第20話 渓谷鉱山の中
シロは鉱山に入ってまず思った事は、爛々たる無数の鉱物に混じって揺れる赤橙色の光球が綺麗で、その近くで働く【ドワーフ】達を見て、自分もこの人達の一員になるのかと少し胸が躍る。
「僕達労働班と加工班の【ドワーフ】は合同みたいな集団なんですよ。それで、改めて労働班の【ドワーフ】は大所帯だから基本シャインが班長のA班とスニーズが班長のB班に分れて仕事をするんだ。A班の僕達はこれからこの道を通って壁の至る所にある光る鉱石をツルハシで掘る。あんな風にね」
ニーミュが指さしてツルハシを振るったり、手袋で鉱石を取る【ドワーフ】の姿を見せる。
「そうしてある程度集まったら運搬班の乗るトロッコに入れて運んでもらう。それの繰り返しかな?簡単でしょ?」
ニーミュが眩しい笑顔で言う。シロのニート魂に亀裂が入る頃、ニーミュはシロの体を壁際に追いやる。急な行動に驚いて、横目でニーミュを見るとホッとした顔を浮かべてシロを見て困り顔を浮かべた。
「ごめんね、びっくりしたでしょ?でも今度から気を付けるよ」
ニーミュが喋り終わる頃、敷いてあるレールがカタカタと音を出し、しばらくするとガタンゴトン、キーコキーコと音を出してトロッコが通った。ニーミュはトロッコに乗る【ドワーフ】に手を振りながら言う。
「無愛想ヤロー、新人さんがいるんだから声ぐらいかけてよぉ」
「あいはいー」
ヒラヒラと手を振りながらトロッコを進ませる【ドワーフ】を見送りながらニーミュはシロに言う。
「ここの道トロッコが通るのに狭いんだ。だからシロさんを壁に貼りつけないといけなかったんだ。なんか言えば良かったね。ごめんね、気が利かなくて。さ、ミネルヴァさんが待っているよ」
「あ、はい」
シロとニーミュは狭い道を歩くと、仁王立ちしてツルハシの頭部を地面に一定のリズムで叩いて待つミネルヴァがいた。
「ひぃ~ミネルヴァさん怒ってる」
「なんか、すいません」
「ぃぇぃぇ、こちらこそぉ…」
「遅いっ!」
カンッと音を響かせて言い放つミネルヴァ。二人はビクビクしながらミネルヴァの放つ言葉を待つ。
「……今日は怒る気無いから、さっさと仕事をする!ニーミュは別の場所で働いて。彼は私が指導する」
「あ、はぁ~い。頑張ってね」
「あ、あいあいさ~………」
【ドワーフ】の憐みの視線を浴びる中、シロはミネルヴァの指導をみっちりと受けた。
「まぁ、悪くはないね」
「ホントっすか!?ありがとうございます!」
剣道をやっていたおかげでシロの振るうツルハシは真っ直ぐ岩壁を砕き、綺麗に鉱石を取出す事が容易に出来た。シロは初めて長年やってきた剣道の実力が開花したと感じ始めた。
「これくらいなら持って行っても構わないな。シロ、運搬班にこの鉱石を持って行きな」
シロがこの鉱石に目線を向けると、期待から一気に消沈が溢れる。そこにあるのはトロッコに積まれた鉱石の山だった。しかもレールに乗っているだけで力で押さないと進まない様な構造をしているトロッコだった。
「これ、押すんですか?」
「当たり前でしょ。皆が掘って集めた鉱石なんだから、倒したり落としたりしたらただじゃおかないから」
「う、うっす……」
シロはツルハシをレール付近に置いて、元来た道に続くレールを目指して手に力を籠めて押す。意外と前に進むトロッコに少し余裕が出来たのか、シロはゆっくり歩きながらトロッコを前進させて行った。
「おーい。あとちょっとだよー、頑張れー」
前方から声が聞こえた。シロは運搬班の人だと分かり、少し早めにトロッコを動かす。
「おおーと、止まって止まって!そのトロッコ古いからスピード落とせないんだよ!」
その声が聞こえてからではもう遅く、シロが全体重をかけてトロッコの前進を阻止しようとするも、なかなか止まってくれない。運搬班の【ドワーフ】が足でトロッコの前進を阻止してくれてやっと止まった。お互い冷や汗を掻きながら危なかったねを交互に言って謝罪を交わす。
「あ、お願いなんだけどさこのチェーン外してそのトロッコに付けてくれるかい?」
「あ、はい」
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