第7話 訪問者

「訪問者、だな」

 店を出た二人は身を強張らせながら辺りを見回すと、人影が見えて、それは此方に近づいて来ていた。

「俺は迷子だ。王からお前達の存在聞いたし理解もしているし、異世界の存在も昔から知っている。安心して話してくれ」

 男の口から王様と言う単語が出てメイジとナイトは多少安心する。

「今丁度光ノ勇者を捕まえてな。捜すのに苦労はしたくないだろ?」

 そう言うと、男は踵を返して移動する。メイジとナイトはそれについて行く。

「お兄さんの世界もすぐ闇に呑まれてしまったの?」

「そうだ。……卒業式を終えて仕事を探している時に研究所の方に現れてそれからほんの数十分でこの様だ。それがかれこれ八年前の話だ これでいいか?」

 ナイトの直球な質問に男は淡々と答える。

「時系列にも、異変が起きている……とは言い難いわね」

「時空が歪んでいようと正常でいようと、俺達は八年前にこの地で目覚めた。その事実だけは変わらん」

「貴方達の住んでいた世界はなんて言うの?」

「…職業世界『ジョブプラザ』と呼んでいたな。色んな職人が沢山居て住んでいた」

 メイジも質問したくなり、なんの捻りも無い質問をする。

「名前はなんて言うの?僕の名前はナイトだよー」

「バウティーだ」

「よろしくねー」

「メイジよ」

「嗚呼、よろしく」

 そしてしばらく沈黙が続く中、バウティーと名乗った青年は二番街の繁華街なのか高く聳え立ち並ぶ建物から宿泊施設の中に入って二階に続く階段を上る。

「…騒がしいな」

 バウティーはそう言うが、危険性が無いと判断した三人は怯むことなくスタスタと声のする扉の前に歩み寄る。バウティーが扉の取っ手に手をつける前に勢いよく扉が開く。

 運良く避けたバウティーと死角に居て体中に大ダメージを受けるメイジ。目を点にして目撃し棒立ちするナイト。

 ナイトはメイジに傷を負わせた相手の後ろ姿でも見ようと顔を動かす前に、サーチレーダーが強く反応し、その音だけが大きく廊下に木霊した。—————————————





 一方その頃、シロは見知らぬ天井を眺めていた。

 働かない脳を回転させようとすると、頭に衝撃が走り、体を思わず捻じらせる。

「おはよう少年っ。急に頭を殴って申し訳ない……だけど、これが仕事なんだよ」

 甲高い声が聞こえ、シロは見知らぬ部屋の住人の顔を見る。いかにも天真爛漫と表現出来る様な迷彩柄の装束を身に纏う女性だった。

「人の頭を殴って気絶させるってのが仕事なんですかぁ?」

「うっ…ホントーに御免よ。君強そうだしさ、不意打ちでもしないと出来そうになかったんだ」

「イテテ」

 シロは頭に走る痛みを手で押さえながら目の前にいるシロより年上であろう女性の顔を見つめ直し意識を無くす前の出来事を思い出す。

「俺、何かしましたか?」

 年上に見えるからとりあえず敬語を使うシロだが、それを柔和な笑みで女性はシロを見つめる。

「堅苦しくしないでよ。多分付き合い長くなるんだろうから…」

 シロは彼女の言葉に疑問を持ちながら言葉の続きを待つ。

「アタシの名前はシノ。君と同じ迷子で貴方達の事を待ってたの」

「俺を、待ってた…?それに達って……?」

「そうよ。あれ知らなかった?これから少年君はこれから来るお供さん二人と一緒にお仕事をしてもらうんだよ?」

 少年の頭に疑問が増えた。

 待って下さいと言うと、敬語無しとシノから制止され、訂正する。

「待ってよ。俺何で初対面の相手と仕事しないといけないんだよ。凄腕ならいいけどっ」

 困惑するシロを他所にシノは少年に困惑を増やす。

「君は再来ノ光に選ばれし勇者だよ?」

「何で決まってるんだよ!」

 メンタルの強い女性からのキツイボケだと思い、シロはテンポよくツッコむ。

「剣」

「え?」

 シロのツッコミはシノの真剣な声によって現実に戻される。そしてシノはシロの顔よりも下の手首に視線を落とす。

 シノにつられる様にシロも自分の手首に視線を落とした。そしてシロの視界に妄想と現実を一体化させた。

シロの掌から夢の中で手にした光る剣が現れたのだ。

「それが、君を選んだんだよ」

「そんな………こんな剣が…?」

 シロは現実を直視しきれなかった。

 シロは手に持っている剣を落として勢いよく部屋の扉を開ける。開けようとしていたお供になる者達を知らないまま——————————————————————




 やがてシロは外に出てくる。三番街と書かれた看板を通り過ぎ来ると体力の限界で足を止めた。ハァハァと肩で息をして掌を見つめて先程捨てた剣の感触を思い出す。

 そんなシロを囲む様に影が現れ夢の中に出てきた大きな怪物よりも小さい闇色のモンスターに姿を変える。

 シロはシロはモンスターに囲まれ身を震わせたが、シロの掌が光出し、先程自ら手放した剣が現れる。

「離れる気は無いのかよ……」

 シロはそう呟いて、モンスターに身構える。

 その瞳には不安の色はあるが、困惑の色はもう無くなっていた。

 一歩踏み込んでシロはモンスターの頭部目掛けて剣を振る。剣の威力が凄いのか、シロの腕力が凄いのか、モンスターは霧になって消え去る。

 背後からモンスターが襲い掛かるが、剣の本能でシロにダメージを与えることは無かった。手応えを感じるシロは笑みを浮かべながら、剣を振るい、モンスターをなぎ倒していく。

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