第10話 更衣室での会話
「「………」」
沈黙はナイトが服を脱ぎ始めた所から始まった。ナイトは隣にいるシロに目を向けるが、当の本人であるシロは自身の体とナイトの体を交互に見ている。
「…ん~、シロから見て僕の体は何か変なのかな…?」
意を決してナイトはシロに質問する。
「いや、俺のこと持ち上げたり投げ飛ばしたり出来るのがすげぇなって思っただけ…」
「ん~…?…うん」
「何でそんな細マッチョなの?」
シロから見て正直怠け癖がありそうな彼が何故それなりに鍛えた自分の体よりもテレビで見るようなかなり引き締まった体を持っているのか不思議で、衝撃を受ける。
そんなシロの疑問をナイトにとって極普通な回答をする。
「騎士だから…かな?たくさん訓練したし、たくさん運動もしたし…苦しくてつらかったけど、学ぶものが色々あったよ」
「非ニート様のお言葉マジ聖人…!リア充オーラマジパネェっす」
「おぉ…異世界人のお言葉やっぱり分んないけど褒められてる気がするからまじぱねーっす?」
「ちょい惜しい…いやそんなことは置いといて、俺にも教えてくれよっ俺もナイトみたいに高く跳んだり、あんなスゴイ威力で踏みつけたり蹴ったりしたいっ強くなりたい!」
目を輝かせるシロにナイトは苦笑いをして言う。
「シロは勇者様だから十分強いでしょ?それに、僕は強くないよ」
そう言ってナイトは空になったヲントバッグをパタンと閉める。
「それにしてもこれがホントにこの世界で普通の服装なのか疑問なんだけど」
「ん~。シロの着ていたガクランっていう衣装よりは大分マシに感じるよ?」
「あー、そりゃあ、文化の違いはあるよ…ガクランってのは制服と同じ意味の衣服で、ほら…ナイトの着ている甲冑みたいなもんだよ」
「へー!それっだったらなんか親近感が湧くね」
「うんうん」
「あ、もう行こうか。メイジを待たせちゃダメだからね」
そう言って二人はそそくさと更衣室を出て行く。
シャトルシップ船内にて
「あら、早かったのね」
扉の開閉音を聞き、メイジは後ろを振り返る。
「女の子の時間は有意義に使わないと」
「……それ本当に普段着なの?」
メイジが一瞬目を逸らす。
何故ならシロとナイトの肌の露出が多いからだ。
ナイトに至っては上半身裸の上に軽装な鎧を身に纏っている服装だった。
《目のやり場に困るでしょうが、プログラム的には違和感無く構成されているんで大丈夫ですよ》
「大丈夫じゃないわよっ私だけで良いから露出する服装にしないでちょうだい」
《んあ!あーめんどくさいですけど…………》
「何がめんどくさいよっ早くやり直して」
「…メイジって肌見せたくないの?」
「……うん」
シロとナイトは小声でメイジを見ながらそんな事を言う。
「女の子は露出してなんぼって感じがするけど………」
そう呟くシロにナイトは軽く小突く。
「メイジは肌を露出しなくても魅力的な人だって、理解しているんだよ。僕もメイジも…………彼女の気持ちは尊重(そんちょう)すべきでしょ?」
紳士の言葉に感銘を受けたシロは言葉も出ない程息を呑み込む。ただ頷く彼を見て優しく頭を撫でるナイトはメイジと画面の向こうのキュリアの抗議を見つめながら、またシロの頭を撫でる。
「小突いてごめんね」
優しい声で言われた。シロがナイトの顔を見上げるとそこには困った笑みを浮かべていた。
—親父にも撫でられたこと無いのに……
呆けた顔でそんな事を考えていると、ガタンっと物音がした。
ヲントバッグが転送された音だった。
「それじゃあナイトとシロ。後はよろしく」
そう言ってヲントバッグを抱えて更衣室へと消える。
《勇者様とナイト様にも魔力を捧げて貰います…。》
画面がシドに切り替わる。
「僕とシロはどうすればいいのかな?」
ナイトはシドに言う。
《操縦席の前にあるブルーホールがあると思うんですけど……》
「あるね」
シロとナイトは操縦席の前にある青い円形を見つめる。
《それは魔力を異空間――――》
《兄さん絶対覚えられない名前で言わないでよっ僕が言うね》
画面外からシードの声が聞こえると、すぐに画面がシードの顔に切り替わる。
《改めめて説明すると、シャトルシップの燃料として皆さんの体内にある魔力を使っているんです》
「へー俺でも出来る?」
《勇者様でも出来るんですっ》
そう言うと、画面が急に金髪の青年に切り替わった。
《ど、どうも…急に切り替えて申し訳ありませんっ実は先程転送させてもらったヲントバッグなんですが、数に限りがあってもう一度こちらにもって……いや、ちがっ、あ、回収させて頂くんで、元の位置に戻してくれませんか?》
ぎこちない口調でコネットが言う。
「は~い」
「はい」
二人してヲントバッグを持とうと辺りをキョロキョロと見るが物一つ無かった。
「あ、やっべ」
「忘れちゃったね…」
《えっ…ド、ドコにですか……?》
コネットの言葉に二人は同時に更衣室の扉を見つめる。
「……」
《…………あぁ》
これにはコネットも若干苦笑した顔で言う。
「……メイジが戻って来たら取りに行くね」
《あっはい分りました……》
《ねぇコネットまだー?僕話すことがあるんだけどぉー》
《うるせぇなバカ!》
コネットは画面外にいるシードの声に声を荒げ、険しい目つきでシードのいるであろう方向に睨む。
そしてハッとした表情をすると、みるみる顔を赤らめて頭を下げる。
《ごめんなさいっホントごめんなさい…》
すると、画面がすぐに切り替わる。
《本当は…あんな子じゃないんで…許して下さいね。勇者様、ナイト様》
「いいよ。僕は全然気にしてないから」
「うん…誰だってあるもんな………」
そう言うと、ナイトはシロを操縦席に座らせる。
「それじゃあ、シロは頑張ってこのシャトルシップを動かしてね」
「お、おぅ」
ナイトはブルーホールに手をかざす。
「こうやって、精一杯手に力を込めると、自然に出てくるってメイジが言ってたよ」
「おおっ、すげぇ…」
そう言ってシロも真似して手をかざすと、ブルーホールが仄かに光り始める。
それから手をかざしながらナイトと雑談していると、奥から扉を閉める音が音が聞こえ、メイジが着替えが終わったことを告げる。
「メイジお帰り」
「二人共ヲントバッグを忘れてるわよ」
そう言うとゴトン、と重い音を後で聞く。
《ありがとうございますっメイジさんっ!では後で回収しますので、転送台に置いて下さい》
「はい」
メイジは無理にでも三つのヲントバッグを抱えて転送台に置く。
「待たせたわね二人共」
その言葉を聞き終えると、シロはメイジの服装に期待を膨らませて後ろを振り向く。
メイジの服装はブカブカで小柄なメイジにはサイズ的に合わないが、これもこれで良いと、シロは心中で呟く。
「緑って珍しいねー」
「そうね……」
「…妖精みたいね」
「そうね、少し大きな妖精ね」
《それでは準備が出来たようなので世界に干渉しますね》
シードの声に三人揃ってはいと答える。するとシードの画面の中でポチッ、とボタンを押す音が聞こえ、その後船内は真っ暗になり、唯一明るいフロントは先程まで瑠璃色に輝いていたが、白に染まった。———————————————————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます