第12話 レイレイとミケちゃん

「大丈夫?重くない?一旦寮でその制服置きに行ってもいいんだよ?」

「大丈夫。重くないから」

 実際は少し重い。何でだって制服一式だもの。生地もしっかりしていて高級感すらあった。

「じゃああともう少し案内したら寮に行っか」

「うん」

 再び歩き出すと変わらぬテンションでガイドをし始める。

「お向かいの薬局を過ぎると魚屋さんになりまーす。そして左は宝くじ屋さんでございまーす」

 一番人が密集している場所に足を進める。琉梨はここの人にも知られており、店主さんから声を掛けられる。

「そしてそしてー……このお惣菜屋さん、老父母の味は一度食べないと損なのだ!」

 急に大声を上げるから主婦の方々が琉梨に注目する。その後にクスッと笑みを溢して何も言わず立去る。

「………琉梨だ」

 惣菜屋から出て来た人に声を掛けられた。その人は周りに居る主婦の方よりも随分と若く見えるが、同学年と考えるよりはあまりにも大人の色気や雰囲気のある女性だ。

「レイレイ今日は何買ったのお?」

 琉梨がその人に近づくと少し背が高いことが分る。それと琉梨と比較することによって目の前に居る美人の幸薄い顔と大きな膨らみが際立つ。

「奮発してサラダメンチカツ」

 抱えるレジ袋からその揚げ物の入ったポリスチレン素材のフードパックを琉梨に見せると輪ゴムを取り湯気の立つ惣菜を持つ。

「お口キャッチ」

「ん~~~~♡」

 自分から釣られにいく魚みたいに琉梨は揚物をパクリと食べる。アツアツだろうけれどハフハフしている琉梨の口から漏れる美味いの言葉にこちらも小腹が空いてくる。

「……はい」

 彼女は察してくれたのか私にサラダメンチカツを口元まで持ってくる。

「わ、あっ………んん!」

 自分でそれを持って味わう。温かい衣の中は肉汁と野菜の甘味が凝縮されてとても美味しかった。

「美味しい…!」

「ふふ……はいティッシュ。…またね」

 琉梨と私にティッシュ一枚を渡すとそのまま商店街を出た。

「あの人誰かのお母さんだったりする?」

「ううん。同い年のレイレイだよ」

「あれが同い年か………弓紀さんといいあの人といい……田舎町って意外と凄いね」

「でしょー」

 大口でサラダメンチカツを食べた琉梨は貰ったティッシュで指と口を拭くと向かいの駄菓子屋に私を優しく連れて行く。

「……よぉお嬢サン。駄菓子屋での立食いはオーケーだよー…お?琉梨も付いているのか」

「ちょっとー!先に私のことを言ってよう!」

「顔馴染みはなー、営業妨害なんだなー」

 若葉マークのバッチを付けた店員はそう言うと私に爽やかな笑みを見せる。

「うみゃぁ………あ、希望ちゃんだぁ…ふぁ~」

 横から可愛らしい声が聞こえる。窓から照らされる小さな日光で昼寝をしていたらしいミケちゃんが居た。彼女にもう一度会えるなんて……とっても嬉しい。

「ミケちゃん…!」

「みゃあ…いらっしゃーい」

 猫耳の様に外にはねる毛先が本当に猫みたいだ。

「ミケちゃん…お昼寝してないでお店人が集まるように手伝って~?」

 カウンターからミケちゃんに声を掛ける男は頭を掻く。ミケちゃんは私と琉梨を見ると指差して言った。

「二人来た」

「お菓子を買ってくれるお友達だよ~」

「……ガムいかがですかー?」

「百個買います」

 思わず口走ってしまった。

「おっとー?脳味噌バグった?希望」

「大人買いする人は大好きですよ~。千円ぽっきり、頂きま~す」

「何味のガムがいい?」

「イチゴ味」

「まいど~」

 一番良い笑顔で小さなカゴを掴んでガムをホイホイと入れていく。

「いや~持つべきものは親友だな~。な?ミケちゃん」

「うん!」

 ミケちゃんの笑顔も可愛い。買って良かった。

「俺独間(ひとま)創人(そうと)。また来てくれよ~?」

「私も居るからね~」

「絶対来るよ」

 ミケちゃんを視界に入れたまま言う。視界の端では苦笑いを浮かべた創人がまた頭を掻いている。

「はい。千円頂戴」

 財布から取り出し、創人に渡すと、小さなレジ袋に入れたガムを私に渡す。

「まいど~」

「バイバイ~」

 ミケちゃんに手を振って私は駄菓子屋を出た。

「もう帰ろう!」

「え?何そんなに怒ってるの」

 頬を膨らませてズンズンと商店街を歩く。

「何ナニ?どうしたの?」

「べっつにー?……ミケちゃんにデレデレしちゃってさー」

 面倒臭い。

「ヤキモチとか……琉梨い?」

「う~ん?」

「一番琉梨が好きダヨー」

「私もっ!」

 すぐに機嫌を取り戻すと素通りしたお店を説明するが、店内と店名を見ればある程度分かるのでそこまで気にしていない。

「さて。本当に帰ろう」

「は?」

「もう帰り道にあるスポーツジムくらいしか説明することないし……もう寮の部屋くらいしか案内することないし……」

「…そっか。………ありがとう琉梨」

「んん?」

「案内してくれて」

「ふふーん♪どういたしましてー♪」

 もう少し暗くなってから寮に行くのかと思っていたけれど、明日も休みがある。

 明日はもう少し暗い時間まで遊んでもいいよね。

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