第16話 閑話休題1
「今日のジン様ご機嫌だったね」
「そりゃあ、そうだよ!だってさぁ久しぶりに『人』とお話ししただってさ!ヒトって誰か分んないけど、きっと仲良しなんだねっ」
「いいな」
「しかもさ、帰って来た時もスゴイ笑顔だったねっ」
「いつも見る笑顔よりもずっとキラキラしてたね」
「もうすぐ、オイラたちの願いが叶うって事だね……」
「だね」
「そだねーえへへ」
月明りの下で、三匹の【ゴブリン】が駄弁っている。これでもこれからシロ達と対峙するジンマジン軍団の部下である。
「んー!そうだっ!オイラ達でさ、もっとジン様のこと笑顔にしない?」
「いいねっ…」
「カブにしては良い案なんじゃないか?」
「でしょでしょでしょお~?」
想像し難い【ゴブリン】の悪意の無い和む笑みをきっと守護神の森に住まう種族は知らないだろう。
「でも、どうするの?」
「う~ん」
「うう~ん、そこまでは考えて無かったぁ、あはは」
「何があははだよっ!たくよぉ、もうちょっとでジン様の事を笑顔に出来ると思ったのによ」
「こういう時こそ考えよう、だよ」
「さすがクブ!」
「目を閉じて、頭に浮かんだモノを口にしよう……」
「うが~、苦手なやつだぜ」
「よ~し、がんばるぞぉ!」
神殿の森を攻めるジンマジン軍の城でそんな和やかな雰囲気が流れていることを、誰が想像できようか。きっと、ここにいるモノ達にしか出来ないであろう。そんな事も知らずに、三匹は目を閉じて想像を膨らませる。
「もう一度ヒトとお話しさせる?」
「ヒトってこの世界に存在しないよね?」
「それっぽいのを連れて来ればいいんじゃないか?」
「じゃあそうしようっ!ヒトの特徴はジン様から教えてもらえるかな…?」
「あとは、…これから奪う予定のマテリアルジュエルを早くジン様に見せてあげたいな」
「それいいな!」
和やかな雰囲気の中に窃盗と拉致を仄めかす言葉が飛び出す。実際そう行うのだがそれをいけないと思ってないのが彼らとの違いだ。
「いーね!でもさ、どうやって早く奪う?」
「後ろから奪う?」
「遠回りになるだろ」
「上から奪う!」
星空を指さしながらカブは言う。
「空飛ぶ種族に見つかっちゃうよ?」
「翼ねぇだろ」
そう言って、二匹は鳥の翼を連想させるジェスチャーをカブに見せる。
「…あー、駄目だ。こういうのは本当に思いつかない」
「コブは頭を使うの苦手だねー」
「でもオイラ達よりも強いもんね」
コブと呼ばれた彼は満更でもない様な笑みを浮かべる。
「まぁな。…そこでだ、クブ。もう出たんじゃないか?答え」
「え…下から行く?」
「……掘るのか?」
クブが下を指さして言う。そこにすかさずコブが立ち上がり石の敷き詰まれてない土の見える部分にバツ印を足で描く。
「穴掘り作戦!」
「今からすれば、なんとか間に合うんじゃないかな?」
「さっすが!」
「さすが!」
三匹は嬉々として舞い上がる。
「んじゃあ!【フレム】捕まえてくる!」
そう言って、カブはとてとて走り去る。
その姿を見てクブも城内に戻ろうとする。
「オイラは穴掘りに使えそうな武器を探してくるよ」
「武器っていっても、ジン様を起こさないと出してくれないんじゃないか?」
「その時は一緒に謝ってくれるかい?」
「やだよ」
ゴブリンの暗躍(あんやく)が主人の眠りを妨(さまた)げる時、一匹の【フレム】を巻き込む時、ゆっくりと歯車が動くのを、誰も知らないだろう。———————————————————
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