6「遺跡へ」

 さて、仕事の当日、アルテーアは

以前のように四輪駆動車型のカーマキシで、館に来た。

達也たちの準備は整っているので、そのまま、出発した。

アルテーアのカーマキシについていく形で、車を走らせたのだが、


「………」


運転席で達也が難しい顔をし始めた。


「タツヤ君、どうかしたの?もしかして奴らの気配を感じた?」


と助手席に座るレナが心配そうに言うと、


「いえ、そういう事はありません」


レナは、時折襲ってくる連中の事が心配であったし、

アルテーアにも状況は伝えている。彼女は、


「どうせ危険は付きものなんだし、

それにあなた達ならどうにかできるでしょう」


と言って依頼をやめるという事はしなかった。


「なんといっていいのか、妙な気配がするんです」


その気配は、何とも形容しがたいものだった。


「アルテーアさんの車と言うか、カーマキシから感じるんです」


感じるだけで、具体的な場所がわからないという。


「危ないものじゃないと思いますが」


どうも気になるという。

だからと言って、車を停めてまで調べるほどの物ではないと、

思ってもいた。


 しかしこの対応が、この後起きる厄介ごとにつながるとは、

達也もレナも、気づいてはいない。

そしてこの後、車は人里離れた森の奥へと向かっていく。

あとかなりの悪路だったが、それぞれのカーマキシは、

特に何事もなく、進んでいった。


 そこは森の奥の洞窟、車が入って行けるだけの広さがあった。

とはいえ一台分が、通れるだけの広さなので、

取り敢えず、一休みも兼ねて、洞窟の前でいったん停車する。

そして三人は、車を降りて、


「ここがゴールドラドの入り口なの?」


とレナが言うと、


「ええ」


アルテーアは答える。レナは財宝に興味があるわけじゃないが、

昔から、伝承は聞いているので、いざ目の前にすると感慨深いものがあった。


 そしてアルテーアは、下見で一度ここに来ていて、


「洞窟の先は行き止まりになってるわ」


ここで、懐から鍵を取り出し、


「これを使えば、先に進めるの」


鍵が財宝のありかに導く物と言う話は有名だが、

具体的な場所は謎とされて来た。


「鍵は、最近だけど地図は、結構前に見つかっていたの」


鍵は噂になってしまったが、地図と、詳しい事が書かれた古文書は、

噂になることなく、秘かに彼女の所属する博物館が、手に入れていたという。


 なお洞窟内は行き止まりまで一本道なので、

案内がいらないというのと、カオスセイバーの持ち込みが、

優先なので、洞窟では達也たちの車が先に入る事になる。

洞窟に突入する前に、達也は、


「この前、鍵を取り戻すのに急いでいたようですが、

レイカールトを気にしての事ですか?」

「そう言えば、タツヤ君、奴とやり合っていたのよね」


達也は、カジノの一件をアルテーアには話してはいなかったが、

カジノの一件は噂になっており、アルテーアは、それを聞いていた。


「そうよ。やつがゴールドラドの鍵を手に入れ得ようと、

妙な事をしていたから警戒したの」


と答えた。


 さてここで、レイカールトについて、ゼルマ・レイカールト、

この国の貴族でレイカールト家現当主。

達也は、カジノの一件の後、気になって彼女の事をメディスに聞いていた。

なぜメディスに聞いたかと言うと、カジノであった彼女が、

妙に高貴な雰囲気があったので貴族なのではと思ったからだ。

そしてメディスは、その方面に詳しいような気がしたから。


 話を聞いたメディスは、


「知っておるぞ。奴は有名な不良貴族の一人じゃからな」


不良などと言われる如く、彼女の素行はよくない。

元々レイカールト家は名家で、この国の宰相を輩出した事もある家柄でもある。

そして彼女の父親は、有名な考古学者でもあった。

現当主である彼女も、同じ道を歩んだのだが、

しかし彼女は、お宝目当ての考古学と言うよりも、遺跡荒らしとなっていた。

強引な上に横柄な性格で宝を手に入れるためには、手段は選ばず、

時には犯罪紛いな事もする。ただ、貴族であるがゆえにお咎めもない。

故に嫌われ者。


 宝を手に入れる事に対する執着は人一倍の彼女が、

ゴールドラドの鍵が世に出た事を知って、

黙っているはずはなく、あの日も当然ながらカジノを襲撃し、

鍵を手に入れようとしていた。


 もう一つ達也には気になる事が、


「しかし、襲撃の際につかったロボ……この世界じゃ魔機神ですね。

あれは一体?」


カジノの中にいた達也は、腕しか見ていないが、

全体像は、町の人たちの会話から耳にした。

話を聞いた時メディスは、実物を見たわけじゃないそうだが、


「あれ、マキシと言うよりもロボかもしれんぞ」

「どういうことですか?」

「最近、奴は異界人を囲っておると聞く、

しかも、タツヤのいた世界とは違う世界の、

テクノスガイアの人間じゃないかと言われておる」

「テクノスガイア?」

「マキシの元になったロボがあったとされる世界じゃよ」


魔機神の元になったロボとかが来たように、

その世界の人間、達也の世界に比べても、かなり稀であるが、

この世界に来ることがあるという。


「そいつとは別人じゃが、テクノスガイアからの異界人が、

リミマキシの開発にもかかわっておるしな」


とメディスが言う。


 そして達也は


「とにかく、あのロボは、彼女のお抱えの異界人が作ったと言う訳ですか」

「そうじゃ、他にも同じようなものを作っておって、

遺跡荒らしに使っておるそうじゃ」


ここで、達也は、ふと思い当たる節があった。それは、あの時の声である。

気配の感じから、外にいたロボに乗っているような感じだった。

その上、声と気配から少年のようだった。

なお彼女のお抱えの異界人がどういう人物かは分からないという。


 それと不良貴族と言うのは、半ば国の認定みたいになっていて、

このレッテルを張られると、多少の無礼を働いても罪には問われない。

なので達也が鍵を奪い返した事も、お咎めなしである。


 そして話は戻り、洞窟の前にて、アルテーアは


「奴みたいな、不良貴族にゴールドラドの宝を渡すわけにはいかないわ。

あれは、博物館で管理して皆に公開すべき物よ」


またゴールドラドの装飾品は、芸術品としての価値もある。

実際、隠匿を免れ、世に出ているものそっちの面でも高く評価されている。


 一休みした所で、いよいよ洞窟に入る。

先に述べた通り、達也たちの車が先、あとからアルテーアの車が入る。

車が通れるが狭いのと、先は行き止まりなので、徐行運転で行く。

アルテーアの言うように、一般道で先は行き止まり。

ここでいったん止まり、車を降りる。ライトは付けているが、

一応暗視スキルがあるので、一応つけてるだけである。


「この先は、どうするんですか?」


と達也がアルテーアに聞くと、彼女は「ゴールドラドの鍵」を取り出し、


「この鍵を手にして、壁に向けて、呪文を唱えるそうよ」

「呪文ですか?」

「しかも、異界で有名な言葉らしいわ」


その言葉を聞いて達也は、もしかしてと思ったが、

実際にアルテーアは、壁に鍵を向け、その言葉を言った。


「開け、ゴマ!」


すると鍵が輝き、壁が開いた。


 あまりにもべたな展開に、達也は思わず笑いそうになるのを堪えつつも、

とにかく道は開けたので、先に進む。

壁の向こうは先ほどまでと違って広く車が二台通れるだけの広い道なのと、

ここからは入り組んでいて、地図を持つアルテーアによる案内が必要になるので、

彼女の車が先行する。


 そして運転しながら達也は、


「一見、普通の洞窟みたいだけど……」


何かが気になるようで、助手席にいるレナが、


「どうかしたの?」

「いえ、『周辺把握』が機能しないもので、たぶんサーチ避けってやつですね」


怪盗の遺産の時と同じ、まさに何かを隠しているという感じだ。


 更に進んでいくと明かりが見えてきた。そこには明らかに光源があるようだった。

洞窟を抜けると、


「確かに町がある……」


そこには巨大な石造りの建物が立ち並ぶ地下都市があった。

なお光源はン・カイ遺跡と同様に光る石で、

それが天井にいくつかあって、町を照らしていた。


 ここに地下都市があることは、アルテーアから聞いていた。

彼女は古文書からこの事を知ったという。

そして、町に入るとすぐに車を停めるように言われていたので、

停めたし、先行していた彼女も車を停めた。


 そして、アルテーアは車を降りてきたので、達也たちも降りる。


「ここから少しばかり歩きで行くわ」


三人は徒歩で地下都市を歩く。


 達也は都市を見渡しながら、


「ここの建物は、どれも異様に大きくありませんか?」


確かに個々の建物は大きく、出入り口と思える場所も、

人間が通るには大きすぎる。


「ここは、タイタンの遺跡でもあるの」

「タイタン?」


と達也が聞くと、レナが、


「もしかして、はるか昔に滅びた巨人族の事?」

「そうよ」


とアルテーアは答え、事情が分からない達也に説明する。


 かつてファンタテーラには、タイタンの言う巨人種族がいた。

その者たちは、地下に街を築き、猟や農作の時のみ外に出ていたという。

そして、その頃、魔法は存在せず、代わりに強力なスキルを操り、

この世界に君臨したが、ある日、突如として滅亡した。


「こんな地下都市は、世界中にあるの」


そしてゴールドラドから金細工を持ち出した王子は、

この遺跡を偶然発見し、そこに隠したと、

発見された古文書に書かれていた。


「私たちが来た洞窟は、元は巨人の子供たちの抜け道だったそうよ」


つまりきちんとした出入り口ではなく、子供がこっそり外に出ていくための

小穴みたいなものらしい。なお本来の出入り口は塞がれているとの事。


 そして達也は、


「その巨人たちは何故滅亡したんですか」


と尋ねると、アルテーアは


「詳しい事情は分からないわ。

伝承では、驕り高ぶった為に、暗黒神の怒りに触れたともいわれている。

人間とは違って光明神からも嫌われていたから、助けてもらえなかった」


ここまで、話を聞いたところで、

こっちに巨大な何かの気配が向かってくることに気づき、

達也の表情が強張る。その様子にレナは、


「タツヤ君?」


と声をかけるが、直後、ゴーっという音で、

何かが近づいてくることに気づく。するとアルテーア


「来たわね……」


と言って、緊張の面持ちとなる。


 そして三人の前に、金色のドラゴンというか、

ロボット怪獣のようなものが現れた。

これが、この遺跡の守護者、ゴールドラグであった。

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