5「再びアルテーアからの依頼」

 カジノで騒ぎが起きる少し前の事、外にいたレナは、


「マキシ!」


と思わず声を上げる。

何という魔機神か不明だが、カオスセイバーと同じ位の大きさの、

鉄の巨人が、転移によるものか突如として出現した。

その巨人は、装甲は飾り気もなく単純な金属の鎧と感じで、

所々、骨格や駆動部がむき出しになっていて、未完成品と言うような感じを見せる。


 転移で突如現れたソレは、拳でカジノの壁をぶち破ったのである。

その様子を見たレナは居てもたってもいられず、一旦、その場から姿を消した。


 しばらくすると、達也が何度か邂逅した緑色のドラゴンが現れた。

空から飛んで来たという感じではなく、鉄の巨人同様に、転移でもしてきたのか、

突然、街のカジノから少し離れた場所に現れたという感じ。

とにかく街中に、突如巨大なドラゴンが出現したことで、

周囲は更に騒然となった。


 そしてドラゴンは、短距離であるが空を飛び、鉄の巨人の側に着地して、

巨人と対峙する形になる。すると


「レイカールト様、緊急事態です!戻ってきてください!」


という声が鉄の巨人から響く。更には、


「来ないで……」


と声を上げ、逃げ腰の様なので、どうやらこの鉄の巨人の戦闘力は低そうだった。


 そんな巨人に対しドラゴンは、

当初は今にも襲い掛かろうしているみたいだったが、

その後は威嚇にとどめた。街中なのでここで両者がやり合えば、

大変な事になっていただろうが。その後、巨人は転移により姿を消した。

直後、ドラゴンは攻撃を受けた。

突如、現れたドラゴンを退治しようと冒険者たちが有志を募ってやって来たのだ。

その攻撃は、大してドラゴンにダメージは与えてなかったが、

攻撃を受け、ドラゴンは飛翔して逃げようとするが、


「ファイヤーカノン!」


有志の冒険者の中にいた魔法使いの炎魔法を左腕に受けてしまう。

だが、怪我も意に介さずドラゴンは飛び去った。








 カジノの襲撃で、レイカールト卿なる人物から、

ゴールドラドの鍵を取り戻した達也だったが、

気配から、緑のドラゴンが攻撃を受けていることを知って、

思わず飛び出そうとしたが、

気配で飛び去ったことを知り、外に出ることはなかった。


 そして煙も晴れたところでカルメーラは、


「こんな事になるなら、あの職員に、渡しておけばよかった……」


と後悔しているように言い、達也に向かって、


「鍵も金もくれてやるわ。さっさと帰って」


達也に当たるように言うが、そんな達也は、意に介さずというように、


「僕の目的は鍵だけです。お金は最初に賭けた分以外は、お返しします」


そんなわけで、お金の方は最初にチップにした分だけ払い戻してもらう。


「さっさと出て行って!」


と悔し気な様子で、カルメーラは達也を追い出したが、

「二度と来ないで」とは言わなかった。

彼女は、また達也と再選して、今度こそ勝ちたいという思いはあるようで、

達也も気配からその思いを読み取っていたが、

彼は、賭博術の事もあって基本的にかけ事はしないので、二度と来る気はなかった。


 カジノを出た達也は、もう遅くなっていたが、

翌日は運送の仕事があるので、アルテーアの滞在する宿に向かった。

そして彼女の泊まる部屋に向かうと、


「どうしたの?タツヤ君。こんな遅くに」

「渡したいものがあって」


そういうとゴールドラドの鍵を渡す。


「これって!」


驚くアルテーアだったが、


「どうして……まさか、タツヤ君」

「別にお金は損してはせんから……」


と言いつつも、


「それにこれは、レナさんからの頼みでもありますから、

お礼を言うならレナさんに言ってください」


もちろん嘘であるが、ただ彼女がアルテーアを助けたいと思っているのは、

気配で分かっていたし、あと自分で勝手にやった事なので、

自分の手柄にするにはおこがましい気がしたのだ。

それに、レナに手柄を譲っておけば商会の評判につながるという思いもある。


「それでも、ありがとうタツヤ君」

「いえ、僕は頼まれたことしただけですから、それじゃあ、これで」


そう言うと、達也はアルテーアの泊まる宿を後にした。


 そして翌日の早朝、ボックスホームで目を覚ました達也は、

いったん外に出て、朝の鍛錬をして、

ボックスホームに戻り朝食を食べ、いつものように運送の仕事に行って、

それを終えるとレナの館に戻る。なお事務所とカオスセイバーというか、

ボックスホームは、転移ゲートで繋がっているが、

いつもの癖のようなもので、普段停めてある館の庭に停めて、玄関から館へと入る。


 事務所に向かうと、いつものようにレナがいて、


「おはようございます」

「おはよう……」


とだけ返してくるレナだが、どこか不機嫌そうである。

気配からは、何とも言えない複雑な感情を読み取れたが、

それ以上、つまりは原因に関しては、彼の力の及ばぬ部分なので、

読み取ることは出来ない。


 そして達也は、


「もしかして怒ってます?勝手にカジノに行った事に?」


達也は気配で、カジノにレナがいる事には気づいていた。


「賭けは禁止なのは、ここでの話。就業時間外に、

カジノに行くのは自由だから、それに以前に別に怒ってないけど」


とは言うがその口調は妙に不機嫌だった。


 なお恋愛関係に関しては達也の力でも読めない。

そのことは本人もわかっている。ただ普段は読めても、

たまに読めなくなることはあるので、

気配が読めないからと言って、即恋愛とは考えないのである。

それ以前に達也は恋愛に対しては、かなりの鈍感なので、

レナの不機嫌が、達也への好意から来る嫉妬であるという事まで、

頭が回らないのである。


 そして達也は、レナが嘘をついているというよりも、

自分で自分の感情を否定したいという思いを感じたので、

深く踏み込んではいけないと思い、


「ならいいですけど……」


と言いつつも、ふと気になる事はあったので、


「ところで、右腕どうかしたんですか?」


レナは右腕に包帯を巻いていた。


「ちょっと怪我してね……」

「大丈夫なんですか?よかったら病院を」

「必要ないわ。治療魔法も必要ないほどだから、自然と治るわよ」


この気配から言葉に嘘はないので、それ以上は何も言わなかった。


 そしてこの時はほかの面々は事務所におらず、

二人きりだったので、両者の間に何とも微妙な空気が漂う事になり、

鍵をアルテーアに渡した事、その手柄をレナに譲ったことを話すが、


「タツヤ君の手柄にしておけばよかったのに……」


とやはり不機嫌そうに言われ、ますます微妙な雰囲気となった。


 しばらくすると、達也と同じく運送業務を終えたカサンドラが来て、

ヴィンセントと、マックスを連れたリーザが来て、

それを皮切りにヒミコ、メリッサとアンジェラ、エディトが三人で一緒に来て、

最後にダンテス一家がやってきた。皆が来たことで、微妙な雰囲気も緩和された。

その日は、既に来ている依頼の準備の日と言う感じで、

控えている魔獣退治の為に、武器の整備をしたり、

必要なマジックアイテムの買い出しなどの他、

ダンテス一家やメリッサ達のように、パーティーを組んでいる者たちは、

魔獣退治の打ち合わせ行う。


 もちろん達也も、打ち合わせは別として、武器の整備や買い出しの手伝いの他、

送迎の段取りを決めたりした。それと指定の仕事が増えているので、

運送業務も含め、スケジュールの調整も行う。そんなこんなで一日は過ぎていき、

終業時間には、レナの機嫌も直っていた。






 そして数日後、アルテーアが依頼書を持ってやって来たのである。

もちろん来るなり、


「鍵を取り返してくれて、ありがとうございます」


とお礼を言う。なお今回の依頼は、そのお礼と言う訳じゃなく、

もとよりドラゴス商会に頼む予定だったという。


 依頼内容は、依然と同じく発掘に伴う警護。


「もう知られてしまっているようだけど、今回の発掘は、ゴールドラド」


鍵だけではなく、場所の特定も出来ているらしい。

ただ、鍵を使って入らないと宝は手に入らないという。


「今回は、先遣隊と言う形で、私が向かい。

遺跡の状況を調べた後、人を募っての本格的な調査となるわ」


との事であったが、


「タツヤ君を指定したいんだけど?」

「えっ?」


応接室で、話を聞いていたレナは、素っ頓狂な声を上げたので、


「どうかした?」

「別に何も、でもどうしてタツヤ君なの?」


レナは聞いた。カジノの一件があったからか、

彼女は妙な勘繰りをしていた。なお、その達也は今事務所にいる。


 するとアルテーアは


「マキシの力がいるからよ。ゴールドラドの守護者の事は?」

「聞いたことがあるけど、金色のドラゴンだっけ?」

「正確にはゴールドラグと言うマキシなの」


なお名前が似ているのは偶然である。


「場合よっては守護者と戦う事になるわ。

その為にはタツヤ君の乗るマキシが必要なのよ」


なお重要なのは達也が乗っている事である。


 彼女は、考古学者故に魔機神がパイロットの力を反映する事は知っている。

達也がマドラト団を倒すさまを見ている。

そして彼の持つカオスセイバーが最弱なのは知っているが、

達也の力を反映すれば、ゴールドラグに勝てると踏んでいた。


 一方レナは、不安げな様子で、


「タツヤ君と二人きりで……」


と言うと、


「いえ、この前と違って、もう一人護衛が必要」


今回の発掘では、達也がゴールドラグと戦っている間、

何もしないわけでなく。その間に調査を行いたいのである。

だからその間の護衛を行う為に、もう一人は連れていく必要がある。


「それは、私でもいいかしら?」


とレナが聞くと、


「良いわよ。むしろ歓迎するけど……」


アルテーアは、レナの実力を知っているので問題は無いようだが


「でもレナ、なんか様子が変よ。何かあった?」


と指摘された。


「別に何でもないわ。それより依頼の方だけど、

この前に見たいにすぐって訳にはいかないわ。予定の調整がいるから」

「構わないわよ。この前ほど急がないから。

まあそれも、貴方たちが鍵を取り戻してくれたお賭けだけどね。

本当にありがとう」

「まあ、本当に活躍したのは、タツヤ君だけど……」

「でもレナが頼んでくれたんだから、貴女のお陰でもあるわ」


そうは言うが、達也の嘘なので本当は何もしてないのだから、

お礼を言われても、気まずいだけだった。

かと言って本当の事も言いづらかった。


 その後、アルテーアを応接間に待たせて、事務所に戻り予定を確認して、

達也とも打ち合わせ、日取りの候補を決めて彼女に伝える。

すると、最初に候補に挙がった日でよいとの事で、直に日取りも決まり、


「それじゃあ、お願いね」


そう言うと彼女は、王都へと帰って行った。

なお自動車で来ているので、行き来はそんなに大変じゃない。


 とりあえず新しい仕事が決まるが、


(私も一緒に行くんだし、それにタツヤ君はアルテーアに気があるわけじゃないし)


そうは思うも達也に気のあるレナとして、まだ不安が残るのだった。

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