第22話 トラクトの出現

「ミネルヴァ~……ただいまぁ~」

「……三人とも無事で良かった」

 その笑みには怒りが混じっていた。それでも、心配してくれているのは確かで、肩を軽くポンと叩く。

 シロが、安堵(あんど)の表情を出したのも束の間。ミネルヴァは笑顔で言い放つ。

「それじゃあ、午後はよろしくね」

 シロはがっかりし、それを見やる【ドワーフ】はハハハ、と笑い合う。そして地面にボコッと音を立てて地面が小さく盛り立つ。一瞬何が起こったのか分らず、一同はその山を凝視する。

 次第にその山は大きくなって穴を開ける。その穴からは黒い手が見える。

 誰かが地面まで掘ったのだろうかと思い、ミネルヴァがその穴に近づこうとすると、その黒い手の主が顔を出し、敵と分からせる。

 シロにはその主の存在を忘れやしない。自分を狙って襲いかかるトラクトだからだ。トラクトはシロの顔を見て少し動きを止めるが、すぐに行動をした。

 標的がシロだと分かると、ミネルヴァはシロの前になって、そのトラクトをツルハシで攻撃する。

「敵襲だ!総員避難だ!コイツの目的はシロだっ全力で護れ!」

 ミネルヴァの声が響く鉱山内から木霊する「はい」を聞いて、シロは剣を出す。

「へえー、そんな風に出すんだ」

 ニーミュが目を輝かせて言う。

 敵のトラクトは穴から続々と姿を現し、シロを中心に襲いかかって来る。

「シロは私達で護るっ」

 シロは護られながら、トラクトを薙ぎ払う。トラクトは【ドワーフ】の持つツルハシで攻撃は出来ても、怯むか、混乱した様にふらふらするだけで、時間が経てばまた【ドワーフ】を襲うが、シロが手に持つ剣で一振りすれば、たちまち霧状となって消え去る。それを見て【ドワーフ】はトラクトに攻撃を与えるだけで、動きが鈍い間にシロに斬ってもらうの作業を繰り返す。





「はいっラスイッチー♪」

 トラクトを最後まで倒したシロはもう穴からトラクトが出てこない事を確認して、ミネルヴァに言う。

「もう出てくる事はないよ。早くここから出よう!」

 ミネルヴァは頷き、シロと先頭を切って走る。

出口に向かって走る間も、トラクトが出現して、【ドワーフ】が攻撃して動きを止めてそれをシロが切っての繰り返し作業。

 やっと鉱山に自然光が見えてきて、シロは嬉々として足を速める。

「よしっ、出口だあ!ゲームクリィア!!」

 そう言って、シロは立ちはだかるトラクトを切り倒して鉱山を脱出する。

 シロ達の眼に映る白い光は安堵をさせると同時に更なる不安を掻き立たせた。

「ミネルヴァ!無事でよかったですっ」

 鉱山から出て来たシロ達の元へ駆け寄る数十名の【ドワーフ】達。彼らは早朝からこの鉱山前で作業をしていた鑑定班とシロが午後からお世話になる予定の加工班だ。

「先生っ!他の【ドワーフ】達は?今ここにいる人数は?後どこの班が居ないんだ?」

 早口で言い放つミネルヴァに反して、先生と呼ばれた【ドワーフ】はゆっくりと口を開き淡々と報告する。

「今ここに居る【ドワーフ】はミネルヴァと労働班を合わせてざっと四十人。他の【ドワーフ】についてですが、処分班が渓谷から帰って来ていない。運搬班はミネルヴァが体験したであろう異変に気づいてからは見ていない。まだ鉱山の中に居るのは開拓班と運搬班となります。ちなみに処分班は渓谷かと」

 そこまで聞くと、ミネルヴァは周りの【ドワーフ】に指示を出す。

「今いる【ドワーフ】はミカエル様にこの事を報告しなさい!シロと私で処分班をまず救出する!解散っ」

 そう言って、ミネルヴァはシロの腕を掴んで渓谷に続く鉱山横の脇道を進む。シロはミネルヴァと同じ歩調で走ると、ミネルヴァは掴む手を放して渓谷を目指して整備されていない砂利だらけの坂を下る。シロは持前の足で転ばないようミネルヴァの背中を追う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る