第27話 目の前に
ナイトが呟いた声はミカエルに聞こえたようで、振り返った女神は蒼白した顔をシロ達に見せる。
「シロ…ナイト…メイジ…」
操り人形の糸が途切れた様に膝から崩れるミカエル。慌てて三人は駆け寄る。
「ごめんなさい……わたくし、何も出来なかった」
「何があったんですか?」
メイジが尋ねると、ミカエルは目を伏せて答える。
「私も敵の大群を撃退する為に出陣していたの。しばらくして余裕が出来て神殿に戻ってみると【ゴブリン】三体がマテリアルジュエルを盗んでいたの。慌てて阻止したんだけど、素早くて取返せなかったの。丁度その時フランが来てマテリアルジュエルを取り戻してくれたんだけど、フランごと連れ去られてしまったの……私、何にも出来なかった……」
顔を覆うミカエル。シロは拳を強く握り、言い放つ。
「俺が助けるよ!待っててミカエル様っ」
シロは握り拳をミカエルに見せつけて、ゆっくり歩く。
メイジとナイトはミカエルに微笑むとシロの後をついて行く。
シロは神殿を出ると、笑顔でメイジに言う。
「人探し…ていうか、【ピクシー】探しの魔法とかってある?」
「そんな気がした…ムーブシング」
メイジがクルクル指を回して言うと、指にはキラキラ光る粒が出現して何処かに導く様に遠くに伸びる。
「神殿の後ろに隠れたのかもしれないわね」
「よし、行こう!」
シロは剣を出して神殿の後ろに向う。粒を辿って行くと、緑の生い茂る中にポツンと穴の開いた箇所があり、そこに粒が続いている。
「明らかに……この中だよね」
「明らかだね」
「これが明らかじゃなかったらこの粒は無いわよ」
シロは躊躇なく穴の中に入ると、あまりにも暗くて上を向く。
「暗いわっ!」
「メイジ、何か光る物ない?」
「ランタン作る?」
「作って!暗すぎて辛いわ!」
メイジはウエストポーチから小瓶と杖を取出して細工をする。
「シロ はい」
「はーい」
メイジから受け取った即席ランタンはキラキラと輝き、数メートル先の穴の奥を照らしてくれた。メイジとナイトも穴の中に入ると、ぎゅうぎゅうになって苦しくなった。
「シロ前に進んで」
「分ったよ!」
シロは果敢に前進し光の粒を辿る。そして空間に慣れると更に速足になって奥へと進む。
「はあー……なっがい!」
「疲れるねー」
「なんでこんなに長いのよ!」
あまりにも長い道のりに先程までの元気はどこへやら。三人とも重たい足取りで前を歩く。
「ん?なんだアレ」
やっと行き止まりが見えたと思ったが、なんとも奇妙な石の壁がシロ達の前に立ちはだかる。
「…何の生き物だろう?」
「……トラクト?」
メイジの言葉によってシロとナイトはピンとくる。
「ぽいわ~」
「言われてみれば、トラクトだよね」
三人はトラクトにも似た石の壁を触って襲わないか確かめる。シロは剣で石を叩いてみると、少し傷が付く。
「ホントに石だね」
「一体どうやって運んだのかしら……」
「石のトラクトは斬れないのかぁ~……ん?」
「ん?」
ナイトはシロの言葉に反応して石の壁の周りを見ると、一際(ひときわ)輝く石粒を見つける。
「綺麗な石ね」
「…取っておこ」
ナイトは喜びながら石粒をバッグにしまう。それと同時に石の奥からポロポロと音が聞こえてきた。三人は何処かの石が崩れていて、隙間が作れるのでは?と思いそのまま待つが、それは危険な選択だった。
急に黒い大きなフォークがシロ達の眼前に突き出される。それを機に同色のナイフとスプーンが顔を出す。
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