第24話 洞窟の先

「これだ」

「早く上ろう!」

 そう言って、シロは先にハシゴに手をかけてスイスイと上る。ミネルヴァも急いで後を追う。

 視界が暗い中、二人は運搬班のトロッコ置き場に着いた。

「ふぅ~……スニーキングミッションだぜっ」

「いいから早く退いて!」

「ああ、ごめん」

 シロとミネルヴァはトロッコ置き場を見渡す。シロがロイと乗っていたトロッコが埃を被っているのもあれば、戦闘重機の様な形状をしたトロッコまである。

「なにこれ?戦車か?」

「センシャ?それもシロの言葉かな?」

「あ、まぁ…そんなもんだよ。お!ガトリングガンだ!なんでこんな所に…ひゃー、やっぱカッコイー」

 シロはガトリングに似た装飾品の乗ったトロッコを触る。

「そんなことしてる時間は無い筈だよ?」

「あ、そうだった……早くロイ達を助けなきゃっ」

「分岐点はここを上に進めば着く」

 そう言ってミネルヴァは先頭を切って足場の悪い階段を上がる。シロはというと、名残惜しそうにガトリングガンを見つめてミネルヴァの後を追う。



渓谷鉱山 稼働トロッコ分岐点区画にて 

「「「……」」」

 運搬班の皆は沈黙していた。班長のスリップを囲んで。

「……なぁ、この状況はなんなんだ?」

「知らね」

「とにかく、今はこのままいた方がよさそうって事で」

 事の発端はスリップが本格的に眠った事である。トラクトの脅威はこのトロッコ分岐点区画にも及んでいたのだが、スリップから発せられる睡魔にトラクト達が影響されて運搬班を襲う前に眠ってしまったのだ。

「ん?ロイはどうした?」

「ロイなら第四区画の【ドワーフ】達を救出しに行ったろ」

「…そうだっけ?」

「寝ぼけ過ぎだよロイド」

「あ、どうも。朝は弱いタイプの【ドワーフ】でっ—————————」

「声が大きい」

 そう言って、茶髪の【ドワーフ】と金髪の【ドワーフ】は息を揃えてロイドと呼ばれた【ドワーフ】の口を押える。

 シロとミネルヴァが着いたのは丁度その頃だった。トラクトが集団で昼寝をしている中央でスリップを囲んでわちゃわちゃしている【ドワーフ】達の光景を見て半分微笑ましく思う。

「敵は寝ている。好都合だねシロ」

 ミネルヴァはそう言って、早く奇襲しに行けと言う。そんな顔でシロを見つめる。シロは渋々と剣を出して力任せにトラクトを斬りつける。

 びっくりして起き上がるトラクトや、寝起きで多少動きが鈍くなっているトラクトを容赦無く斬りつけるので、すんなりとトラクトは霧状になって消え去る。

「ふぅー…ミネルヴァ助けたよー」

「でかしたシロ」

 何もしないで黙って見ていたミネルヴァ。シロはとほほ……と少々呆れ顔をして見慣れた髪型をした【ドワーフ】が居て思わず名前を言う。

「あ!ロイ!」

「んぁ?」

 弟の名前で呼ばれたのに反応してしまう兄のロイド。シロは初めて出会った時雰囲気が違うのを感じ、人違いだと気付く。

「……あ、ごめんなさい。人違いでしたぁ~」

「いや、いいよ。ロイと似てるだろ?違いはこの目の色と髪の毛のこの、若干のはね具合かね」

「は、はぁ…」

 もう慣れているようで、ロイドは特徴的な髪の毛をクルクルと指に絡ませたり、指で引っ張って放してくるんとした毛先にしたりと、遊んで話す。

「…あ、俺ロイド。皆からは無愛想の人で覚えられてるから、覚えやすいぞ?」

「それ、本人が言っていいもんなんすか?」

「俺が良いと思ってるから、いいんだよ」

 自称無愛想のロイドは自慢げな顔で言い放つロイドにシロは乾いた笑いを出す。

「兄さ~ん!シロ~」

 聞き覚えのある声が遠くの穴から聞えてきた。段々その穴は明るい光が見え、声の正体はロイ本人である事が分った。

「ロイ!」

 シロは会いたかった本人を目にして走る。ロイは走り出すシロが怪我をしてしまってはいけないと思ったのか、乗っているトロッコの速度を落としてゆっくり動かす。

「早かったな」

「そりゃあ、全速力で漕いだんだもんっそれにさ運良く切り抜ける事が出来たんだよ。」

 そう言って、ロイはトロッコから降りて、ロイド達に駆け寄る。

「早く逃げよう!後はここに居る運搬班だけらしいし!」

「そして奥にいる開拓班だけか…」

 茶髪の【ドワーフ】はそう呟いて岩石が崩れて塞がった穴を見る。

「まだ、あの奥で開拓班は闘っている」

「そんなぁ……」

「俺が助けに行く!行きますっ!」

 シロは剣を出して岩石に向って突く。

 そんなシロの姿を見て、ドワーフ達は黒い粉や赤い種を撒き散らす。

「シロ、危ないからね」

 ロイがそう言って、シロを岩石から遠くに離す。それを確認すると、茶髪の【ドワーフ】は小さな小瓶を取出してそれを【ドワーフ】達が巻いた黒い粉や赤い種目掛けて投げた。投げつけられた小瓶は案の定割れた。だが割れるだけでは終わらなかった。

 割れた小瓶から赤いものが見えて、それは一気に炎に変わって黒い粉に引火して爆音を鳴らす。赤い種はバチバチと弾けて消える。

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