第二章 迷子世界

第6話 交差する住民

 目が覚めるとシロは知らない世界の知らない町の路地裏に居た。唐突にきた吐気と眩暈に戸惑いながら、今までのことを思い出して一思いに叫んだ。

「……なんで、こんな事になったんだよおおおぉぉおお!」

 叫び終わったシロは小さく蹲り自分の弱さと惨めさを嘆いて空腹を堪えながら途方に暮れていた。

「世界の終焉、現実リアル、夢………はっ、異世界召喚!?いや転生…?」

 そう言って、シロはおもむろに立ち上がり、路地裏を抜けると、そこはレトロな雰囲気の町の中であった。

転生トリップだ…!」

 シロは死ぬまでの夢だった異世界に興奮して元気を取り戻し、早速情報収集を始める。

「人っ子一人も居ないや。…おっ、店がある…明かりが点いてるってことは人いるな!」

 人が居ないからか、シロは大きな独り言を言い、勢いよく階段を上って明かりがついているお店の中に入る。

「いらっしゃいませー、ようこそサモンの召喚屋でース。どのようなご用件でしょうか?」

 店のカウンターの所に居たのは、シロよりも幼く見える白いローブを着た少年だった。

 シロは勇気を出して自分が一番気になる事を簡潔に言う。

「ここが何処か教えて下さい」

 そう言うと、店員であろうっ少年は笑顔で話す。

「お客さん、迷子なんでスね」

「え?」

 耳を疑った。初めて迷子と言われたからだ。

「迷子って……」

「この世界では闇に呑まれた世界の人のことッス。そしてお客さんは今日来た新しい迷子のお客さんなんでス。そしてお客さんの質問の答えとしては迷子世界『ロストタウン』の一番街のサモンの召喚屋でースっ」

 その話を聞いてシロはまたあの出来事を思い出す。

「可哀想なお客さんの為に、何かサービスしますッス。そうスね……無料券を差し上げまッス。私のお店と下のアクセサリーショップと合成屋限定でご利用できますッス。あと、僕の名前はサモンです。よろしくお願いしまッス」

「あ、はい…シロって言います。よろしくお願いします……」

 そう言って無料券であろう紙を握って、シロはお店を後にした。

「はぁ…クロ、ハイナ……絶対生きてる…よな。俺が生きてるから大丈夫だよな」

 シロは無料券で何か手に入れようと下にあると聞いていた店に行くため、階段を下りる際にシロは急に勢いよく階段を上る黒い人物にぶつかってバランスを崩し尻餅をつく。

「イテテ……」

 文句の一つや二つを叫ぼうと顔を上げると白い手が目の前にあった。

「大丈夫?ケガはナイ?」

「え?あ、はい」

 唐突な事にシロはノーと答えることなく白い手に掴まり立つ。よく見ると自分自身を立たせてくれた男の人は白いマントに軽装な甲冑を身に纏っていて、白い騎士を連想させる服装であった。

「ごめんねー、悪気は無いんだ。実は僕らね、此処に来るの初めてなんだ。迷子って呼ばれるんだっけ。後ね、キラキラした子捜してるんだぁ。見つけたら教えてね」

 そう言ってのろのろと落ち着いた足取りで階段を上って行く。

 それを見てシロは幼馴染二人の顔を思い出して、必ず見つけだすことを決意して二軒目の店の中に入る。—————————————————



少し前 シャトルシップ船内にて

此方純白世界『ホーリーランド』王宮地下ファクトリーです。応答願います》

 船内の中に響く通信受信機から機械音の混じったシードの声を聴いてメイジは答える。

「此方シャトルシップ船内です。シードどうしたの?」

 砂嵐の目立つ中、シードはナビゲートをする。

迷子世界『ロストタウン』に着きました。この世界は闇に呑みこまれた世界の人間達の生き残りがいるみたいです。情報によりますとその者達は迷子と呼ばれているようです》

「ありがとう。シード」

《あとそれと、メイジさんと話したい人がいるんでいいですか?》

《ちょっバカ!止めろって……え~とどうも、…先程はウォッシュをブチ撒いてご迷惑をお掛けしてすみませんでした》

「いえ、大丈夫よ。お仕事お疲れ様」

《あっ、はい…!ありがとうございます》

《この世界では干渉しても支障がないようなので言語の共通化しかプログラミングしません。それでは頑張って下さいね》

 そう言ってブチッと音を立てて通信は切れた。

「行くわよ」

「はーいっ」

メイジとナイトの眼の前は真っ白になった――――――――――――――――――――





迷子世界『ロストタウン』 大門前にて

 二人がついた世界はレトロな雰囲気のある町であった。

「メイジ、アレ……」

 空を見上げて星を指さすナイトを見てメイジも空を見上げる。そこには、暗い夜空の星の一つが小さく点滅してもう二度と輝く事の出来ない光景であった。これは、他にも存在する世界の中の一つが闇に呑みこまれた事を物語っていた。

「早く少年君とキースを見つけないと…」

「私の甥っ子もよ」

 そう言って、二人は辺りを見回すと、ナイトがある事に気づく。

「あれ、僕らの世界の字じゃない?」

「そうね。…まさか視覚まで共通化されているのかしらね……とりあえず入りましょう」

 そう言って、メイジは足早にアクセサリーショップと書かれた看板の店に入る。

「いらっしゃ…げっメイ叔母さん。ナイト騎士隊長さんもいる…」

 振り返った店主は一瞬笑顔を見せたが、客が身内だと分ると、開口一番に嫌な態度をとる白いローブを着た少年。彼を見るなりメイジはその少年の両肩をがしりと掴む。

「エレン!貴方何してるの!?姉さ…お母様を心配させては駄目とあれほど教えたでしょう!何故っ………」

 そこまで言うと、メイジは唇をきゅっと噛む。

 エレンと呼ばれた少年は涙を溜めながらメイジに反論する。

「いくらやってもお父様に褒められない、認められない、お母様は大丈夫と言うけどっ、自信が無いんだよ…だから、」

「だからお父様の魔法の素材を勝手に使って異世界にまで家出したって言うの!?」

 ナイトは熱くなりかけているメイジをエレンから引き離して自分の思っている事を言う。

「エレン君。僕は元々騎士になる才能は無かったんだ。でも、僕は成れたんだ。しかも騎士隊長に。その、僕が言いたいのは、努力したから出来るものなんだよ。騎士も魔導師も。………エレン君は精霊術師か」

そう言ってナイトはウエストポーチに変形させたマジックパックの中を漁る。

「多分ナギトさんにはまだ伝わらなかったのかもしれないよ?だからさ、アルト君とサモン君を説得してさ、お家に帰って頑張ろうよ」

 そう言ってマジックパックから取り出した石をエレンに見せる。

「店員さん、これでアクセサリーを作って下さいなー」

 そう言って、ニコッと笑う。

「かしこまりました!」

 エレンは石を手に取り、手に力を込めて精霊術を使う。

 掌からキラキラと小さな光が出現すると石の中に入ったり、石に衝突して整形している。

 しばらくして石は紫に輝く装飾品となって出来上がった。

「すごいやエレン君っ君には才能があるんだよ」

「五十点。才能があっても努力は必要よ」

 初めて加工する工程を目の当たりにして目を輝かせるナイトに対し、厳しい言葉を言ってメイジは足早にその場を立ち去った。それを見てナイトはエレンにありがとう、とお礼を言って店を出る。店内からは気合の入った「またお越し下さい」が聞こえた。

「メイジ、あんなこと言っちゃあダメでしょ?」

「厳しさも教育よ」

 そう言って、メイジはナイトの手に持つ装飾品を手に取ると呪文をかけて先程とは全くの別物の輝きを放つバッチを作り上げた。

「こっちの方が好き」

「自分好みじゃないか」

「これは貴方が着けなさい。二人のジーンの加護の付いた装飾品よ。有難く思いなさい。そしてエレンに足りないのはエフェクトを使いこなせていないことよ」

 そう言って、メイジは新しく加工したバッチをナイトの左胸のポケットに挿した。

「目的はまだあったわね」

「だねー…キースは大丈夫だと思うんだけどね」

「隣のお店で聞きましょう」

 そう言って、二人は隣のお店の扉を開ける。

「はいはい、ただいまー、…メイ姉さんっすかー………」

「説教をしたいのは山々なんだけど、また今度にするわ。今は人を探してるの」

「こんにちはーアルト君」

 アルトと呼ばれたメイジのもう一人の甥っ子はナイトに会釈をしてメイジに言葉を返す。

「そう言えば、サモンの店が騒がし……くないけど、人が来店していたみたいっすよ。誰だい?王様?」

「光ノ勇者…かしら」

 心中で一驚したが、顔に出さぬ様に言葉を返す。

 それにアルトは手をパンッ、と叩いて笑顔で話す。

「ならハイっ。サーチレーダー!これひとつで人も物も簡単に探し当てることが出来ますっお値段なんと10K《キー》です!」

「安いわね。ナイト買って」

「えー…10Kって案外お財布に乱暴なんだよー……」

「まいどありっす!」

「早速行くわよっ」

 そう言って店を飛び出すメイジ。

 それを見てある程度使い方を聞いてから店を出たナイトは、

「メイジったら焦りすぎだなー」

 そう独り言をポツリと言っていた時に、メイジにぶつかって尻餅をついた少年を見て咄嗟に手を差し伸べる。

「大丈夫?ケガはナイ?」

「え?あ、はい」

 唐突な事に尻餅をついた少年はナイトの白い手袋をしている手に掴まり立つ。そんな彼に先程購入したサーチレーダーが反応するので、少し疑いつつも、この事をメイジに報告しようと思いながらナイトは少年に口を開く。

「ごめんねー、悪気は無いんだ。実は僕らね、此処に来るの初めてなんだ。迷子って呼ばれるんだっけ。後ね、キラキラした子捜してるんだぁ。見つけたら教えてね」

 そう言って、彼の行く先を見ずにメイジが入って行ったお店に入る。

「メイジ…」

 ナイトが次のお店に入ると先程見た光景が目の前に映る。

「ナイトさん!助けて下さいよ~。オバネエなんでこんなに怒ってるんスか?」

「サモンの態度が悪いからよ!」

 この争いを止めるべく、ナイトはまたメイジの体を抱締めて取り押さえる。そしてナイトは先程の出来事をメイジに報告する。

「そういえば、心がキラキラ輝いてた少年君と話したよ」

「嗚呼、それなら僕も会いましたッス闇に呑まれた世界のお客さんみたいで、とても悲しそうでした」

 サモンは思い出したかのようにナイトの言葉にその少年の印象を教える。

「ふん。そうだったかしら?」

「メイジが急ぐから純粋な人間の心が見えなかっただけだよ」

「やっぱりオバネエ短気でせっかちさんだから僕とナイトさんの言葉理信じてないんでしょ~?」

「あ~!腹が立つわね!…っで?仮に私でもその小さな輝きの少年と接触したとしてっ、それがどうしたのよ」

「その少年と話した時ね、さっき買ったサーチレーダーが反応してて…もしかしたらあの子が光ノ勇者じゃないかって」

「何で早く言わないのよ!」

 メイジは自力でナイトの腕から離れる。

「だってメイジが急ぐから………」

「とにかく急ぐわよ!サモンっ今回は特別に見逃してあげるから感謝しなさいっ!今回だけよっ!その代り全部終わったら号泣させてでも連れ帰るからねっ」

 サモンを人差し指でピシ、と指してからメイジはナイトの手を引いて、急いでお店を出る。

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