第21話 トロッコ

 シロは運搬班の乗るトロッコに付いているチェーンを外して鉱石を積んだトロッコの連結部に巻きつける。

「これでいいですか?」

「フランクでいーよ。実際磁石で連結するんだけど、チェーンはその磁石が取れた時用の予防なんだよ」

 運搬班の【ドワーフ】がそう言うと、外した方のトロッコを途切れたレールに移動させて連結したトロッコが離れないか確認する。

「じゃあ、僕は仕事に戻りますね」

「あ、待って」

 自分はもういる意味がないと判断して、一言言って去るつもりだったが、彼に引き止められてしまった。

「これは何かの縁だよ。どうだい?一緒に運搬してみないかい?」

「え?いいの?」

「うん、ふふっいいんだよ。さ、乗って乗って」

 シロの手を引いて無理に運搬トロッコの席に乗せる。

「シロはそこにいていいよ!じゃあ動かすよ」

 彼はそう言うと、エンジンをかける様に、ゆっくりトロッコの車輪を漕ぐ。キコキコならしながら、トロッコは前進する。しばらくして彼は漕ぐのを止めてシロの座る席に移る。

「あ、名前言ってなかったね。僕はロイ。皆からはじゃない方で覚えられているんだ。よろしく」

 ロイはそう言って手を差し出す。シロは早朝の出来事を思い出して少々戸惑いながらに手を握り握手する。ちゃんと握手が出来て良かったと安堵するシロ。

「シャイン班長てれすけだから、まともに話せなかったでしょう?」

「良くご存じで……」

「そんな気がしただけだよ」

 トロッコに揺られながら他愛のない会話をする。

「僕ら運搬班はトロッコで運搬する度に人が交代するんだよ。次シロと運搬出来るのは三回くらい鉱石を運んだ時くらいかな?」

「また僕は乗っていい前提なんだ」

「あ…もう飽きたかい?」

「いや、違うよ!また乗せてもらえるなんて、スゴイ嬉しいよ!」

「それはよかった!」

 そこでロイはトロッコのブレーキを引いて停止させる。何事かと思いロイを見る。

「これからは外に出るからここで降りてこれから来るトロッコに乗せて戻った方が苦労は無いかなって」

「ぅ~ありがとうっ!」

 シロはロイの手を取って感謝を表現する為ぶんぶんと手を上下する。

「おぅ過激な表現ありがとうっ十二分に分ったよ。じゃあこれから来る奴にも言うから待っててね」

「ああ!待ってる」

 そう言って、シロはドンとトロッコから降りて手を振る。ロイも手を振りかえしてからトロッコを漕いで先を行く。

 


シロが地面に座って待っていると、レールの揺れを感じてバッとトロッコの影を待つ。

「………ん」

 シロがその【ドワーフ】を見た途端、シロの心中は緊張で走る。【ドワーフ】の外見が怖い訳ではない。彼が放っている危険なオーラを感じ取ったのだ。

「あ、僕を乗せてくれる人ですか?」

「…ぅん。【ドワーフ】だけど……」

 彼のあくびと微睡む様子を見ると、居眠り運転を隣で体験する少年少女の心情を理解出来るだろう。シロは不安気な声色で話す。

「よ、よろしくお願いします…ね?」

「………う」

 目を細めて運搬班班長のスリップは微笑んで親指を立ててシロに見せる。シロは顔を背けて心配だぁぁ~、と小さく呟いた。




「…」

「…」

 シロは今隣で今にも睡魔と闘う【ドワーフ】を見守っている。

「…」

「……」

「……ぐぅ~」

「班長ぉ!!?」

 かれこれ全敗であるが。

「んぉ!?」

 バチッと目が覚めたのか、スリップは背筋を伸ばしてシロの顔を見る。何が起こったのか分らない様な顔をしてスリップはまた瞼を閉めようとする。

「班長~。今は起きて下さいっ寝たら危ないんですよ!」

「だって、このレールにさえ乗っていればトロッコ倒れる事ないし………」

「それを言われても困ります!とにかく眠られると不安で仕方ないんですぅ!」

 トロッコは常に稼動している。だが、目の前で予期せぬ事故を目撃しないかという懸念をシロはしている。

「ほぉ~……そっかぁ…」

 マイペースな空間に居るスリップはぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「そうですよ~」

 トロッコはまだ目的の場所に着かない。スリップの乗るトロッコは漕ぐペダルが無く、代りに小さな列車の様に、使い物にならない鉱物を燃料にして動いている。しかもゆっくり動いている為とても遅い。

「いつもこんな感じなんですか?」

「……ぅんぃや?…いつもは誰か一人いて、いつもよりも早く進むんだけど。…廃鉱石入れるの忘れちゃったぁ……けど、ロイは…シロは大丈夫だって言うから…隣に座ってたアクセル、置いて来ちゃった………」

「……ロイさぁ~ん…貴方の………」

 貴方の善意が憎いと、心の中で呟いた。

「……あ、もうそろそろお昼になるね。……あと少しだから、頑張ってね………」

「あ、はい」

「………ん?」

 スリップはゆっくりとブレーキを掛けてトロッコを止めた。シロは声をかけようとした時に、奥からトタトタとこちらに向って来る音が聞こえた。何事かと思ったら、その姿を見てシロは唖然となる。

「……珍しいね、シャインが誰かを迎えに来るなんてさ……」

 足早に近づくシャイン。シロの手を握り損ねた【ドワーフ】だ。揺れる前髪で視界が遮られてないか不安だったが、止まるトロッコの前で足を止めて、呼吸を整える。

「はっ…ぁ、あの……心配、だったから……。ミネルヴァが捜してる…、見て、聞いて、トロッコに乗ったの…聞ぃた。……トロッコで、怪我してぃたらっミネルヴァ、怒って、心配して、悲しむ……それはダメ…だから、その…迎ぇに来たょ?」

 そう言って、あの時は握り損ねたシロの手を両手でギュッと包んで、膝から崩れ落ちる。体力の無い身体なのか、終始息切れや深呼吸をしながら喋るシャイン。

 この瞬間、シロは二度目のトキメキを覚える。

「俺、貴方が攻略キャラだったら一番に落とします」

「ふぁ~……お姫様ごっこしなくてい~よ~…早く行こぉ~?」

 スリップが目を擦りながら言う。シャインはそれを聞いてバッと手を放して長い髪で紅潮する顔を隠す。それがシロの心を締め付ける。

「俺が女の子でも堪らないっす。それ」

「おぅ………僕意味わかんないんだけどぉ、シャイン分る?」

「ぇ、ぼくも知らなぃよぉ…」

 シロの言葉に理解出来ず、お互い顔を見合いながら言う二人。独り傷付きながらシロは喋る。

「…独り言なので、気にしないでクダサイ」

「ふぁ~…シャインも乗りなよ~、ゆっくり眠れるよぉ?」

 乗って来たトロッコに乗ろうとしたところ、スリップに提案されたシャイン。

「…じゃぁ、遠慮なく」

 手動式のトロッコを置き去りにシャインはトロッコを乗り換える。

「えー、…ごほん、俺は二人の子守をしてればいいんですね?」

「そゆことぉ~…うぅ~おやすみぃ~…」

「……ぉやすみなさいぃぃ」

 ローな会話が終わりシロは後ろで寝転がる二人の【ドワーフ】を見て溜息ひとつ吐く。

「えぇー……どうやって動かすの?これぇ…これ?かな?」

 シロは恐る恐るレバーを引くと、ゆっくり動き出した。

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