第18話 数十分のテロ活動

七階家具屋「かぐら」

「あ?」

 フロアに異変が起き始めた。些細な事だが人質の革命者にとっては大きな出来事である。

 フロアの照明が点灯するのだ。

「二回目だぞ。どうなってるんだ?」

「さ、さあ……担当の方に連絡しますか?」

「いい」

 フロア全体が暗闇と化す。希望にとってこれはチャンスと考えていた。

「琉梨、消灯に合わせて近くのテロリストにタックル出来る?」

「希望ぃ……そんな物騒な作戦嫌いじゃないよ?タックルが成功したら何したらいい?」

 ひそひそと話すのは突発的な作戦。成功する方がかえって難しい作戦を琉梨は過信して希望の言葉を待つ。

「出来たらだけど、銃を奪って威嚇してほしい。…出来そう?」

「出来る出来ないよりも義務感が強いね……私やるよ」

 そうして二人は次の暗転を待つ。

 鼓動が早くなる。希望と琉梨だけじゃない、集まるフロア全体の鼓動が一体化したような音の響きに神経がジリジリと削られる。

 商品の時計は詳しい時刻を示さない。

 腕時計の秒針を待って二分十七秒、

暗転。



「行って!」

 希望の指示に琉梨は動くが謎の押される圧力によってテロリストにタックルをすることは出来なかった。

 希望は本来聞こえる筈の琉梨のステップは耳にすることはなかった。

 何故なら琉梨の靴音ごと無数の雑踏でかき消されたのだから。

 次々と聞こえるのは銃声と男達の苦曇(くぐも)る声。希望と琉梨には状況がイマイチよく分からなかった。

 再び電気が点いた時に二人は困惑した。

 それは老若男女問わず客も店員も銃を構えていたであろう男達の上に覆いかぶさって動かないのだ。転がる銃には発砲した煙が銃口から微かに浮遊する。

「え……?」

 皆が同じ思考を持っていたとしてもこれはあまりにも異常過ぎる。

「希望…。コレ、どういう事ぉ?」

 人間の下敷きになっていた琉梨が自ら抜け出し服を叩いても私にはこの状況が全く理解出来ない。

「んん?」

 希望は何も出来ず、立ち尽くすしかなかった。フロアはまた暗闇となる。






























エレベーター

「俺はさ、屋上から制圧しようと思うんだよ。んで、最終的にはデパートにいるテロリスト共をブッ倒すんだが、二人は何すんだ?」

 エレベーターの中で魁人と法果の動向を聞くが二人も特に予定は無いようだ。

「なら一緒に屋上から制圧するか?」

「喧嘩弱いんで遠慮します」

「オレは観戦したい派」

「あっそー」

 その言葉を最後に血生臭い空間で沈黙が続く。エレベーターの階のボタンを誰かが全部押した所為で各階の扉が開く。幸いエレベーター近くを警護しないテロリストはおらず、その合間に店長を下ろして何事もなく閉まるボタンを連打して屋上を目指す。

 やっと屋上に着くとそこはもう三人の出る幕は無かった。

「…………あんれー?」

 屋上の屋内スペースに群がる利用客は特に怯えていない。屋外の方では雨雲が移動しており、雷も鳴っていた。そして一番気になるのは雨が降りそうな中寝転がる黒尽くめの男だった。

 参ったなと思いながら顔見知りの少女が近くに居たので声を掛けた。

「依厭あ、無事だったのか」

 自分がどういう格好でどういう場所に立って居るのかを忘れて。

 熊井依厭は呼ばれた声にご機嫌な顔で振り向いて一度目を見開く。そして、その正体が分かり、返答する前に女性達の悲鳴で屋上もパニック状態になる。

「あ、あ、あ。失礼しました~」

 魁人が慌てて閉まるボタンを押して八階ボタンを押す。

「何してくれるの?!驚いてたじゃん!」

「いやー。気づかないもんなんだな」

「そういうことじゃないぞ。下の山を一度何処かに隠すか階段で何とかしよう」










六階画材店「森羅堂」

 召されればいいのに。心の中で毒を吐き続ける青年、天塚(あまつか)司(つかさ)はテロリストが警戒する森羅堂の店内のレジカウンター前で人質として地面に座らされていた。

「さっきから銃声が聞こえるが誰か暴動してんのか?」

「こんなに銃持った男が大勢配置してるのにな。よっぽどの馬鹿なんだろうよ」

 その馬鹿が此処に来てくれないかな。

 司は内心悪態をつきながら自由の身になれるのを待っている。

「この電気も何とかならねえか?毎分毎分チカチカして気持ちが悪い」

「分かるぞその気持ち。だが我慢しろ」

 何度も起る照明の点滅に嫌気が差したと愚痴るのも束の間、暗闇の中で何かが動いている。しかも四足歩行の生物が暗闇の中を縦横無尽に蠢いている。それが何かも司は把握することも出来ずにただ息を殺してその暗躍する何かを見据えることしか出来ない。

 テロリスト達は自分の仲間が襲われていることも知らずに呻き声のする方向に銃を構えたり、身を低くして様子を窺う。




「…………は、?」

 司は最初に倒れたテロリスト達を嘲(あざけ)った。そして次に、重蔵が自身の目の前に居ることに面喰ってしまう。

「鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をしているな!もう安心だぞ!」

 そう言うと、安心感を持たせてくれる笑みを作った。

「でも、どうして………」

「優の作戦でな!俺が消灯している間にパルクールキックでテロリスト達を気絶させたという訳だ!」

「そ、そうなんだ」

「それとな、PCショップにガクマナと甘楽(かんら)が居たんだ。それで今自慢のコンピューターテクニックでこのデパートの生活品売場のゲートだけ開けるそうだ」

「警察はもう来てるの?」

「勿論だとも!さ、取り敢えず地下に行こう!あそこは安全な所だ」

 そう言うと笑顔でエレベーターを目指す。




一階吹き抜けフロア

 四回目の点灯で事件が起きた。

まず、麗華を殴っていた男の腕が綺麗に吹き飛んだのだ。次に彼が痛みを理解するよりも前に左太股と右足首に熱が滾った。

 脂汗を掻き発砲した場所を探して睨む。

「たああああマああ゛あきいいいいいいあ゛あ゛ああああああああ!」

 二階の吹き抜けフロアで狙撃銃を構えて見下ろす冷たい目の男。燕尾服の揺れる横では行動不能になっている仲間が居る。更に辺りを見渡せば、このフロアに居る筈の仲間の姿が無い。

「警察だ!抵抗せず大人しくしろ!」

 更に封鎖させた筈のゲートをいつ掻い潜ったのか、見張りも居た筈だが、と考えながら意識ある主犯は数人の武装警官に運ばれた。

「おおい!巫山戯(ふざけ)るな!糞ッ!コノ、タマキぃぃぃいいい!!!」

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