第19話 はじめての労働
早朝 ハウスにて
メイジが湖に行った後、ハウスには客人が来た。
客人は急に大きな笛を取出すと、甲高い音色を響かせてシロとナイトの鼓膜を震わせた。
「んぉお!?何だ!?地震か?」
「んぁ?う~ん……あともう少しぃ~寝かせてよぉ…んにゃあ」
ナイトがその物音と揺れに気づかず寝返りを打つが、シロは飛び起きて辺りを見回す。
「起きなさいノロマっ!昨日の事は覚えている?」
ハウスの扉から声がした。そこには逆光で顔は判別出来ないが、昨夜自分に己の名を記憶として刻んだ【ドワーフ】がそこにいた。
「ミネルバ……」
「ミネルヴァ、ですけど。まだ発音の練習が足りないみたいですね。来なさい……みっちり練習させてあげる。労働と一緒に」
そう言って、ミネルヴァはシロの手を掴んでハウスを後にする。——————————
渓谷鉱山にて
眠気眼で着いた鉱山には他にも【ドワーフ】が二人を待っているかのように並んでいた。
「注目、今日から働く客人のシロだ。まず今日の役割を決める。鑑定班は今回入り口から離れた所に作業台を置いて鑑定してくれ。昨日から悪い輩がうろついているからな」
「承知しました。さ、早めに作業台を移動させよう」
そう言って、鑑定班のリーダーであろう白髪で眼鏡のかけた初老の【ドワーフ】は班の人達と共に列から離れる。
「次、開拓班は今回慎重に進んでくれ。ここに悪い輩が潜伏されてたら時の為だ。あと、爆薬は多めに持ってけ…だが、最低限使用しない。緊急の時は班長か私かカインに相談しろ」
「あったりめぇよ!行くぞ!」
声を荒げる少々強面な面持ちの【ドワーフ】はすぐに班の仲間に指示を出して鉱山の入り口に入る。
「発掘班は引続き新鉱物の発掘を頼む」
「はーい、ハビー隊まわれー右っ!安全第一いざ進めーわっはっはっは」
ご機嫌な声で発掘班の人達は列を乱す事無く鉱山の入り口へ進む。
「寝るなスリップ!」
と【ドワーフ】に呼びかけると
「ふぁい!?」
スリップは微睡んだ瞳をパチクリさせて起きた【ドワーフ】に大声で起こす。
「今日は眠れない作業で持ちきりだっ…というか毎日眠れない作業ばかりだが、いいな?いつもどおり運搬しろよ?」
「…ふぁ~い…ぐぅ~」
聞いていたのか不安な返事をしてスリップ率いる運搬班は班長を抱えながら列から離れる。
「はぁ~全く……フェイング、鉱石を蒐集するのは構わないが今回は止めてくれ」
「ん~?なんの事かなぁ僕わかんないよ?ま、いつもどおりやるよ」
そう言って、フェイングと呼ばれた【ドワーフ】の列は個別に行動し始める。
「最後にシャインの労働班とスニーズの加工班は今回シロが労働に参加してくれる。午前にシャイン、午後にスニーズといった形で加わる。以上だ」
ミネルヴァはそう言うと、シャインであろう【ドワーフ】がこちらに近づいて、挨拶代りの握手を求める。
「ん……」
「あ、嗚呼。よろしくお願いします」
シロはそれに応えるべくその手を握ろうとするが、シャインはスッと手を戻してそそくさと鉱山の入り口に入る。
「すみません。シャイン照れ屋さんなんですよ……悪気は無いんですよ?」
シロの肩に手をポンと置いて困り顔で話す【ドワーフ】。シロは若干驚きながら彼の顔を窺うと、彼は気づいた様に言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい。馴れ馴れしかったですね、僕の悪い癖なんですよ。ごめんなさいね本当に……僕、ニーミュっていいます。宜しくお願いしますね」
「あ、こちらこそ。よろしくお願いします……」
早朝の朝日に照らされながら、シロはニーミュと共にツルハシを持って鉱山の入り口へ向かう。そこで待っている過激も、疲労も、躊躇も、惨事も、悲劇も知らぬまま———————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます