第17話 一変する

六階玩具屋「トイマニア」

「あー。幸の方でなんかあったんだな?そうなんだな?なあ、誰でもいいから教えてくれよ」

 普段は子供が笑って走り周って、親におねだりしたり、駄々をこねて床に寝転がる子供で溢れる玩具屋だが、今は大の大人が複数人流血して転がっている。携帯電話に垂れるストラップを指に掛けてクルクル回す寿嘩はまだ息をしている男の目出し帽を剥ぐと質問する。

「ここのリーダーは何処に居る?目的は?」

 頭を揺さぶられる男は必死に喉から声を絞り出す。

「ふぎゃ……ぐ、ぅぅぅ………ふ、くしゅうぅ」

「フクシュウー?一体誰に?」

 男はニヤリと笑うと白目を剥いて意識を失ってしまった。

「チッ。…まあいいや。どうせ殴ってやるし」

 けたたましい警報の様な音が寿嘩を襲い、思わず身を低くする。そこで音の正体は無線機からの受信音だと気づき、一つ取りイヤホンを耳に近づける。

【———、に居る店長を一階の吹き抜けフロアに連れて来い】

 何かの命令だろう。これはチャンスかもしれないと口角を上げる。

「すみませ~ん。てんちょー居ますか?」

 怯える店員達の輪に入って声を掛けると若い男性が手を挙げた。

「はい……」

「なんかテロしてる人が一階の吹き抜けフロアまで来てほしいそうなんで、一緒に行きましょうか」

「………はい」

 怯えながら答える店員に頭を下げると倒れ伏すテロリストの手から離れている大きめの銃を手にして店長を先頭に店内を出た。












六階遊戯スペース「遊戯王」

「はぁ……はぁ……」

「はぁ…助かった。ありがとう」

 迅は月魅の痛む足を優しく擦る。月魅は息を切らして倒れ込んだ。重蔵の心臓は早く脈打ちし、そのまま立ち尽くす。舞瑠は全貌を見た。ナイフを持った男は頭を強く打ちつけ倒れ伏した。

 月魅が優と書店員が居なくなったのに気づき、六階のフロアを足を引き摺りながら逃げた所に舞瑠達が気づき、舞瑠が護身用として持たされていた拳銃を向けて威嚇している間に重蔵が壁を蹴って男の頭に踵落としを決めた。

「……何があったの?」

 そこに優がやって来た。その何事もなかったような顔に月魅は溜息を吐いた。

「お前が俺にテロリストを押しつけたんじゃねーか」

「ごめんね。ねえでもさ、これはかなりイイもの手に入れたと思わない?」

 そう言って見せたのは鍵だった。

「何の鍵だ?」

「書店員さんと頑張って地下の電源室の鍵を手に入れたんだ。重蔵のパルクールキックがあれば俺達の力だけでここのフロアのテロリストを倒せるかもしれない」

「ええ…?」

 突然そんな事を提案されても乗れる程ノリのよくない一同はお互い顔を見合わせる。

「……俺凄い活躍出来るっていうことだな?」

 それに重蔵は楽観的に考える。

「まあ、そうなるね!」

「じゃあやるぞ!」

 不安など感じさせない顔でそう言うと決まりだと優は月魅を見る。

「月魅も行こう!地下で照明をいじってくれればいいから」

「はぁ~……まだ俺は許してねえからな」

 そう言うとスッと立ち上がり隠密行動をする。







一階吹き抜けフロア

 食品生活品売場に居た客をここに集めて見張りを二階に配置させる。

 幸はなるべく知り合いの近くになるよう移動し、見事京極奏と隣になった。

「京極君……喧君にね、助けを求めたよ。だから、もう少ししたら状況が良くなるかもしれないよ……?」

 声を潜めて伝えれば、奏もそれに応じて答えてくれる。

「そっか………!それなら安心だねっ…………」

 そう言っていると、エスカレーターからエレベーターから黒尽くめの男等が各店舗の店員を引き連れて吹き抜けフロアにやって来た。そこには見慣れた人物が居た。

「あれ……?あれって………」

「ん…?…。…アレ?…あれー?」

「おい!見知った面の奴が来たぞ!」

 男は少女を連れて来た男を褒めると、連れて来た人達を置いて黒尽くめの人はエレベーターで戻って行ってしまった。

「私を連れて来てどうしようと言うの?」

 連れて来られた少女は生意気に男に言う。

「まずその生意気な言葉遣いを直さないとな」

 そう言うと男は少女、園城麗華を拳で殴った。

 大人のパンチを食らい、お嬢様はその屈辱に泣くと思っていた大人達の前で彼女は拳の威力で体勢を崩すも、涙を溜めて男を睨(ね)めつける。

「タマキのビンタよりも痛くはないわ!」

 ピクリと反応して男は倒れている麗華の襟を乱暴に掴むともう一度殴った。

「ソイツも許さねえ…!お前をブッ殺したら玉城(たまき)も殺してやる!」












エレベーター

「まさかな~こんな事になるとは思わなかったんだよ。まあ、ゴメンナ」

「痛かったぁぁぁ………」

「いやゴメンナ、マジで」

「オレにも言ってくれないか?一応被害者なんだから」

「おー、ホーカもゴメンナ」

 定員二十五人に近い人数の大人達と血の海の上で寿嘩はテロリストに扮していた伊勢魁人と牧藤法果に頭を軽く下げる。

「…てかさ、キミ等は何でこんな事してるんだ?」

 伊勢魁人は頬に汗を垂らすとぎこちない顔で言った。

「あ、愛に……頼まれて」

 愛という単語を聞いて眉を顰める。

「愛にぃ?アイツに何頼まれたってんだよ」

「自分を人質として一階の吹き抜けフロアに連れていけって」

「はぁ~ん?…………んで、ホーカちゃんは?」

「オレはいつもの店に犯人が襲って来たから慌てて対抗して、…気絶させて、無線機を身に着けていたからそれで状況を聞いていたら一階に来いって言うからこれは装うしかないなと思って店長さんには申し訳なかったが、連れて来て、エレベーターに乗って七階を待つまでの間に急に乱闘する裏切り者が現れて今に至る訳だが」

「はーい、すみませ~ん」

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