第14話 開宴

 そしてぞろぞろとミカエルを囲む様に妖精達は近づく。

「そろそろ下が見えてきたわね」

 メイジがそう言うのでナイトとシロも視界を下にする。

 そこには沢山の種族達がこちらに手を振っていた。

 ミカエル達の足が地面に着くと今か今かとミカエルの第一声を待つ。

「皆さん、只今戻りました。この方々はフランを助けてくれた旅の者達です。さぁっ宴を始めましょう」

 そう言ってミカエルが両手を広げると辺りが暗くなり空一面に花火が鳴る。

「どうぞ」

 シロ達の目の前に差し出された木製のコップ。中身から仄かに果実の香りがしたので三人は受け取る。

 そのコップを皆が持った事を確認したミカエルはコップを持った手を高く掲げる。他の皆もコップを掲げ始めるのでシロ達もコップを掲げる。

「フランを救った旅の者に乾杯」

《乾杯っ!》

と他の場所から聞える。他の者の「乾杯」に負けまいとシロはいつもよりも大きな声で言ってコップの中に入っている飲料と思われるものを味わうことなく飲み干す。

「坊主っ良い飲みっぷりじゃねーかっ」

 後ろからそんな声が聞こえシロは振り返る。その相手はシロよりも何十倍も身長が高い黒い人狼だった。

「あまりにもデカイ声なのにチビなんだなっ全然分んなかったぜガハハハハ」

「チビで申し分なかったですねぇお兄さんっ」

「お、このオイちゃんをお兄さんと~。こりゃあ嬉しいねっ!よし坊主――――」

「シロだよっ【ワーウルフ】のお兄さん」

「おおそうかシロ!オイちゃんはワイルドだよろしくな~」

 そう言ってもう一体来た【ワーウルフ】がシロの空になったコップに先程の飲料を注ぐ。

「これなんて飲み物?」

 シロはそんな疑問を口にする。

「え、あ~…えっと」

 だが相手の様子がおかしい。

「う~ん。名前は無いんですよね。でも果実と水で作ってるから…果実水でしょうか?」

「俺的にはジュースって感じだからジュースって呼んでいい?」

「構いませんよ」

「プリマネ~俺にもそのジュースくれっ」

「はい、どうぞ」

「ありがとよ。んじゃあシロ」

「おう」

 シロとワイルドは揃って乾杯と言ってまたジュースと名付けられた物を飲み干す。

 それからシロとワイルドはジュースを飲み続け、ちょっとした注目を浴び、今度は食べ物にも名前を付け始める。

「これはなんて肉?」

「にくぅ~?お前らんとこはにくって言うのか?」

「うん」

「はぁ~たまげたなぁ!こっちでは血豆って言うんだぜ」

「へぇー!なんか痛々しいというか、手に変な力が入る名前だな…じゃー、これは?」

「ん?…あー名前が無いやつだな」

「そしたらサラダって名前を付けていい?」

 そう言うとワイルドは目を輝かせる。それを見てシロはサラダと名付けた植物の盛り合せを手に取って頬張る。

「そうかサラダかっ」

「昔は水洗いしたやつでもドレッシングが無かったら食えなかったのに、…成長するってスゲーなぁ。あーサラダ美味い!」

「そのどれっしんぐってのもお前んとこの食べ物か?」

「食べ物というより調味料?みたいなのだけどな」

「へぇ~変な名前だな」

 シロとワイルドが互いに笑い合ってると、ちょっといい?とシロより少し背の高い【ドワーフ】が話しかけられる。

「お、ミネルヴァ」

「どうも旅人さん。私はリーダーのミネルヴァ。よろしく」

「どうも。俺シロって言います。よろしくミネルバ」

「………ごめんもっかい」

「え?俺の名前—————」

「違う。私の名前のところ」

 シロは突然変わった空気に戸惑いながら目の前にいる彼女の名前を言う。

「ミネルバ?」

「ごめんね。私そういうの嫌なの。ミネルヴァ……言ってみて」

「み、ミネルバァ」

「駄目。もういっかい」

 シロはワイルドに助けを求めようとするが、当の本人は席を外して他の者達と談笑していた。

―誰か助けてくれよぉ…

「もういいじゃないですかミネルヴァ。彼は旅人なんだし、ハウスで休んでもらおうよ」

 シロの心の声が聞こえたのか、一人の【ドワーフ】がシロとミネルヴァの会話に割って入る。

「…そうだね。発音の問題だし旅人さんが頑張って言えるようになってくれればいいか。じゃあ」

 そう言ってスタスタと去るミネルヴァ。

「ごめんなさいね。彼女、名前を大切にしてる方だから……」

「いや、大丈夫。俺こそごめん…次会った時までには言えるようにするよ」

「ありがとう。それじゃあまた明日ね。ハウスの場所は分かるかな?」

「いや…」

「じゃあ案内するよ」

「ありがとう・・・・えーと……」

「あ、名前まだだったね。僕の名前はカイン。よろしくシロさん」

「カインだなっよろしく」

 シロは自分達が泊まる家の扉を開け、中を見る。そこには既に眠りに就いているメイジが居た。シロはメイジを起こさぬ様に空いている一番左側のベッドに潜り込み目を閉じた。

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