第3話 デパートの中のヨミノクニ
「はぁ………」
「えぇ?まだ余韻に浸ってるのぉ?もうデパート来たんだからシャキッと切り替えてっ」
余韻が残る中見上げるデパートは圧巻だった。
まず建物が大きく、開店前なのにも関わらずお客の数も多いのだ。
「……結構来るんだね」
「そりゃあね。町一番の巨大施設だもの」
どこかで似た表現の言葉を耳にした気がするが今は何も言わない。
「そろそろ?」
「あと二分」
「早いね」
「あれ、祭華(さいか)だ」
今日は他人の声をよく聞くなと感じる。これも琉梨がこの町の人達と親交が深いからだと幼馴染ながらに関心する。声のした方を見ると誰が声を掛けたのか分らない。何せ周りの人だかりが多いのだ。
「カネキヨちゃんどこだぁ?」
「此処だよ」
また別の方向から声が聞こえた。顔を向けると今度こそその人が琉梨と見つめ合っていた。パステルブルーの髪色が異様に目立つ男を何故見つけられなかったのか私は少し疑問に思った。
「カネキヨちゃんがデパートに居るって珍しくね?なになに眼鏡壊れたぁ?」
冗談ぽく言う琉梨にカネキヨと呼ばれた男は眼鏡をくいっと掛け直した。
「ご名答。ちょっとまた視力が落ちてね」
「そっかぁ。お大事にねー」
ほほほと微笑む琉梨とカネキヨさん。ふとカネキヨさんが此方をちらりと見たがすぐに逸らした。何だろうか。
「……あ~。カネキヨちゃん人見知りだったね~ごめんごめん。ノゾ、こちら丸井(まるい)兼清(かねきよ)くんで人見知りちゃんなの。んでカネキヨちゃん、こちら夢咲希望。私の幼馴染」
「……」
兼清は一切喋らないもののペコリと一礼した。
「どうも」
お互い特に話すこともなく無言は周りの賑やかさによってそれは打ち消される。
「…じゃあ学校でね」
「うん。ばいばい~」
手を控えめに振るとそれから一度も此方を振り返らずに歩き去った。
「カネキヨちゃんと仲良くなったらすーぐお話出来るから大丈夫よん」
そう言って琉梨は笑顔を見せる。別に気にしてはいなかったがうんと頷いてみせる。
「さあって、何処見る?やっぱ一階か?」
「そうだね」
大きなエントランスホールはとても綺麗で都会や都内の駅内と併合しているショッピングモールみたいだった。開店したばかりだというのにエレベーターやエスカレーターには人だかりが出来ている。そして奥の大きな舞台も気になるが右側に広がる食品コーナーに触れるのが妥当だろう。
「食料品コーナー行かない?」
「六階行こか」
「…………ぅん」
別に私の提案を聞いていなかったのなら仕方ないしそもそも食料を買うほどの用事もないし…、と黙って琉梨の後に続いた。
「六階には何があるの?」
エレベーターで二階に上がるまで待機する中、手すりにもたれながら琉梨は話した。
「娯楽フロアって書いてあるから趣味とかそういうのの買い物が出来るよ?ほら、CDとか手芸とか?楽器屋は別だけどね」
「へー」
私はそのまま琉梨の世間話を聞き流しながら二階三階とエレベーターを乗り継いだ。
そして私はあることに気づいた。
「ねえ。このデパートってさ、ジャンル毎に区分けされていたりする?」
「お。よく分かったねー。そうなのさっ!一階は何時も人が買い物してる食料品や日用品、あと小さめのお花屋さん。二階はクリニックフロア。三階はカフェやお茶を楽しんだり音楽そのものを楽しみに来てくれる人向けのフロア。四階はレストランフロア。五階はファッションッッフロア」
「今の要らないと思う」
「てへぺろ☆」
周り後ろを確認する。人は疎(まば)らながらも琉梨の声量は大きくてクスクスと笑う人達が分る。
「え。どうした?今の何処にネタを挟む必要あった?」
「いやー。ネタを挟まないと死んじゃう病でさ」
「精神科行きな?二階にないの?」
「残念ながら精神科病院は隣町まで行かないとー」
溜息が漏れる。そして後ろの笑い声にじわじわと恥しさがこみ上げる。琉梨は能天気に笑うが恥しさを思わせない顔をしている。
「恥て馬鹿」
「ば、バカぁ?!」
「うるさい」
「あイテっ」
思わず頭を叩く。それは周りから見ればコントに見えるようで更にクスクスと笑われた。
早く六階に着いてほしい。
「ほら希望着いたよ。娯楽フロアー♪」
琉梨は両手を広げて私に六階の広さを自慢しようとするが、恥しさがまだ残る私はそれを無視して先に進む。
「ちょいちょい何処行くのお!?」
思いもよらない所へ移動したのだろう。琉梨に手を掴まれた。
「まずは何処行くか教えてよお!」
「……」
「希望ぃ……?」
顔を背けてやる。琉梨は何故そう行動するのか分らないようであたふたしている。
いい気味だ。
「じゃあヨミノクニに行きますか?」
心臓が止まりかけた。
死神の低音が私の急死を宣告しに来たのかと。
「ちょっとぉ!止めてよっ希望がポカンとしちゃったじゃん」
琉梨がそう言ってくれなかったらきっと私は現実に戻って居なかった。
また琉梨の知り合いだろう。顔を琉梨の方に向けるとそこには長身で眼鏡を掛けた男性が立っていた。
彼が死神らしい。
「おはようございます。死神です」
「なあに言ってんだいユうトーセっ」
バシバシと男の背中を叩く琉梨に男はハハハと笑う。
「彼女はきっと私のことを死神だと思っているみたいなので」
しかもこの人は読心力もあるようだ。
「死神とは思いましたけど……今はエスパーだと思ってます」
そう言うと笑顔で男は握手を求めた。私もそれに応じて彼の手を掴む。
「凡人の聖羅(せいら)優(すぐる)です。よろしくお願いします」
「夢咲希望です。凡人の」
すると話の中に割ってきた琉梨がボケをかました。
「大天才の祭華琉梨でっす☆」
「天災の間違い」
それに即答出来た私は大分彼女と居る時間が長いなと実感した。
「んなこたぁないって!ねえ?優等生ちゃん」
琉梨は優に助け舟を求めたが優は此方側の人間なのかもしれない。
「ビートるりちゃんの間違いだと思うよ」
「んマ!?………野菜のてんさい?」
「大正解」
涼しい顔をして琉梨をイジったからかもしれないけど。
「んねえ!本屋さん行こうっ!」
琉梨はぷりぷりと怒りを表して私と優の手を引っ張り本屋のある場所まで移動した。
「琉梨の怒り方は可愛いね」
「やめなってすぐ調子乗るから」
「ホント?」
「ほら」
琉梨のパッと明るい顔を私と優に見せる。
「もっかい言って?」
「可愛いね」
「やめなってうるさくなるから」
顔芸が段々ウザったくなる。
「ほらぁ」
「可愛い?」
「う~ん、ふふっ……流石(さすが)に可愛くはないね」
笑いながら優が言うと一転して暗い表情をする。
「可愛くないって言われた」
「当たり前じゃん」
「希望の浮気者っ」
「何に対してよ」
「書店着いたよ」
そうこうしているうちに本屋に着いた。
琉梨は二歩先に進み、優も一歩店内に入る。私はその二人の頭上にある大きな店名に目を向ける。
「読み…乃国…」
「読み乃国ー♪」
「ふふ。死神じゃないでしょ?」
優の言葉に数分前の出来事を思い出す。『ヨミノクニに行きますか?』それはこの書店に行こうと提案していた言葉だった。
「あぁー………そういうことなのね」
「じゃあ私は暫(しばら)くここで物色していますね」
そう言うとスタスタと優は私達から離れた。
「あれ優」
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