第三章 素材世界

第9話 シャトルシップ内にて

「うぉー、スッゲェ!カッケェ!ヤッベェ!」

 シロが開口一番に発した言葉だ。それからシップ内の至る所を目にする度にその言葉を放つ。

「終始それだね」

「珍しいのかしら」

 目を輝かせながら右往左往するシロを見つめながら、シロとナイトは話す。

「珍しいよ!シャトルシップだなんてロマンだよ!」

 シロの一部の言葉に頭を傾げるナイトとメイジだが、シロはそれでも熱く語る。

《——、こちら王宮整備機関シャトルシップチームです。応答を願います》

 シロの熱弁を遮る様に機体から砂嵐音が聴こえてから、朗らかな声が聞こえた。

「こちらメイジ、引き続き応答願います」

 メイジの声でフロントにモニターが出現し、モニターには笑顔のシードが映し出された。

《モニター接続の確認をお知らせします!》

「初めて見る機能ね。それと、敬語はまだ抜けないみたいね」

《業務中っすよ……あ、そうだっほら兄さんもこっち来て挨拶しよーよっ》

《えっ……どうも……》

 シードの後に映ったシドは長い前髪を梳かして会釈する。

 シロは目を輝かせながらモニター画面を見る。

《あ、こんにちは勇者様っワタクシ、シャトルシップチームナビゲーターを担当してますシードでっす!》

 シードはシロを見るなりハッとしてそう言う。

《ほらっ兄さん》

 シードはシドを引き寄せて画面に映らせる。

《えと、シドです…この異空間探索稼動魔力起動機体船――――》

《長いよっ!正式名称なんて誰も覚えないんだから》

《ごめんね…》

《謝んないでよ~》

 しばらくお互いに沈黙が続き、気まずい空間になる前にシードが声を張る。

《お見知り置きを~》

《おきよ~》

「よろしく!」

 この流れを断たない様に、食い気味にシロは言う。

《あ……これを機にチームメイトの紹介をしようっ!》

 シードはそう言うと、モニターで移されている画面を何やら動かし始めてシドの顔を映す。

《兄さんモニターまだ点いてる?》

《うん…バッチリ……》

 どうやら手持ちカメラに持ち替えたようだった。

 そう言ってシドはモニターの中でピースサインをすると、モニター越しで移動を始める。

 行き着いた場所は休憩室の様だ。そこには足を組んで此方を見つめる青年が映っている。彼のことはナイトとメイジにとって印象的になっている。何せ二人の目の前で洗剤の入った水をブチ撒いて痴態を晒してしまった人物だからである。というかシドとシードの他に認識している整備士が少ないからでにある。彼は不機嫌そうな顔でじとー、とカメラを見つめている。

《また何か持って来たな…》

 不機嫌な声で小さく発せられる。そんなことも気にせずにシードは彼の隣に立ち喋り出す。

《今不機嫌な顔の人は、勇者様達が持って来るであろう物やデータを解析してくれるコネットですっ》

 シドの持っているカメラとシードの顔を交互に見ながら一言。

《何持ちながら話してんだよ》

 その質問にシドが淡々と答える。

《モニターカメラだよ。これで画面の向こうのメイジ様やナイト様や勇者様とお話し出来るんだよ》

《マジで?》

《大マジだよ》

 今までの不機嫌な顔は何処へやら。彼は目を丸くし、そして今までの態度と打って変わって緊張した様な、改まって言う様な言葉で喋りだす。

《え、どうも…初めましてっ、え、あっ、コネットですっ が、頑張って解析するんで沢山持って来て下さい…はい》

「よろしく!……です。シロって名前です、覚えてくれたら俺もう嬉しいっす」

 シロも外見にビビッてタドタドしく言う。

《はいっ次は我等の看板娘でーす》

 二人の雰囲気にシードは流れを崩さぬよう画面を大きく揺らして次の自己紹介する人物のいる場所に移動する。移動した場所はアトリエの様な場所で、そこには工具の手入れをしている少女がいた。おどおどと恥ずかしそうに話す。

《え…ワ、ワタシ?こんにちは。シャトルシップのメンテナンスをしていますテナーです。よろしくおねがいします………》

 話の経緯は理解している様で、スムーズに自己紹介が済んだ。

「よろしくテナーちゃん」

《わぁ……こ、こちらこそですぅ……》

 そう言って赤面する顔を両手で隠してどこかへと逃げるテナーを見てシロは「かわいい」と心中で連呼する。

《あらら…んじゃあ次っ――――――――――》

《ウィース、次シャワー浴びるのは誰だ?あと誰だよテナーをからかった奴は…》

 画面越しからそんな声がして、カメラを向けるとまた新しい人物が出て来た。

《ん?何これ》

 未だ水分の含まれている栗毛の頭髪を乱雑にハンドサイズのタオルで拭きながら彼は目の前にある機械に興味をします。

《カメラだよ…。今これでシードがモニターに映っている勇者様達に紹介しているんだよ…》

《ん。そうなんだ…どうも勇者様。俺はメイカってゆう名前です。近々その欠陥品をアップグレードするんでよろしくす~》

《また欠陥品呼ばわりする~!ダメでしょ》

《式は零のままですが、二号機として稼動するんでよろしくす~》

 そう言い残して画面外へ捌ける。

「うぉ~アプデしてくれるとかマジで神なんだけど」

《ん~、勇者様の言葉はイマイチ分らないんで触れないでおきますね…えー、次は…あっキュリア》

《んぁ?》

 カメラが急にブレてシロの視界が若干酔ったが、すぐに正常な画面に戻る。

 戻った画面の中にはヘッドホンに似た機械を頭に着けた少年がいた。

《んぁー、面倒くさいねー…。シードに呼ばれたとぉり、キュリアでぇす》

《いつもセキュリティ関係の事をしてるマジメな子なんだよっほんとだよ!》

 何を弁解しているのか、シードは必死にキュリアと呼ばれる少年について話す。

《シード、キュリアの仕事を邪魔しているのか…?》

《リーダー!》

 シードの声に続いて画面が強面な顔の男性に変わる。

《おいやめなさいシード》

《勇者様、ラストメンバーですっ僕らのリーダー!》

《オジサンをそのカメラに映して何が楽しいんだ》

 強面の男性は顔を隠しながら言う。

《勇者様の為だよっお願い》

《はぁ…初めまして、あっいえ……お初に御目にかかります勇者様。こんなお見苦しい場所で挨拶をします事を御許し下さい。個性が豊かな子達ではありますが、皆勇者様の為に結成した優秀な子ばかりです。どうか御付き合い願います》

「はいっもちの…いや勿論ですっこちらこそ末永く宜しくお願いします」

 すると何やら画面内が何やらざわざわと騒がしくなる。

 一度画面が消えて暗くなると、シドの顔が画面に映る。

《お知らせの為固定カメラに切り換えました。可動量が低下しています。ブルーホールに魔力を捧げて下さい》

 シドがそう言うと、今度はシードの顔が映る。

《僕からもひとつお知らせですっまもなく次の世界に到着します。素材世界『マテリアルヒル』と言い多種多様な種族が生息しているようです。それに素材アイテム獲得率が著しく高いようです。他にも随時お知らせする予定です》

 先程の明るい声とは打って変わって落ち着いた声色で言う。そしてモニター画面には次に行く世界の簡易的な情報が次々と映し出された。

「マテリアルヒル…?」

「うはぁめっちゃ緊張してきた」

「デミヒューマンが殆どを占める世界ね」

《この世界に干渉する為、データを組み込みました》

 そう言うと、後ろでゴトン、音が聞こえ三人は後ろを振り向くと台の上にトラベルバッグに似た物体があった。

「イベントでよく見るカバンだな」

「ヲントバッグじゃない」

「豪勢だね~破産しちゃいそう~」

《メイジさん御眼が高いすね~》

 モニター画面がまた切り替る。今度は先程まで言いたい事だけ言って画面に映った青年、メイカが自撮りをする感じで画面に映る

《あらゆる物や人を中に入れる事の出来る無限で最強の魔法使いの鞄、ヲントバッグを機械と技術を駆使して限界まで再現させて頂きましたっす》

 そう言ってメイカは二つあるヲントバッグを丸い台の上に乗せる。

 すると台から機械音が聞こえる。

《今からもう二つのヲントバッグをそちらに送ります》

 そう言うと、シャトルシップ内にある台から光が放出され一つのヲントバッグが消えたと同時にシロ達の後ろで物音を立てて出現する。

《すみませんす。まだ放出光量の調整中をしてる欠陥品すけど我慢して下さいっす》

 そこまで言うと、モニター越しの機械音しか聞えなくなる。

「……」

《……》

 暫く沈黙していると、メイカが口を開く。

《…すみませんす。この欠陥品一つ一つ転送する上にいちいち時間がかかるんすよ。ちゃんとアップグレードするんでよろしくす》

 そう言うと、メイカは元の位置であろう場所にモニターカメラを置くとスイッチを押してシロ達の見るモニターを真っ暗にする。

《ちょっと!急に回さないでよっそれにまた欠陥品呼ばわりしてっまだなんも完成してないし作ってないじゃん》

《モニター映ってるよ……》

《嘘っ!?あはは……これは失礼しましたっ…えー、只今そちらに三つ目のヲントバッグが来ると思います》

 タイミング良くヲントバッグが転送される。

《奥に更衣室を設けましたので、そちらでお着替え下さい》

 そう言うと、ナイトは後ろのヲントバッグを持って色んな方向から見る。

「これはメイジのヲントバッグみたいだよ」

 そう言ってメイジにヲントバッグを手渡す。

「そしてこれはシロのだよね」

 ナイトは小脇に抱えていたもう一つのヲントバッグを手渡す。

「S、I、R、O、シロっ筆記体だうわぁめっちゃカッケ!」

「じゃあナイトとシロは先に更衣室に行って着替えて」

「「は~い」」

 ナイトとシロは子供の様に返事をした。

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