第10話 踊る犯人
「じゃあ私は別の所で遊んでるね」
「おう。店出る時は誰かに言ってくれよ」
空気を読んで弓紀さんと奏が離席して別のフロアへ行く。初めから立って観戦していた優は私の視線に気づくと微笑み返した。
「ここお邪魔しまーす」
伊勢魁人が隣に座る。迅が黙々と途中だったカードを回収してもう一度カードを整理してテンをきる。その間に月魅がルール説明をしてくれる。
「ルールは簡単。ババカードの犯人を最後まで持っている人間を当てれば勝ち。それにもいくつかルールがあって、発言権は探偵カードを持っている人のみ。それに犯人カードはトランプカードみたいに回るから誰が持っているかを見抜くこと。それと共犯者カードを持っている人はどんな形であれ場に出したら犯人チームにならないといけないこと。あとは……情報共有とか操作とか、噂とか色々あるけどカードに書かれているから大丈夫」
「へー」
「人狼ゲームとババ抜きが合わさった感じって覚えておけば大丈夫だよ」
魁人の言葉にゲームへの期待感が沸く。
「私人狼ゲームとかしたことないからちょっと楽しみ」
「そろそろ配っていいんじゃない?」
力の呼びかけに応じて高速でテンをきっていた迅は本物のディーラーの様にカードを配っていく。
「よし。第一発見者は誰だ?」
「はいはーい!」
手を挙げると第一発見者と書かれたカードを場に出す。説明文には最初に出すことと、どんな事件だったかを話すこと、と書いてある。
どんな事件だったかを話す?
「聞いてよー!私のことをキモーイだのウルサイだの言ってガラスのハートに刃物を刺した人がいるんですよー」
「事件か?」
「事件にすることでもない話しないで」
手札を確認すると探偵カード一枚、情報操作カード一枚、噂カード一枚、一般人カード一枚だった。
「犯人を見つけて謝罪させたいんです!探偵さん捕まえて下さい!」
「俺からでいいか?希望」
「え?あ、うん」
そっと出されたカードを確認する。取引と書かれていた。
「琉梨。交換だ」
「ええー!?やだあ、めちゃくちゃイイ手札だったのに」
そう言いながらも渋々と交換する。成程、少しドキドキしてくる。
「うわー、もっといいカード無かったの?」
「お前に言われたくはないわ。雑魚いカード寄越しやがって」
パシッと鳴る音に参加者全員が目撃者カードに注目する。そして月魅の隣をじっと見て順番に口を開き出した。
「…………」「居たのか舞瑠」
「そこに居たか舞瑠」
「舞瑠居たぁ!」
「はあぁい舞瑠」
「………ぇぇー」
「誰か舞瑠のことを認識してやれよ」
流れる様な言葉にビックリする。そもそも月魅の隣に舞瑠が居たなんて私も分らなかった。舞瑠は半泣き声で言う。
「居たよ!もう。迅見せてぇ…」
「………」
黙ってカードを見せる迅におずおずとする。
「おお…成程」
おずおずと言うより手札の内容に驚いている。犯人カードでもあったのか、それとも探偵カードを持っていたのか。私にはまだ分らない。
「……」
黙ったまま場に出したのは探偵だった。
「うわマジで?!」
「早くない?」
「犯人舞瑠か?」
「違うよ!」
「……」
スッと指差す先に容疑者は居た。
「やっぱ舞瑠か」
「いつもいつも悪口ばっかり言いやがって!謝罪しろー!」
「違うんだって!」
「アリバイはあるか?」
「ある」
スッと出すアリバイカードに皆が声を出して落胆する。
「あのカードはね探偵に犯人だって言われた時に出すカードでね、出したらその時だけ見逃してもらえるんだ。でも犯人カードを持っていなくても出さなくちゃいけないんだ」
「そうなんだ」
魁人からの解説を聞いて見逃したが、舞瑠のターンが終わり今度は迅のターンに回ってきたらしい。
「迅が寝返ったァ!」
「裏切り者ぉ!」
「……」
迅は黙秘を続けるままターンは力に回る。
「それじゃあここらで踊らせましょうか」
力が出したカードは噂カードで内容は全員で右からババ抜きをしろと書かれていた。
「はい、回して回してー」
力から順に右隣の人からカードを一枚抜いていく。私の番になりカードを一枚引くとたくらみカードがやってきた。そして琉梨から探偵カードを持っていかれた。
どうしよう。こういうカードが来るとドキドキして仕方ない。
「もう少し踊らせようか!」
重蔵はニヤニヤと意地悪く笑うと噂カードを出して右隣の人からカードを引く。私の所には情報操作のカードがやってきたが、引かれたカードも情報操作カードだったので変わりない。
「んじゃあほい。そーだな………迅辺りか~?」
魁人は目撃者カードを出すと席を立ち迅の座席まで移動して手札を確認する。
「ほおー?成程なーありがとう」
意味深な発言にドキドキしてくる。指に汗がじわじわと出てくる。
「希望だよー?」
「あ。うん…」
何を出せばいいのか今のところ分かってはいないが、一般人だけは消費したいので場に出す。
「やーい一般人ー」
「いいじゃん別に…」
寧ろ琉梨の方が人を小馬鹿にしている気がする。後でげんこつしよう。
「はーいはーい!皆さん目を閉じてくださーい!」
琉梨が出したカードは私の見たことないカードだった。少年カード?
「まずは目を閉じてくださーい………希望ぃー?」
「ごめん」
言う通り目を閉じると琉梨は囁くような小さな声で言う。
「いいですかー?犯人の方だけ目を開けてくださーい。いいですねー?はい」
「さーん」
「にぃーー」
「いーーーーーーち………あいっ!」
「ウルサイ」
「流石にうるせぇ」
「んなんですとぉ?!」
隣で急に大声を上げられた衝撃をいつか教えてあげたい。
「よし。終わらせるぞ」
月魅がそう言うとまた私の知らないカードを出してきた。
「迅」
指名された人間のカードから犯人を引けば犬の一人勝ち。犯人カードを引けなかったらその引いたカードを周りに見せないといけない。月魅は迅の二枚の手札から一枚慎重に引いた。
「…………」
月魅は沈黙したままアリバイカードを皆に見せる。周りからはクスクスと笑い声が聞こえる。
「恥しいなあ!月魅」
「ウルセ……」
「月魅の恥を俺がカバーする…!」
意気込んで場に出したカードは探偵カード。迅を指名するも先程のアリバイカードを場に消費するだけである。
「ごめん………」
「いや……ナイスファイトだった」
二人して落ち込んでいる。きっと迅が犯人なのは皆の間では確定しているのだろう。でも本当に彼が犯人なのかと疑ってしまう。それにさっきから隣でニヤニヤ笑う魁人が怪しい。
「取引しようか」
ここで力が出した取引カードに戦況が変り始める。
「ありがとう」
どういう意味でのありがとうなのか分らぬまま、ターンは重蔵になる。
「うーわ……こわー」
情報操作カードが出た。これは左隣、の人にカードを渡さないといけないカードだ。私は情報操作カードを琉梨に渡す。そして魁人が私にくれたのは探偵カードだ。何故だか胡散臭い。
「もしかしてさ、俺が一番カード多いよね。うわー困っちゃうなー」
そう言うとアリバイカードを出す。探偵から指名されていないのにここで出すことにはあまり機能しないと思うが。それとも何かの作戦か。
そして私のもとにやってきた探偵カード。きっと犯人は力にあった。それが今は移動している筈。ならば……重蔵に渡っている筈。迅に何度も犯人が回って来る筈ないし、……いや力の所にまだあるかもしれない…どうしよう。
「希望ーー?番だよー?」
「分かってる……」
取り敢えず探偵カードだけ出す。
「わお…」
反応をするのは力だ。怪しいんだよな……でも、初対面の人に言うのも失礼だろうけれど反応がフェイク臭い。
「正直…重蔵か力で迷ってる」
「違うよ?」
「違うぞ!」
少し狼狽える重蔵と不敵に笑う力。どっちか持ってる筈。あの余裕の笑みはアリバイカードを持っているからか?どうなんだろう……。仕方ない。
「犯人は力……合ってる?」
「残念。アリバイカードを持っているんだ」
「やっぱり……」
失敗するとこんなにも悔しいのか。舞瑠と月魅の落胆さも何だか分かる。
「希望。取引しようか」
「うん………」
重蔵には悪いけれどたくらみカードを渡した。私が貰ったカードは犯人カード。
私は力に踊らされただけだった。
「もう良く分かんなくなってきた」
ずっと怪しいと思っていた魁人は全然怪しくなかった。取引カードを出して月魅とカードを交換し合う。
「……」
噂カードを出す。あまり犯人カードを持ちたくない。
琉梨に渡った犯人カード。琉梨は特に何も反応を示さなかった。そりゃあ当然だ。私には目撃者カードが回ってきた。
「探偵カード!発動っ!犯人はー………お前だ魁人ぉ!」
君だよ琉梨。
「残念ながら犯人ではありません」
「くそう!」
あーあ、私の判断ミスだ。
「情報操作だ。回せ」
「まだ踊るのー?」
文句を言う琉梨だが明らかに勝利を確信して大口を叩いている。おかえりたくらみカード。
「情報操作……」
「またかね!」
二回目の情報操作カードに琉梨の犯人カードはきっと月魅に渡った筈。それを私が言えないのが辛い。噂カードを見て悔しさが増す。
「…………」
「え、またぁ?」
無言で出された情報操作カード。今度は舞瑠に渡るのか。迅は手札が無いので参加せず、舞瑠のカードは力に渡る。一般人カードが渡ってきた。
「俺が犯人でした」
「くそー……」
「巡りに巡った結果だな…力と迅の勝ちか」
「最初俺が犯人持っててさ。迅に渡って凄い展開早かったよね」
「一番ショックだったのが力か重蔵が犯人持っている時だよ……」
「ゴメンネ。俺ほとんど持ってなかった」
「ごめんな!犯人カードを渡して」
「あー!それでか!私犯人だ勝てる!と思ったのにさー……」
「一周して俺の勝ちでしたーありがとう」
何だかんだで楽しめた。
「見ていて凄い楽しかったよ。皆カードの引きがいいんだね」
優が小さく拍手をする。
「はぁ~あ。負けた負けた。…んじゃあバイバイ」
「嗚呼。またな」
琉梨から告げられる別れの言葉が少し寂しい。もう一回くらいやりたかったが、今日は私の為にこの町を案内してくれるのだから仕方ない。
「バイバイ琉梨と希望」
丁度近くに居た弓紀さんが私と琉梨に気づいて手を振ってくれる。
「また明日ねー」
「…またね」
また会いたい。というよりも遠くから見かける位でいいのだけれど。
アミューズメントパークを出ると商店街のこの雑踏と賑わいがやけに静かに聞こえる。
「はい。それではーガイドを再開しまーす」
入口付近で演じたバスガイドが再度登場する。
「右手に見えますのが、薬局です」
「見ての通りね」
「そして左に見えますのが古着屋でございまーす」
「……現代呉服?」
古着屋の店名を見て引っ掛る。現代呉服ってなんだろう。しかも古着屋?
「現代呉服って言うのはね、小廉(こかど)さん曰く今私達が着ている日本製の服らしい。だからと言って古着を扱っている訳でもないんだけどね。ここから制服買ったし」
「……そう言えば私まだ制服受け取ってない…!」
「じゃあ今言いに行こうよ!」
琉梨に引かれて私は学生服を着たマネキンがやたら多い間を抜ける。
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