どんどん、爆撃してくるのです。


 これは、困りました。


 ホームに、荷物が溢れていました。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 

 やましんは、いつのまにか、一人になっていたのです。


 『あらあ、明日の朝から、また、仕事に、行かなければならない。間に合わないよ。』


 やましんは、焦りました。


 宇宙船は、いなくなりましたが、ひとりぼっちになり、おうちまで、歩いてかえらなくては、ならないです。(?)


 荷物は、あす、車で取りに来ることにして、山の上の自宅に、ぽつぽつ、歩いてゆくのでした。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 実際は、そんなに、高い場所ではないのですが、そこは、夢ですから。


 長い、時間、歩きました。


 大きな池や(小さいのは実際、ありますな。)、噴火口みたいな(ないです)、ところを、遥かに見下ろしながら、ようやく、頂上に至りました。(実際は、上がるのに、歩くと、10分くらいかかります。)


 すると、そこは、なぜか、10年以上は、経っていたのです。


 やましんのおうちが、あった場所は、廃墟になっておりました。


 ご近所のかたに、なんとか、聞こうとしますが、誰も知り合いがいません。


 いつの間にか、あたりは、雪にうもれたのです。(あらま、夏だったでしょう?)


 ああ、奥様もいないし、誰もいません。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 しかし、そこは、夢ですから、やましんは、またまた、いつの間にか、故郷の街に、戻りました。


 道をひとつ、曲がれば、そうなります。


 やれやれ、帰ってきたか!


 ああ、見慣れた街角、仲良しのおうち。

 

 しかし、ないのです。


 やましんの、おうちが、またまた、ない。


 おかしい。


 やり直し。


 しかし、ないわけです。


 ないものは、ない。


 もう一度、あの、丘からやり直しにすると、そこは、今度は、学生時代を過ごした街になりました。


 下宿のおばさんがいます。(実際には、すでに、亡くなったと聞いております。) 

 

 懐かしい部屋が、そのままです。(実際には、今は、駐車場になっております。)


 一晩、泊まり、翌朝、出勤しようといたしました。(実際には、不可能です。)


 しかし、なんと。


 もう、8時です。


 仕事は、8時半からですよ。


 遅刻だあ❗


 さあたいへん。


 やましんは、あせります。


 電話しなくては、……… 通勤は、片道80キロあります。(これ、ほんと、だった時期もあり。)


 ああ、また、遅刻だあ。


 悶え苦しむやましんは、なかなか、目が覚めません。


 あ、階段を、誰かが上がってくる。


 母が、ばたばた、まわりでやっている。


 すこし、目が覚めるけれど、すぐ、夢に引き戻される。


 どっちが、ほんとうか、わからない。


 また、誰かが、回りをうろつくのです。


 だれ?


 お父さんかい。


 声を出しているのがわかります。


 誰なんだい?


 手を伸ばして、いつも、探しました。


 手は、しかし、誰にもあたらない。


 それでも、まわりで、はっきり、声がします。


 確かに、聞こえるのです。


 どれかは、きっと、本当らしい。


 ばたばた、暴れまわるのですが、なかなか、真実に当たらないのです。


 あはあ、お手洗いに行きたい。


 もれちゃうよ。


 起き上がろうとします。


 しかし、まだ、体は、簡単には、起き上がらない。


 それを、何度も繰り返します。


 

 やっと、実際に、体が起き上がり、階段を降りるのです。


 仕事は、辞めたんだ。


 もう、行かなくて、いいんだよ。


 お手洗いから帰ると、疲れきっていて、また、寝てしまい、同じような夢の中に、はいってしまうのです。 


 毎日が、そうです。


 いつまでたっても、終わらない。


 この、続きは、職場で、叱られる夢になります。


 針の雨に撃たれたりも、いたします。


 怪獣に、たべられそうにも、なります。



 この、繰り返しが、三年以上、終わらないのです。


 今も、終わってはいないのであります。


 まだ、これも、たぶん、きっと、夢の中なのです。


 僕には、現実はないのですから。


 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


            了


 


 



 


  


 


 


 


 

  

 


 


 

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『小さなお話し』 その120 やましん(テンパー) @yamashin-2

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