第14話 四月二日 夢前デパートにて
七階 家具屋「かぐら」
銃声に全員が注目する。反響する銃声はどのフロアまでも響きまるで輪唱のようだった。
「おい動くな!動いたらここにいる人間全員ぶっ殺すぞ!」
デパート全体に響く男達の常套句(じょうとうく)にこれはただ事ではないと各フロアに居る買い物客は震える。
「まずは携帯の電源を切ってこの袋に入れろ!早く」
撃たれるのが怖くて皆携帯を取り出して電源を切っていく。
「琉梨…」
「ふぅむ…しゃーないな」
それは琉梨と希望も例外ではなく、渋々携帯を取り出して電源を切る二人は徐々に近づいて来る目出し帽を被った男の持つ袋に携帯を入れそのまま男を睨んだ。
「おい!一歩でも入口に近づいたら撃つからな!」
そう言って家具屋の入口付近を四人の男が銃を持って待機していた。
「ふぅ……こういう時こそヨシカが居ればなぁ……」
「ヨシカって?」
「おい!そこの女二人!静かにしろっ」
「ひぃいん!すみませ~ん」
銃を向けられ大袈裟に怖がる琉梨に男は舌打ちをして他の客に銃を向けて緊張感を高まらせる。
「私が知ってる中で二番目に喧嘩が強い人」
六階 遊戯スペース「遊戯王」
「ね、ねえ。そろそろ放してあげて…?」
おろおろした様子で舞瑠は彼に言葉を掛ける。
「どうして?」
それに男は疑問を投げかけると今まで黙って様子を見ていた迅が本質的な事を呟く。
「死んじゃうかも……………」
目出し帽を被った男を羽交い絞めにして銃を所持しているという優位的な立場である筈のテロリストは腕を上げる隙も無く銃を持っていた左手首を捻られ現在、酸素を求めて必死に自身を拘束する男の足を蹴る。
「それは大変だ。仲間が何人居るか聞かないと」
そう言うと彼はパッと男を解放する。助かったと安堵したと思うも束の間でもう一度息の根を止められる苦しみが再びやってくる。
「うぐっ……!!!ゅ!」
「でもよー迅。コイツは悪者だぞ?善良な市民に銃向けて脅してきやがったんだぞ?だったらよー、返討ちに遭う事を少なくとも想定しておかないとじゃないか?俺はそう思うぞ?あ、大声出すなよ?」
「っ!ッッッッッ~ッッッッ!」
男の気道を右手だけで絞め塞ぐと肘鉄だけで右腕の骨を断裂骨折させる。
「止めてあげないか?流石に可哀想だ」
「あー、待ってくれ。あと片足………」
ゴキュッ!と嫌な音を立てて足の関節を有り得ない方向に折られ気絶した。
「気絶したよ?!だ、大丈夫かな?」
「ヤッベ。あと何人居るのか聞かなかった」
「そこではない気がするぞ寿嘩(よしか)」
喧(かまびす)寿嘩(よしか)。その名前を聞いて震えない血気盛んな男児はこの夢前町には存在しない。
何故なら彼は男の中で一番喧嘩が強い男として名が知られているからだ。
「まあいいか。コイツの目出し帽とこの黒い上着借りたら何とか近づいて殴れるか」
重蔵は呆れて溜息を吐く。
「おい、この銃護身用に持ってけ舞瑠」
床に落とした銃を拾って舞瑠に渡すと情けない声を出した。
「えええ………犯罪者にならないかな?」
「お前が一番弱そうだから持っとけ」
「重蔵はともかく、迅は俺と同類じゃない?寧ろ何も話さない迅の方が弱そうじゃない?」
そう言うと、迅は舞瑠の鳩尾に一突きをしてダメージを与えた。腹を抱えて痛い痛いと悶える舞瑠の鳩尾を罪悪感からか小さく撫でる。
「な?お前が一番弱い」
「うぐぅぅう………ごめん迅。ホント、撫でなくて平気だよ。もう痛くないから」
そう言うと迅は手を離した。
「よし、テロリスト共を返討ちにしてくるわ。重蔵後は頼んだ」
「御意ッ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます