第9話 ゲームのお誘い
「行こ行こ」
電光看板が眩い。こんな煌煌としてるお店は初めてかもしれない。
「何味にする?カップよりもコーンやワッフルの方が美味しいよ」
看板には沢山の文字列が規則的に並んでいる。それも全部アイスのフレーバーのようだ。
「なにこの数」
「三百六十六種類あるよ」
「え……試したの?」
「うん。……気分や期間限定とかで同じのも食べるけど大体は制覇したよ」
「お腹とか壊さない?」
「ヘーキヘーキ」
並ぶカウンターの横に並ぶ単色やグラデーションされたフレーバーばかりに視線がいく。チョコレート、オレンジ、バニラ………ここにあるのは三百数十種類のうちの二十種類しかない。
「今はこの二十種類だけなの?」
「ううん。売上順で上位の二十種類をここに置いてあるんだ。期間限定のもあるよ」
「ふーん」
「味は決めた?」
「うん……。ハニーレモンにする」
「いいねー。私はクッキーバニラにしよー」
「いらっしゃいませーメニューはお決まりですか?」
明るい女性店員の声。前の客は既に商品を受け取って席に戻っていった。
「ハニーレモンのコーンで」
「クッキーバニラで同じコーンでお願いします」
「かしこまりました。合計金額572円になります」
「はーい………割勘でオケ?」
手に持つ財布を覗き込みながら呟く琉梨に当たり前だと返す。
「えー………200、……86円……かな?」
「大丈夫」
二人で財布の中の金額を確認してキャッシュトレイに並べ置く。
「……はい。丁度ですね」
そう言って代金をレジに入れている間に別の店員さんと交代する。
「はい。ハニーレモンとクッキーバニラでございます」
「「ありがとうございましたー」」
連携の取れた店員さんに少し感心する。アイスを受け取り店内を出る。
「さあて、商店街まで行きますか」
賑わいを見せるデパートを出て大きな横断歩道を渡ってから徒歩三十分。沢山の民家を抜けて現れたのはデパートとは別の人情味ある賑やかな通り。琉梨の勧めで町役場で住民票の手続きをして玄関を出てすぐ目に入る一本道を老若男女が右往左往している。
「ここが商店街だよ!」
「スゴイ……あと意外と町の規模って大きいよね」
「ここは元々が大きいからね」
一本道に近づくにつれ建物の大きさがどれほど大きいかうかがえる。
「右手にご注目くださーい」
バスガイドのような声色で右手を建物に向けて差す。
「右に見えますのが美葉(びよう)三姉妹のサロンでございまぁす」
右を見ると三階建ての美容院がある。一階から美葉萌(はじめ)のヘッドサロン、美葉冷九(つめぐ)のネイルサロン、美葉蜜玄(みつくろ)のドレスルームと看板に掲げてあった。
「左に見えますのは首領(ドン)の財宝でございまぁす」
「ドンザってここにもあったんだ。羨ましいな」
「いーでしょー んでほら。あそこのゲームセンターで皆集まってゲームするんだよ」
少し駆け足で斜め右を直進しながら説明する大きな施設。店名は大遊戯場『アミューズメントパーク』と書いてある。入口のガラス扉からでも分かる同年代や小学生達が集団を作って遊んでいた。
「ちょっと見てみる?」
「うん。そうだね」
引き寄せられるように向かうとゲームの大合唱と周囲の喧騒、落ち着きのない雑踏で鼓膜が震える。
「お、来たな祭り女」
聞き覚えのある低い声に二人で声のした方を見る。そこにはデパートで会ったオールバックの男と後ろでワイワイとゲームをしている弓紀さん達が居た。
「おいそこの四人衆自己紹介してやれ」
オールバックの男、確かツッキーと呼ばれていた人が声をかけた知らない四人を連れていく。
「自己紹介はい。伊勢」
「はいー。こんにちは新入居者さん。俺伊勢(いせ)魁人(かいと)。異世界人って皆から言われてるんだ。よろしく」
ヘラヘラとした表情で笑う。
「最初は俺が言いたかったなー。小榎(こえの)力(ちから)、よろしくっ」
「忍尾谷(しのびや)重蔵(じゅうぞう)だ!本名だ!よろしくなっ!」
「………」
立て続けに三人の自己紹介を聞いたところで視線は一番左端にいる青年に注がれる。
「……宇天迅(うそらじん)。…………よろしく」
極力話したがらない人らしく、ポツポツと話した後彼のことを知る周囲の人から良く言えたなと褒められている。
「……あ。今日から越してきた夢咲希望です。ょ、よろしく」
「なあ二人もゲームに参加しないか?」
「えー?したいのは山々なんだけどー、今希望とデート中だしー」
「キモイ。ガイドだったでしょ?」
ガーンと落ち込んだ顔をする琉梨は頬を膨らませると三人が囲んで座っているテーブル席の間に座ってふんぞり返る。
「あーあー。何か一戦だけやりたくなってきたなーへえー犯人は踊る?やりたくなったなー」
その言葉を聞いてニヤニヤとツッキーは笑う。そうだ思い出した。
彼の名前は鬼道月魅(きどうつきみ)だ。
「……私も一戦だけいい?」
「嗚呼勿論」
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