第26話 脱出

 その一部始終を見届けたアングはマーボに問う。マーボは笑顔で答える。

「この先の障壁の導火線ですっすぐに点けたので激突する前に爆発すると思いますよ!」

 アクセルは冷や汗を垂らしながら尋ねる。

「その火薬の量はどれくらいなのかな?」

「穴が開くくらいの量なので巻き込まれるかもしれませんねー」

 それを聞いてシロは膝から崩れそうになるが、次々と渡される点火された爆弾を投げないと、激突する前にこの列車が爆発するのを恐れて、無我夢中で投げつける。

「アングさん!危険ですって!」

「うるせぇ!突っ走るぞ!」

「あー、もうっリョーカイ!全速全身だぜっヒャッハー!」

「ひぃぃぃぃいいい!」

 アクセルは制限していたスピードを一気に加速させて、障壁に衝突する時間を削る。誰もがそのスピードに耐えきれず、列車のどこかにへばり付いて耐える。

 ドカンボカンと今まで聞いたことない爆音が鼓膜を震わせて強い衝撃とサウナ以上に熱く感じる炎の中、トロッコ列車は岩壁を突き抜けて鉱山の山から脱出する。

 重力によってトロッコ列車が先に落ちて渓谷のゴツゴツした岩場に激突して滝に真っ逆さまになる。涙目になりながら、【ドワーフ】達は渓谷に落ちていく。


 あれから水が服に浸食する感覚や砂利の突起を感じる事無くシロ達は着水する。水音が聞こえるのに服が濡れていない。何故だと思い目を擦ると、理解出来た。

「は?桶?」

 シロ達は運良く桶の中に納まって助かったようだ。

「予想的中♪良かった、怪我ひとつもなくて」

 ニコニコしながらフェイングがシロ達に近づき、手を差し出す。

「ありがとう。皆を助けてくれて」

 穏やかな笑みにシロの気持ちもスッと落ち着いてこちらこそ、と呟いて手を取って立ち上がる。やっと感じる冷たい水が服の中に滲みる感覚に鳥肌が出て、シロは生きてると実感する。

「おーいフェイングー。俺を先にするべきだろ?」

「いやいや、英雄さんが先だよ」

 そう言ってフェイングはアングの手を取って起き上がらせる。

「それより、シロ。お仲間さんが探してたよ。行ってあげて」

「わかった!」

 シロは強く頷いて渓谷を後にする。

 






神殿前にて

「シローっ」

「シロっ…」

 労働して蓄積された疲労の為か、今まで体験した驚愕と恐怖を味わった為なのか、シロは朝から見ていなかったナイトとメイジのボロボロになって闘った姿を見てウルッと目を潤す。それを見てナイトとメイジは足早に駆け寄り

「どうしたの?」

「どこか痛い?回復する?」

 心配されてシロは慌てて否定する。

「いや、違うんだっこれはホッとしたというか、会えて良かったというかさ、なんていうか・・・」

 それを聞いてメイジとナイトはポカンとするが、しばらくするとギュッと二人でシロを抱締める。それがまたシロの心にトクン、と沁みる。

「っ!そんな事より!ミカエル様に報告しなきゃっ」

 シロは我に返って二人から離れると事の重大さを報告する。

「大変なんだよっ!俺の労働場所で新種のトラクトが出現してさ!もう、疲れたし、ミカエル様に報告しなきゃだし……」

「僕も昨日の夜からトラクトに襲撃されちゃって大変だったよーでも、スゴイねっ【ワーウルフ】だからかな?回復早かったんだよね~」

 ナイトは驚いてシロの体をペタペタ触ると、自分の傷口があったであろう箇所をなぞる。

「それは凄いわね。私は早朝からトラクトの大群が神殿の森に攻めて来ていて食い止めるのに精一杯だったわ」

 そう言ってメイジはボロボロになった服を見せつける。シロとナイトは困り顔でありがとう、とお礼を言う。

「……っ!?ミカエル様に報告!」

  シロ達は神殿を前に目的を思い出し神殿の中に入る。

 

 神殿の中は思ったよりも暖かく、来たものが穏やかな気持ちになる気がした。

その中心に立ち尽くす麗しい女性を見てシロは目の保養だと心中悟った。

「ミカエル様……?」

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