第6話 綺麗な女性とダンスホール
「ありがとうね。マナ」
「どーいたしまして!」
「ねえ本当にドライヤー買わなくていいの?」
「いーの」
買い物を済ませ店員にテレビの配送をお願いした後私と琉梨はまだ店内に残るというマナと別れることにした。これでもかとドライヤーを勧めてくる琉梨にしつこさを覚えながらマナに手を振る。
「……ほんとにぃ?」
「いいんだって…」
「後悔しない?」
「しないよ」
呆れながら琉梨の顔を見ると彼女は何かに集中している。
その何かに気づかぬ前に琉梨が来てと手を引く。
「何?今度は何処に連れて行く気?」
「とんでも美人の所っ」
琉梨と共にエスカレーターを駆け上がる。
八階ともなると流石に人口密度が一気に低くなる。着いたのは誰も居ない大広間だった。
「美人でしょ?」
厳密に言えばグランドピアノを弾いている大人びた女性以外に人は一人も居ない大広間。そこに私と琉梨はやって来た。
美しい流し目の仕草に見惚れる。
綺麗な赤…まるでワインみたい……
彼女の瞳が此方を捕えると一瞬微笑み優しい音色から軽快で楽しい音色が会場に響く。
琉梨はノリノリでその曲に合わせて舞ったり小躍りしたりする。そのヘンテコな動きにクスリと笑う。段々軽快さが増す音は琉梨を楽しくさせると次第に私を巻き込んでダンスする様になった。分らないステップを踏みながらピアノの周囲をクルクルと回る。
まるで子供だ。それでも私も何だかんだ楽しいので自転と公転を繰り返し繰々(くるくる)回る。
「ふぅ……楽しかった」
ピアノの演奏を終えた彼女が笑顔で言う。最後にポーズを決めた琉梨は綺麗な女性の隣に立つ。すると彼女は椅子から立ち上がる。私は彼女の綺麗なスタイルと長い手足に見惚れる。
「初めまして。琉梨から聞いてるよ。同じ学校なんだよね」
「そうそう!」
「あ……」
今まででも琉梨から紹介されるお友達は皆、顔が綺麗だったり格好良かったり可愛かったりする人が多いが、この人だけ各段に違う。完璧に美麗な人で私が会話していい人ではない。
「……堅苦しい子って聞いてないけど」
少し困った顔をして隣に居る琉梨に話す。背が高いから彼女は視線を下に下しているし琉梨も視線を上にして話している。圧倒的な身長差にこの人の胸の膨らみを若干疑っている。
「ユッキーミのそのモデルスタイルにあんぐりしてるんだよ」
「……」
琉梨がニヤニヤしながら言うと弓紀さんは無言でポーズをとる。綺麗だ。
「シャッターチャンスだよ」
「あのねユッキーミ。貴女がね、そんなぶっ飛んだことしちゃうと希望困惑しちゃうから」
「モデルコワイ……」
「ほらちゃっかり撮影しながら震え慄いているよ」
「琉梨がニヤニヤしてるし人誰も居ないからチャンスかなって」
「チャンスじゃないよーもうっ」
よくわからない時間が流れている。何だこれ?この人本当に同級生?この人が?私と琉梨と同じ同い年なの?そんな訳…そんな訳が無い。
「そろそろ簡単に自己紹介しようよユッキーミ。希望の意識を戻す為だ」
「月下(つきした)弓紀(ゆみき)。誕生日はハロウィンの日で十五歳。血液型はO型。身長178センチメートル。体重はNG。スリーサイズもNG。バストサイズはCとDの間。よろしく」
「簡単にとは言ったけど要らない情報多くない?」
「必須情報」
「同い年だぁ………」
琉梨に背中を撫でられる。彼女はニヤニヤと小馬鹿にしておらず優しく微笑んでいた。こんな時こそ優しくしないでほしい。
「…ねえ今何時?」
不意に聞いてくる弓紀さんに慌てて携帯電話を起動させる。時間は九時五十七分だった。
「九時五十七分です」
答えると弓紀さんと琉梨があっと声を揃える。
「今日ソーちゃんだよね?」
「そうそう京極の日だ」
「え?」
「ありがとうね」
弓紀さんは私の頭に手を置いて微笑むとピアノホールを後にしようとする。不覚にもキュンキュンしてしまいその場で放心していると琉梨の強引な引きが私の意識を繋いでくれた。
「待って私達もイベント見に行くの!」
「そう?じゃあエレベーターで行こうか」
弓紀さんに心を奪われている私はイベントの内容を知らずして七階から一階まで降りる中窒息死しないか考えていた。
呼吸はなんとか出来た。琉梨で隔ててもバラの良い香りがして心地好かった。
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