3「カジノにて」

 さて仕事が終わり、達也は夜にふと思い立って、散歩に出た。

まだあまり遅くないので、街は賑やかだった。夜の街の空気を吸いながら、

達也は考える。


(どうすれば、いいかなぁ)


今、彼の頭にあるのは、昼間のアルテーアの事で、

彼女の落ち込み具合から、どうにかしてあげたいなと言う思いはある。

だからと言って自分にできる事はあるのかという事。

今回ばかりは、彼の武術とカオスセイバーで、

どうにかできる事ではないような気がしていた。


 自然と彼の足はオーヴィカジノに向かっていた。


(ひどい気配だ……)


建物からはろくでもない人間たちの気配がしてきた。そして建物を前にして思う。


(煌月流賭博術を使えば容易いんだろうが……)


達也は敵と認識した相手には、容赦のない人間である。


(やっぱりイカサマをするというのは……)


しかし、今回は妙に尻込みをしていた。


 とりあえず建物の中に入る。

内装は洋画や海外ドラマとかでてくるカジノそのものだった。

ルーレットにトランプ、あとスロットに、なぜかパチンコと丁半博打もやっていた。

時代劇とは違って仕切っているのは、カジノのディーラーの格好をしているので、

違和感があった。


(レナさんの言う通り、イカサマだらけだな……)


煌月流賭博術はイカサマの術であるが、それは同時にイカサマを見破る術でもある。

達也は一目見ただけで、気配を読むまでもなくイカサマが分かっていた。


 そんな中、


「ん?」


カジノのフロアに居る貴婦人のような女性が、気になった。

その女性は狼耳の半獣人で美人だったが、目つきが鋭く、

少々強面で会った。あと気配から、いい人ではない。

ただ、フロアを見て回っているだけで、賭けとかはしてはいなかった。


 それ以前に、気配とかからも賭けをしようと言う感じはない。

ただ良からぬことを考えているのは分かるが、

それは、このカジノにいる連中の多くが同様だったりする。


(何しているんだろ……)


と思う達也だが、カジノで賭けもせず見て回っているだけなのは、

達也も同じである。


 そんな彼は、ある看板を見つけた。

そこには、この世界の言葉で、イカサマをした場合の注意が書かれていた。


『イカサマをした場合、賭け金を没収する上に、賭け金の倍の罰金に加え、

二度と入店を禁止とします』


と言う内容であった。


「ん?」


看板には続けて、


『当カジノが、イカサマをした際、もしその場で証明できたなら、

その方のみにお詫びとして、賭けは無条件で勝利とします』


と書いていた。


(見破っても勝ちになる……)


それを見た達也は、一番安いチップを手に入れ、早速行動を開始する。


 まず最初に行ったのは、ポーカーテーブル。

なおすべてのテーブルで、イカサマをしてはいない。

彼は、やっていそうなテーブルに向かったのだ。そしてゲームが始まると、


「待った!」


と声を上げ、達也はイカサマを指摘した。もちろん、ディーラーは


「何のことです?」


と惚けるし、更には強面のフロア・パーソン、用心棒的な男が出てきて、


「お嬢さん、言いがかりはよくないねえ」


と脅してくるが、達也は動じない上に、他のもっと強そうなフロア・パーソンが、

血相を変えてやって来て、


「止めとけ!そいつはタツヤだ!」

「えっ!あのタツヤ」


そのフロア・パーソンは、この街に流れて来たばかりで達也の顔を知らなかった。


 後から来たフロア・パーソンは、達也の強さを知っているようで、


「どうもすいません」


と詫びを入れつつ、最初に来たフロア・パーソンを連れて、去って行った。

その後、達也はディーラーのイカサマをこと細かく指摘。

流石も惚ける事はできずに、


「すいませんでした!」


と謝り、規則に沿って賭けは達也の勝ちとなり、賭け金は数倍になって戻ってきた。


 なおこのカジノは、例えイカサマを見抜けたとしても、

強面のフロア・パーソンが脅しに来て、指摘を撤回せざるを得ないので、

今回のような事は珍しかったりする。

そしてこの様にすれば、イカサマを使うことなく勝つ事かできる。

そもそもイカサマを見抜くのだから、悪い事ではない。


 こんな感じで、各テーブルを渡って次々とイカサマを見抜いていった。

なおイカサマは、機械的なものや手動で行うものが多く。

機械の動力として感知できないほどの微量の魔力は使うが、

それ以上魔法やスキルは使っていない。それは客のイカサマの防止の為に、

それらを封じ込める結界を張っているからである。

その結界は、強力な魔法や逆に弱すぎる魔法やスキルは抑えられないが、

強力すぎるものはイカサマ向けじゃないし、弱すぎても直接イカサマには使えない。

イカサマ用の機械の動力にする位である。

とにかくイカサマ向けの、本格的な魔法やスキルを使えない。


 後、スキルや魔法だと一般人でも魔力を感じる事があり、

一発でバレてしまうと言う所もある。

なので、イカサマに魔法やスキルを使わないのはこの店に限った事ではない。

故に達也が、見抜けるのはその為である。


 その後も、達也はイカサマを見破っていく、ある時はディーラーの腕をつかみ、

その証拠を掴んで、あからさまにする。ある時はルーレットを持ち上げる事も、

時には机をひっくり返す事もあった。丁半博打の時は、

音から、サイコロや壺笊に細工があることに気づき、


「サイコロを確認させてください」


または


「壺笊を確認させてください」


と言って、それらを借り細工を暴く。

更には床をひっぺ返し、そこに人が隠れていることを暴くこともあった。


 先も述べた通り、普通なら、強面のフロア・パーソンが達也を、

脅して辞めさせるところだが、

達也の強さは知られているのと、強く迫ってくることもあって、

逆らえず、達也のイカサマ暴きを止められなかった。


 そしてこのカジノのルール上、イカサマを暴けば勝ちなので

どんどん達也の連勝記録は伸びていった。

特にルーレットの時は、35倍の一点賭けをして、

イカサマを暴くので、かなりの配当を得ていた。


 しかし達也はお金には、興味はない。

目的はあくまでも、ゴールドラドの鍵。ただそのためには、ある程度稼いで、

支配人との勝負に持ち込まねばいけない。

だからひたすら、イカサマ暴き続け、ひたすら稼いでいった。





 さてオーヴィカジノの支配人は、女性でカルメーラ・オーヴィいう人物で、

ロングヘヤーの清楚な雰囲気のするエルフの女性だが、

イカサマだらけと噂されるカジノを経営するだけあって、

あまりいい性格をしていない。彼女は自室でワインを飲んでいたが


「支配人、大変です」


と部下がやって来た。


「何かあったの?」

「ドラゴス商会に所属するタツヤと言う冒険者の事は知ってますよね?」

「なかなか強い冒険者だそうね。男だけど、女性みたいな顔をしているっていう。

その人がどうしたの?」

「それがかなり勝っているんです」


それを聞いたカルメーラは


「腕っぷしだけじゃなくて、賭けの方も強いのね。それのどこか大変なの?」


イカサマはしてるけど、大勝ちする客がいてもおかしな事じゃない。


 すると部下が、


「彼は、賭けに勝ってるのではありません。我々のイカサマを暴いてるんです!」

「何ですって!」


そして彼女は、部下を連れてフロアへと向かい。

実際に達也が、イカサマを暴いている所を見た。


「クッ……!」


と悔しげな顔をする。

カジノ側のイカサマを暴いたら賭けは勝ちにするという決まりを作ったのは、

バレない自信がある事に他ならない。

故に片っ端から暴いていく達也に対しては、悔しさを感じざるを得ない。


 だが、直ぐに彼女は口元に笑みを浮かべつつ、


「まあいいわ。勝っている事には違いないわ。

いつもの様に私自ら、相手をしましょう」


そして部下に準備を命じるのだった。








 一方その頃、


(タツヤ君、何してるのよ……)


カジノにはレナの姿もあった。彼女もまたアルテーアの事が気になり、

思い立って、ここに来たのであるが、

そこで次々と、イカサマを暴き、このカジノのルールに従って、

大勝していく達也の姿を見た。この前の事で賭博術の事は聞いていたので、


(イカサマを極めているなら、逆に見破るのも容易って事か)


そして達也がイカサマを見破る姿は、彼女の目から見ても爽快で、

他の客も同じようで、いつ間にか達也の周りに、人だかりができていた。


 ただレナは、この時、


(アルテーアの為にやってるんだよね……)


達也が困ってる人を放っておけない性分なのは知っている。

だから、今回も人助け以上の感情はないと思ってはいたが、

それでも、女性が絡んでいるとなると、

例え親しい人であっても、レナは嫉妬の様なものを感じていた。


(何やってるんだろ。私……)


別にレナは達也と付き合ってるわけじゃないし、

そもそも、こんな感情を抱いてしまっている自分に対し、

自己嫌悪を覚えるのだった。






 さてその頃、貴婦人の様な半獣人の女性は、一旦カジノから出て、

周りを気にしながら、小型のトランシーバーの様なものを使っている。


「どうやら、手間は省けたみたいだわ。準備は出来てるわね?」


相手は、


「いつでも行けますけど……」

「ゴールドラドの鍵が出てきたら、合図をするから」


と言いつつ、


「ところで、あの役立たず共は?」

「まだ寝込んでます」

「まったく、拾い食いで食中毒とはなさけない」


と言って顔を手で押さえる。


「とにかくまたとない機会、ぬかるんじゃないわよ」

「はいはい……」


と相手は返事をし、通信を終え、半獣人の女は悪そうな笑みを浮かべると、


「必ず手に入れやるわ」


と呟くのだった。

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