第8話 再会
「……あー、もうっ腹が立つわ…誰よ!?」
「んー、どうやら僕らが捜している人みたいだね」
腹を立たせるメイジにサーチ―レーダーの反応記録を見せるナイト。
「シノ、何があった?」
「バウティー!少年君を見つけた後ここに連れて来たんだけど、逃げられちゃった」
それを聞いて、メイジはナイトの手を引いて部屋にあるベランダに飛び出す。
「ナイト、私を肩の上に乗せなさい」
「え?うん」
意図が分らぬまま、ナイトはメイジを肩車する。
「マグニファイ」
メイジはナイトの肩で視野拡大の呪文を唱えて辺りを見渡す。
メイジの視界に広がるのは立ち並ぶ建物。その中から人影を探しだし、何者かと戦っている様子を捉えて場所を特定する。
「三番街ね…」
そう言ってナイトの肩上から下りてベランダを後にしようとするメイジを、ナイトに制止される。
「何よ。急がないといけないじゃない」
メイジは怒鳴るが、ナイトは構わずにメイジの体を抱きかかえる。
「三番街だね。体力には自信あるから、滑り落ちたときはよろしくねー」
「楽勝よ」
メイジの不敵な笑みを見てナイトは凄まじい脚力で跳躍し、屋根の上を風の様に走り渡る。
「……はぁ、終わった」
バウティーとシノはナイトによって崩れた柵を見て落胆する。
「ベランダの柵の修理費っていくらだろうな」
「その前にアタシ達で修理しなくちゃいけないんだからね……」
ナイトとメイジが去りベランダは柵が壊されて非常に危険な現場になった部屋を二人は溜息を吐いてもう一度落胆する。
「はぁ~、終わった~!多いんだよっ
大股で最後の敵の胴を斬りつけて倒したシロはそんなことをボヤキながら一息つける。
「止まって~~!」
シロの頭上から声が聞こえシロは上を向く。
そこには空飛ぶ人間が二人いてシロの頭上目掛けて落下している。急な事で状況が理解出来ずシロは上を見上げたまま固まる。
案の定シロは二人の落下物の下敷きになっってしまった。
一方、落下物であるメイジとナイトは初めて味わった高い場所からの落下に動転した後、意識を取り戻して「勇者…!」と声をそろえて呟く。
それを機に今まで姿を現さなかった敵が急に湧き出すと近くの公園広場まで集まると合体し始めた。
それは奇怪に蠢いて巨大な怪物と化した。
シロはその光景を見て夢に出てきたあの怪物と連想させ体を強張らせる。
「お、重い……」
シロはやっと上に乗っている二人に退くよう言うと、ハッとして二人は立ち上がる。
「ごめんね二回もメーワクかけて」
ナイトがシロを心配して言うとシロはナイトの顔を見て口を開く。
「あの時の紳士…!」
シロがナイトの顔を指差し言うと、ナイトは照れた顔をして言う。
「紳士だなんて光栄すぎるよ~」
「そこの二人。お喋りはもうお終いみたいよ」
メイジはそう言うと、ローブから何かを取り出し詠唱をし始める。
怪物はメイジの行動に気づいて拳を振り下ろす。
「危ないっ」
シロはそう叫んだが、メイジは詠唱を止めなかった。怪物はそのままメイジに拳を下すが、メイジは潰されず、無傷だった。
正確にはメイジが詠唱していた防御魔法が唱え終わり、メイジと背後の二人を護る壁のおかげで無傷だった。
「勇者様、ナイト。急所は五つ……頭部と手足よ」
メイジは二人に呟く。
「了解。勇者君を全力でサポートするよー」
ナイトはヘラヘラしながら言う。シロは味方だと分かり、強張らせていた体が少し解れる。
「目指せ全部位破壊!」
そう言ってシロはメイジを横切り特攻する。ナイトもシロに合わせて走り出す。メイジは二人が横切るのを確認してから、新しい魔法を詠唱し始める。
シロは怪物の膝に目掛けて飛び込んで剣を振るう。
剣は怪物にダメージを負わせたがまだ足りなかった。怪物は反撃しようと足を動かす。
シロは距離を置こうと後方に下がる。
「サポートするよー」
シロが下がったのを見てナイトは怪物の足を狙って飛び蹴りをする。あのヘラヘラした好青年がしたとは思えない一撃が怪物の体勢を崩す。
「ナイスです!」
「えへへーありがとー」
「今のうちにっ…」
メイジは呟くと、走って体勢を崩した怪物の前まで来て魔法をかける。
「ビッグトラクトが動くんじゃないわよっ!」
メイジは大きな声で言うと、怪物の影が落ちる地面からオレンジ色の鎖を出して怪物の巨体を拘束する。
「よしっ、くらえ!」
メイジのサポートもあり、シロは素早く怪物の足を斬りつける。
見事、怪物の足は胴体から切り離されて霧状と化して消える。
「あと四つよ」
「あと三つ~」
いつの間にかナイトは怪物の腕を破壊していた。サラサラと霧が晴れる様に怪物の腕が消える。
怪物は咆哮を出して三人の動きを止めた。
それを機に今までとは別物の素早い動きで片方の足でメイジを蹴り飛ばす。
「うぐっ、」
メイジは三番街の扉まで飛ばされ、拘束魔法は解かれて鎖はパラパラと落ちる。
「メイジ!」
ナイトはメイジの側に駆けつける。
「魔導師を攻撃するなんて卑怯だぞ!」
シロは距離を詰めて怪物に向って剣を振るう。
「メイジー…」
「っ、うぅ…うるさいバカナイト…勇者の援護が、最優先でしょうっ」
メイジは重たい身体を起こしてナイトとシロに攻撃力上昇の魔法をかける。
「うん、分った」
ナイトは頷いてシロの元へ走る。
剣を振るうシロの方は殆ど剣の力のおかげで攻撃を防いでいた。
「クソがっ!」
怪物の攻撃を避けようとしてジャンプした時、シロは初めて気づいた。
この世界の重力はそんなに働いていない事を。
「いけんじゃね……」
シロは怪物の足を踏み台にして怪物の胸元まで飛ぶ。そして剣を胸元に刺す。
「この場のマナよ…どうか我が身に宿りその力を御貸し下さい……」
メイジは次の魔法を詠唱する。
「おおわっ」
シロの剣が怪物の胸部に深く刺さり、シロはぶら下がった状態になる。
「うぅ~腕がっ………」
シロはプラプラと揺れてから全く時間が経たない内に腕は限界を迎え剣から手を放す。
「援護完了でーす」
シロの落下する体をナイトは運良く受け止めた。
そしてナイトは笑顔でシロを高々と上空に投げ、怪物よりも高く上空へ飛ばす。
「我が力よ、汝に与え力と化せっ」
それと同時にメイジは詠唱し終えてナイトとシロに攻撃力上昇の魔法を発動し、ナイトとシロの体に重複する。
「勇者君っ」
ナイトは攻撃をしてくる怪物の動く足を破壊する勢いで足を踏みつけ、その弾みを利用して高く跳躍する。ナイトはそのまま怪物の胸に刺さった剣を抜いて飛距離の頂点に達し落下直前のシロに剣に投げ渡す。
「うぉー!漲ってキター!」
シロも器用に剣を掴み、怪物の頭部の中心に剣を突き斬る。
怪物はシロの落下と共に身体を霧状に変化させその場から消え去った。
「………………」
シロは地面にまで刺さった剣を抜いて周囲を見渡し呆然とする。
「やったね勇者君」
ナイトは見事着地してシロに近づいて言う。
メイジも先程まで吹き飛ばされたと思えない程の回復力でスタスタと二人の元に歩く。
肝心のシロはまだ呆然としている。
「ああああああアあああああああぁああ!」
そして突然の絶叫をする。その声にナイトとメイジの体は跳ねる。
「全部位破壊出来なかったぁ…この世界に電源は無えしなぁ…………」
「メイジ、デンゲンってなぁに?」
ナイトはシロから出てきた単語にピンとこず、博識なメイジにヒソヒソと聞く。
「異世界人の発する言葉や文化が私に解るとでも?まだ私は無知よ」
メイジでも分らない言葉だったようで、ナイトはしょんぼりとする。それをシロは見て
「電源って言うのはね、…ほら、サンダーの貯蔵機械?みたいなアレだよ」
ナイトの疑問に答えるシロだが、ナイトもメイジも異世界人である。話の内容の理解は半々か、それ以下である。
「取敢えず、勇者様。貴方様のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「あ。勇者様、先程から勇者君と馴れ馴れしく言葉を交わしたり、勇者様の御体を投げ飛ばすなど無礼を働き、申し訳ありませんでした」
メイジの社交モードにナイトも慇懃な言葉をシロに使う。
二人の今までの態度が変わったことに戸惑いを感じながら自分の名前を言う。
「
シロの名前を聞いてメイジは少し考えてから、
「シゲアキ様ですね」
と話す。だが、敬称を付けられるのに慣れていないシロは困惑しながら言う。
「え、いや、シロでお願いします。あと、様も敬語もいりません…さっきみたいにして下さい」
それを聞いてメイジも困惑する。自分より上の立場の人間でこのような謙虚な人柄の人物に会った事がなかったからだ。
「……シロ、でいいのね…?」
確認するようにメイジは言うと、シロは満面の笑みを見せる。メイジはホッとする。
「シロ…とても呼び易いね。あー…メイジがさっきまで普通に話したのにビッグトラクト退治が終わったら勇者く…シロに目上の人の言葉を言うんだもん。ビックリしちゃった」
ヘラヘラしながらナイトは言う。
「仕方ないじゃない。社交辞令よ」
今までの緊張が取れた様に、柔らかい表情でメイジは話す。
「そう言う魔法少女ちゃんと紳士さんは……」
シロは明るい声色で話す。
「僕の名前はナイト・アウントロ。ナイトって呼んでね」
「メイジ・ジーンよ。よろしく……あと王宮魔導師よ。それに」
メイジはシロの目の前まで近づく。
シロの目の前には黒いローブ、目の上に移せば見下しているメイジの赤い瞳が見える。
「魔法少女より下の貴方は子供かしら」
それを聞いてシロはムッとする。
「なんだよ子供じゃねーし、俺なんかまだ成長するからっ!マジで!メイジなんかすぐ抜かすからな」
「やってみなさいよ」
火花を散らして二人は見つめ合う。
「あぁ…二人共…ケンカはダメだよ?」
「ケンカじゃないから!」
「ケンカじゃないわよ!」
二人の声は共鳴し夜の広場に響かせる。
「随分と仲が良いんだな」
「良くない!」
「良くないわよ!」
遠くからの声に反応して二人は同じタイミングで顔を声のした方に向ける。
そこにはバウティーが困惑を浮かべる顔で此方を見ていた。
「バウティー君助けて」
「断る」
そう言うとバウティーは懐から一通の手紙を取り出す。
「メイジ、王様から君に渡して欲しいと言われていた事を忘れていたよ」
メイジは憤りを浮べながら手紙を受け取り手紙の内容を見る。
信愛なるメイジへ——————————
これを読んでいる頃には勇者と共に旅に出ているのかな?
残念な事に世界はかなり危険な状況なんだ。
君達も一度は闘ったであろう闇色の怪物。
間違いなく心を呑み込む者、トラクトだよ。
奴らは君達や再来ノ光を狙っている。
しかも、そのトラクトを統括する者達も何人か出て来てしまった。
これから向かう世界にいるかもしれないけど、どうか頑張って闘って欲しいんだ。
それじゃあ、よろしくね。
「………」
メイジの顔は段々と冷静を取り戻し目を伏せる。
「私達には時間が無いわ」
メイジはシロの目を見て言う。
「シロ。私達には貴方の力が必要なの…協力してくれる?」
「もちのろん!てか、こちらこそ宜しくお願いします!」
そう言ってシロは会釈する。
「交渉成立だな」
「だね~」
そしてシロとメイジは互いの手を握った。
きつく、固く。
「じゃあ僕らの船に乗ろうか」
ナイトは笑顔で旅の始まりを告げた。
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