第23話 渓谷のトラクト

渓谷鉱山 渓谷にて

処分班班長のフェイングは見たことない化物に戸惑いながら、打開策を考えていた。

宝石を象った様な目や頭部、リボンの様にヒラヒラする腕、袋みたいにブクブクと丸い体型。フェイングはそんな化物と相対しながら考える。

―仲間は向こう岸に逃がす事は出来た。後はこいつを倒す方法、刺激しない事。ミネルヴァに迅速に報告する事

 フェイングは意を決して目の前の化物と間合いを詰めて化物の宝石を奪い取る。化物は怒ったようでリボンの腕をしゅるしゅるとはためかせる。フェイングはすぐに化物から離れて化物から奪い取った宝石をチラつかせる。化物はリボンを伸ばして宝石を取返そうとする。

―宝石が大切なのか。僕と同じか………動きは遅いけど腕が厄介だな。長いし柔軟に動くその腕はきっと僕を捕まえることも出来るのだろう。もし叶うのならミネルヴァから此方に来てくれないかな


 一方その頃、シロとミネルヴァは渓谷に居る【ドワーフ】がトラクトと追いかけっこをしている場面を目撃する。

「新種かな?」

「あの化物には種類があるの?」

「いや、俺もあいつら見るのこれで五回目だし、新種っていうか、今まで見たトラクトは四種類だし………多分種類はあるよなぁ」

「…めんどくさいね」

「でしょぉ?そして、あそこで追いかけっこしてる【ドワーフ】は誰でしたっけ?」

 仲間の【ドワーフ】がどんな攻撃をしてくるか分らないトラクトと鬼ごっこをしているのを見ながら、シロは呑気に言う。

「フェイング。自由奔放な奴だけど、とても仲間思いな奴。きっと班の皆を助ける為に自分が囮をしてるってとこか」

「流石っすミネルヴァ」

「…やっと言えるようになったね。エライ」

「ふふー♪そうでしょ―――――――」

 自慢げな顔するも束の間、シロは坂の段差に足を踏み外し、フェイングが追いかけっこをしている渓谷下まで転がり落ちる。

「くぁwせdrftgyふじこlp――――――」

 誰もが理解出来ないであろう言語を話してぺちゃっと登場したシロを確認した化物改め袋型のトラクトは追いかけっこしていたフェイングを無視してシロに近づく。

「シロっ!」

 ミネルヴァの焦燥混じりの声にシロは羞恥で顔を上げるのを躊躇っていたが、吹っ切れて顔を上げる。目の前には自分に目掛けてリボンに模した腕を振り上げるトラクト。シロは素早く手から剣を出現させて腕を斬る。

 腕は斬れてヒラヒラと風に乗って下流に沿って流される。間髪容れずにシロは胴体を斬りつける。

「てめぇのせいで俺は恥をかいたんだよ!霧になって詫びろこんにゃろーっ!」

 シロは連続切りをトラクトに何度も喰らわせる。そのおかげもあってか、トラクトは宝石をガバッと吐き出して霧状となる。

「うわっきったね……ん?でも価値のありそうなゲロだな」

「はぁ~ありがとうシロっ助かったよ!」

 そう言ってフェイングは感極まってシロを抱締めて頬ずりをする。

「おうおう!いいってことよ!」

 自身の経験値と共に出現した宝石と感謝感激の言動にシロは満足気になる。

 やっとミネルヴァが到着したところでフェイングはシロから離れてミネルヴァに報告する。

「ここでいつものように作業をしていてラメが流される宝石を取りに滝側に走って行ったら、あの化物を連れて帰って来たんだよ。すぐに皆を湖側の向こう岸に走らせて僕に注意を向けるよう追いかけっこして、今に至(いた)るんだけど。何があったの?」

「昨日フランが襲われたでしょ?今度はここで起きたみたい。フェイングは皆と合流して。私とシロはまだ鉱山内にいる皆を救出しなきゃ」

「救出してない【ドワーフ】は?」

「開拓班と運搬班だけ」

「そしたらこっちに来て!近道を教えるよ」

 そう言って、フェイングは二人に背を向けて走りだす。二人は黙って後をついて行く。





渓谷洞窟 内部にて

「ここの奥を真っ直ぐ進むと岩壁に衝突すると思うんだ。そこから上にハシゴを用意してある。そこを上ると運搬班のトロッコ置き場に着く。あとは分ると思うよ」

「「ありがとうフェイング」」

 シロとミネルヴァは声を揃えて言う。フェイングはハニカミながら言う。

「どういたしまして。皆の事、早く助けてね」

 二人は頷いて、暗い洞窟を歩いて進む。途中、ミネルヴァが持っていたであろうランタンの赤い光りを見送ると、フェイングは洞窟の中にひっそりとある隠れ家に消える。——————

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