第4話 別れを告げに
「百歩譲って許しましょう。ですが、信頼している範囲に私が入って居ないという事実に怒りを感じますね」
王に直接仕える者だけが使用出来る部屋の一つ、ビューロクラット会議室でメイジに対面するシーカーが手紙の内容を音読し終えると笑顔で言う。
「それにしても、これからどうすれば……………」
イールは、心配そうにシーカーの横から手紙を見つめる。
「そうだね。メイジが居なくなったら、僕等には光護玉の礎の加護が無いまま過ごさなきゃならなくなるからね」
椅子の背もたれに体重を預けるナイトはヘラヘラして言う。
「その通りです。メイジ一人が居なくなるだけで回生していた光護玉の礎の加護が半分以上も消失する。礎が貯蓄しているであろう加護の力も完全に働かなくなるのは時間の問題です。しかも、闇に対抗する王様が不在の中でそんな事すればこの世界も闇に呑まれることになりますよ」
そう言って、心から怒っているような眼でメイジの応答を催促するシーカー。
楽観的に捉えていたナイトだったが、事態の危惧さが理解出来たようで先程のヘラヘラした顔とは打って変わって表情が強張る。
当のメイジはそんな事には屈せずに自分の信念をシーカーに見せる。
「……私は、キースの為なら光にこの身を捧げるし、闇から護りきるつもりだから、少年と共に行動しようと思います。ナイトが居なくても、私は一人で遂行するわ」
「なら僕はメイジと王様とその少年の為に命を懸けて護るから共に行動してもいいよね?」
そう言って微笑むナイト、それを見てシーカーは溜息を吐いて会議机から離れて電話のあるテーブルまで歩く。
そしてどこかの電話のダイヤルに指を動かす。
「…私だ。王様が編成した整備士の所に回線を繋いでくれ。…ハンチョウ聞えているな。部下全員を呼べ今すぐ」
どうやら整備士の人達に電話を繋いでいるようだ。
「…そうだわっ使用人全員で光護玉に魔力を捧げましょう!そうすれば、メイジやナイトが不在でも帰ってくるまで何とかなるわきっと」
「アテンション!実行する時が来ました。至急稼働準備を整えて下さい。…掃除をしていない…?遠征者を迎えられる程度に掃除しておきなさい。それでは………イールそれじゃあ足りない」
イールの提案に電話を切ったシーカーが机に戻りながら言う。
「魔法を扱える市民にも協力してもらい
そう言って、メイジとナイトを交互に見てから口を開く。
「ナイトとメイジは王様と共に新大陸の開拓の為不在という事にしておく」
「それじゃあ行っていいのよね!そうなのね?」
「やったぁ!」
「良かったわね」
「地下ファクトリーで王様が事前に進めていたプロジェクトチームに連絡をしたところ整備士達が昨夜から急ピッチで準備をしていたようです。メイジとナイトは長旅の準備をしてから地下ファクトリ―へ向いなさい」
「はいっ!親の様にお世話になった二人に言います!今までありがとうございましたー、これからメイジと旅に行きますが辛い試練だとしても頑張って王様とメイジとその少年君と共に世界を救っていけるよう頑張ります。だぁいすきーっ!」
そう言ってナイトはイールとシーカーを抱締める。それをメイジは嬉しそうに眺めて会議室を後にした。――――――――――――――――――――――――
マギカ横町 ジーン邸にて
久しぶりに実家に帰って来たメイジはここで暮らす姉と甥に会いに来た。
別れを告げに。
「ただいまー。姉さんいる?」
「メイちゃん…!お帰りなさい。帰って来てくれて嬉しいわ…」
階段を下りる音がして階段の方を見ると少しげんなりとした女性が下りて来た。彼女はメイジの姿を見つけると足早に玄関に向かいメイジを抱締める。
「会いたかったわ…さ、座って…今お茶を出すわ」
そう言ってメイジの姉シアーはティーカップや茶葉を浮遊させてメイジの目の前で紅茶を作る。
「姉さん…わざわざそんな事しないでもいいのに…ほら、水を沸かせないじゃない…魔力配分は計画的にしないと……」
「ごめんね…最近覚え始めたんだけどね」
そう言ってシアーは苦笑いをする。
「王宮の仕事ってどんな感じなの?」
「んー、人によって違うって感じよ。忙しい人もいれば退屈そうな人もいるよ」
「へぇー…そしたらメイちゃんは忙しい人なのね」
「その逆よ。私達魔導師のほとんどは遠征とかが少ないからほとんど光護玉の回生で———」
「回生?」
「……ほら、光護玉に魔力を蓄えて他の人達の加護を追加で付与することを私達は回生って言っているの」
「へぇー」
「…その回生でいるって感じだから魔法薬の研究や魔法銃の適性研究や普及化運動とか…それしかしていないの……それに比べたらメイド長のイールはほぼエンドレスの年中無休で忙しい人だし、シーカーも王様の秘書や事務関係の仕事で忙しいし、…あのナイトだって比較的に見たら忙しい人間だし…私だけよ王宮で一番退屈な人間は」
紅茶に砂糖を入れかき混ぜながら言う。
「そう…。ならナギトさんは忙しくて遅いのね」
「うん。義兄様は魔導騎士隊長だし、一番頼られているから。先週も王様の護衛を任せられたのよっ一人で!」
「良かったわ…!ナギトさんとてもハンサムだから王宮内で好きな人ができたんじゃないかって思っちゃって……恥ずかしいわね」
「義兄様は堅物だから大丈夫よ」
メイジとシアーが二人して紅茶を飲んでいる時、メイジはこの家の違和感に気づいて、シアーに尋ねる。
「それにしてもどうしたの?今日はやけに静かみたいだけど…」
普段は甥っ子達の賑やかな声が飛び交う明るい家なのだが、今日は人の気配すら感じない。
シアーは子供の頃の嘘がバレた様に顔を蒼白にして言葉を失くす。やがて諦めたかのように静かに話す。
「実は……あの子達、何処かへ消えてしまったの……。わたし、たくさんっ…捜して、あの人の部屋をみたら…。っ、テレポートの魔法素材が全部無くなってて。…それに関する本も無くて………何処かの世界へ飛んで行ったんじゃないかって、うぅ~…」
そう言って泣き崩れる姉を抱締めて背中をさする。
「大丈夫よ姉さん。姉さんの子は私が捜してあげるわ。実はね、……王様と遠征に行くことになったの。私とナイト…。それで長い間王宮を留守にするから皆で光護玉の礎に魔力を回生するのを手伝って欲しいの」
「わたしが…?私達が…?」
「緊急なの、お願いします」
そう言うと、くしゃっとなった顔に笑みを浮かべてシアーは言う。
「分ったわ。あの子達をよろしくね」
「うん。それじゃあ、…行くね」
「待って……!」
立ち去ろうとするメイジを止めシアーは首に身に着けていたペンダントを外してメイジに着ける。
「メイちゃんは…とっても、とっても強い。ジーン一族歴代魔導師…最高で最強の魔力の持ち主。でも壊れやすくてつけこまれやすいの。これはメイちゃんの事を護ってくれる御守りよ。絶対外さないでね…!お風呂の時も、…絶対っ………」
「分ったわ。ありがとう姉さん」
メイジは笑顔で別れを告げると飲み干したティーカップを魔法で片付けさせて家を出た。
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