2「ゴールドラドの鍵」

 とある休日の午後、レナは買い物に出かけていて、達也も付き合っていた。


「ごめんね、付き合ってもらっちゃって」

「いえ、別にいいですよ。鍛錬も魔獣退治も終わってますし」


今日は早朝、達也はいつもの様に鍛錬をしていたら、

魔獣の襲撃を受け返り討ちにしたことで、休日の恒例を済ませていた。

なおこの魔獣の襲撃に、人為的なものはない。


 ただ達也は、


「でもアリアさんが気の毒な気がして……」

「仕方ないわよ。約束は早い方が優先なんだから」


本来なら、アリアも一緒に買い物に来たかったはずである。

しかし、彼女は先に仲間たちのと約束があった。

レナが買い物に行くと知った時の様子たるや、気配を読むまでもなく、

悔しそうだ顔をしていた。そして、自分が買い物に付き合う事になって、

達也は少々罪悪感がしていた。


 そんな中、買い物を終えて帰る途中、

この街で大きなカジノ、オーヴィカジノの前を通ったのだが、


「アルテーア?」

「アルテーアさん」

「レナ、タツヤ君」


アルテーアが、カジノから出てきたのだ。

ヴィネディナの祭り以来であるが、その表情は暗い。


「いつこっちに……」


とレナは言いかけて、見るからに気落ちしている様子から、


「まさか、ギャンブルで……」

「違うわよ。賭けはしてない」


と言いつつも、


「負けた事には違いないけど……」


と暗い表情で言う。


 見るからに、何かあるような感じだったので、

二人は家に誘って達也の淹れたお茶を出しつつ、話を聞いた。


「詳しい話は出来ないんだけど、

最近、ある遺跡の発掘調査の手がかりを発見されたの」


それはとある貴族が持っていて、王立博物館に寄贈する事になっていた。


「その直前に、泥棒に入られて盗まれたのよ」


その泥棒自体は直ぐに逮捕されたが、


「そいつは捕まる前に、あのカジノで大負けにして、かけ金代わりに、

それを差し出しちゃったのよ」


泥棒の逮捕以降に、カジノに返還を求めたが、

カジノ側は盗品とは知らなかったと言い張って、突っぱねたと言う。


 話を聞いたレナは


「本当かしらね。あのカジノは、元々タチが悪い奴らだから、

知ってた可能性もあるわよ」


しかし、それを証明する手立てはない。


「私がここに来たのは、その交渉の為なんだけど、うまく行かなくてね。

向こうは『賭けで手に入れたものは賭けで取り返せ』一点張りなのよ」


彼女の言う負けたと言うのは、交渉でうまくいかなかったことを意味する。

ここで達也が、


「ちょっと待ってください。賭け金としてなら、個人同士の取引になりますよね。

そういう場合は、返還の必要が有るんじゃ……」


と言って直ぐに、


(しまった。これは元の世界での話だ……)


と思ったが、アルテーアが、


「そうなんだけど……」


と言ったのでこの世界でも同じらしい。


「その為には、裁判をしなきゃいけないのよ。そうすれば確実なんだけど、

手続きが大変で、時間が……」

「なにか、急ぐ必要が?またマドラト団ですか?」

「いや、今回は奴らは関わってないわ。

それにこの前ほど、急を要するわけでもないしね」


と言う。達也は、気配から、


(嘘は言ってないけど、急いでいるのは確か見たいだな……)


なぜ急いでいるかまでは分からない。

 

 そして、アルテーアは頭を抱えながら、


「いくら取り戻したくても、賭けをするわけには行けないし、

そもそも、そんなものに予算を使えない」

「そもそも、あのカジノはイカサマだらけで有名だからね。

まともにやって取り戻せるとは思えないけど」

「イカサマだらけって……よくそんなやってられますね」


と疑問を呈す達也。確かにイカサマだらけカジノじゃ信用が無く客が寄り付かない。


「あくまでも噂だから証拠はないからね。それに負けたら大損だけど、

勝つときは凄いらしいからね」


その凄い方に人は引き付けられるという。


「結局は、粘りづよく交渉するしかないのかな……」


とアルテーアは言ったが、見込みは薄いようで、彼女はため息をついた。


 その後も気を落としたまま、彼女はレナの館を後にした。

アルテーアと入れ替わりに、ベティがやって来て、


「今、アルテーアさんと会ったけど」

「さっきまで、ここに居たんだよ」


と答える達也。


「また依頼?」

「そうじゃなくて、街であって誘ったの。こっちに用事できてるみたいね」


とレナが説明すると彼女は、


「アルテーアさんがいるって事は、あの噂は本当なのかな……」

「噂?」

「オーヴィカジノに、ゴールドラドの鍵があるって」


するとレナは、


「ゴールドラドって、あの……」


と驚愕の表情を見せる。達也は、初めて聞く言葉なので、


「何ですか、そのゴールドラドって」


と尋ねた。


 すると、


「ゴールドラドとは、失われたの黄金の街じゃ」

「「うわっ!」」


驚き声を上げるレナとベティ、


「相変わらずじゃのう」


いつもながら唐突に表れるメディス。

気配で分かっていたから驚くことが無かった達也は、


「『失われたの黄金の街』ですか。何だかロマンを感じますね」


と興味を示す達也。


 そしてメディスは説明によると、

二千年前、ちょうどマキシが作られたころ、

ゴールドラドと言う街は、巨大な金脈と宝石の鉱脈があり、

そこから採掘される金や宝石を使った金細工、装飾品を作りで栄えた街だった。


「その金細工たるや、現在からみても素晴らしい出来でのう。

王家や貴族の御用達となった」


一部の装飾品は、今でも王家や貴族の元に残っていて、

今でも重要な儀礼の際に王様が身に着けていると言う。


「しかし、後継者争いからくる内戦のなか、

王子の一人が、街を占拠し、街で作られていた金細工を

すべて奪っていったんじゃ」


それだけじゃなく、金鉱や宝石の原石の採掘場も破壊しつくしてしまった。

結果として、ゴールドラドは荒廃し街は失われた。


「その時、持ち出された金細工は、今もどこかに隠されとると言う話じゃ。

そして、ゴールドラドの鍵はその隠し場所に入るための鍵の事」


それは宝石を付けた純金製の鍵だと言う。

鍵と言っても鍵穴に差し込んで使うのではなく、

ルーン文字が刻まれていて、入り口に触れることで、

扉が開くと言う。


 これらの事は、金細工を奪っていった王子が手記に掛かれていたと言う。

手記には隠し場所の具体的な位置は書いていなかったが、

鍵の事やどういう場所に隠しているか書かれてあったと言う。


「あと、何でこんな事をしたのかも書いてなかったそうじゃがな」


すると達也が


「おおかた欲だと思いますよ。ああいう貴金属類は、人を狂わせますから」

「儂もそう思うがの」


とメディスが言った後、


「ともかく、二千年たった今では、元の持ち主の権利は、

消滅しておるから、見つけた場合は、すべて発見者のものとなる」


あの怪盗の遺産同様、それを探すトレジャーハンターは多い。


「多くは金目当てじゃろうが、アルテーアは浪漫じゃろうな」


するとレナが、


「確かにアルテーアは、ゴールドラドの宝を見つけることが、

目標の一つだって言ってたわね」


目標の一つと言う様に、この国だけでも、真偽不明も含め財宝伝説は多くある。

それらを見つけることがアルテーアの夢であり、

そしてメディスの言う通り、彼女が求めるものはあくまで浪漫である。


 そしてベティは


「ゴールドラドの鍵の噂は、アタイの耳に時々入って来て、

大抵は、偽物だったりするんだけど、今回は鑑定の結果、本物みたいで……」


それは、アルテーアが言っていたように、

ある貴族が所有していて、その帰属が亡くなった時の遺言で、

博物館への寄贈が決まったそうだが、

亡くなった後、遺族が異議を唱えたので、かなり揉めたらしい。


「まあ、財宝が絡めば、そうなるよね」


と達也はあきれてるような納得してるような様子で言う。


 遺言書はあったが、その真偽で裁判にまでなり、

結局、遺言書は本物で、結果、博物館に引き渡される事になったが、

その矢先に、貴族の家に泥棒が入って、鍵を含め、

貴金属が盗まれたいう。


「ここからは、真偽不明の噂だったんだけど、

その泥棒が、オーヴィカジノで、賭け金代わりに、

鍵を賭けて負けたって話なんだよね」


ベティが聞いた段階では、真偽不明だったが、

アルテーアの話を聞いた後だと、それが間違いない話となる。


「じゃあ、アルテーアさんは鍵を取り戻しに?」

「そうみたい。何を取り戻しに来たかは言わなかったけどね」

「しかし、目標まであと少しと言うところで、ついてないのう」


と言うメディス。しかも引き渡すまで紆余曲折あっただけに余計である


 そして達也は、アルテーアの気落ちした姿を思い返し、


(僕にできることはないだろうか……)


と思うのだった。

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