第15話「宝探し」

1「達也が賭け事をしない理由」

 メリッサたち五人の新人にまつわるトラブルが一応解決して、

数週間、ドラゴス商会は、忙しい日々にあったが、その忙しさを助長するのが、

謎の連中の妨害だった。主に、魔獣退治の依頼では、仕事前、直前の準備中や、

魔獣を倒し終え疲弊しているところの狙って、襲い掛かってくる。


 ただ、レナやヒミコ、メリッサたちやアリアたちは、

その強さで、返り討ちにしているし、ダンテス一家の場合は、本人たちだけでなく、

同行しているアトラナの活躍もあって事なきは得ている。


 妨害は、魔獣退治だけでなく運送にも及んでいた。

例えば走行中に、上から丸太や時には大きな石が落ちてくることもあった。

石なら自然と落ちてきたと言えなくもないが、

少なくとも達也が遭遇した分は、人の気配を感じるので、間違いはない。

丸太に至っては加工の痕跡がるので、明らかに何者かの仕業なのは確かだった。

他にも、通行するのを見計らったかのように、土砂崩れが起きたり、

時には落とし穴を掘られている事もあった。


 しかしそれが、普通の車、この世界で言うところのカーマキシなら、

魔法石を動力にしているので燃料が要らないだけで、

それ以外は普通の車と変わらないので大変だが、

運送に使っているコンボアスやミノタウロスは、

普通のカーマキシではなく、そもそもミノタウロスは魔機神である。


 例えば上から石や丸太が降って来ても、運転中のカサンドラは


「あれ、何か当たったか?」


と言うくらいで、直撃しても大したことはない。

土砂崩れ、落とし穴にしても、達也なら人の気配から察知して避けるし、

回り道が難しい時は、コンボアスは簡易的な飛行能力があるから、

それを使って避けて進む。

ミノタウロスに至っては引っかかっても、魔機神形態で脱出できるので、

大したことはなかった。


 事務所にて


「やっぱり、タルインガの仕業なのかしら」


ここ最近の妨害に対し、思い当たる節はここしかない。


「その可能性は高いでしょうが、確証はないですね」


と言う達也に、元タルインガのアリアは


「たぶん最近の街に来て、タツヤの事を知らない奴だと思う。

古参の連中は、タツヤの事を恐れてこんな事は出来ない」


確証はないし、大した被害もないので、

いずれは、どうにかしなければいけないが、今は静観となった。


 ちなみに襲撃と言えば、前とは違って、運送の妨げ以外で、

達也への直接攻撃は、今のところない。この事を聞きつけたメディスは


「タツヤにぶつけて、恐れをなすようになっては困るからじゃろう

実際、タルインガ商会はおろか、この街じゃタツヤに恐れて、

タツヤどころか、この商会に手を出す奴はおらぬのだから」

「人を化け物みたいに言わないでくださいよ」


と達也は言うが、レナを含めて、みんなそれを否定する事は出来なかった。


 さてそんな状況下のある日、ちょうど運送を終えた昼下がり、

事務所に戻ってくる達也。


「何してるんです?」


事務所にはダンテス一家とメディスとリリィの姿があった。

なお今日は、一家は午前中で仕事がおわり、戻って来た後は事務所で待機していて、

そこにメディスが遊びに来たと言う感じで、

一家とポーカーをしていた。なおリリィは、傍にいるだけで

参加はしていないし、エリンとマックスも居たが、

二人はまだ幼いからか、参加していない。


「ポーカーじゃよ」

「それはわかります。だから、何で子供相手に賭け事をしてるんですか?」


別に気配で気づいたんじゃない。ポーカーをしていて、

その時、一人勝ちしたメディスに、お菓子を渡しているのを見て

賭けをしていると、気づいたのである。


「別に、お金を賭けとるんじゃ無いんじゃから、ええじゃろう」

「そういう問題じゃないんです。心は成熟してないうちは、

いや心が成熟した大人でも、賭け狂いになることがあるんですよ。

成熟していないと余計に危ないんですよ」

「大げさじゃぞ」


とメディスは言うが、


「とにかく、ここにはまだ子供がいるんですから、賭けは禁止です」


そして、ダンテス一家を見て、


「わかったね」


と釘を刺す。


 すると、メディスは、


「そう言えば、タツヤはもう成人じゃったな。ギャンブルとかはするのか?」

「そう言うメディスさんは、するんですか?」

「昔は、よくしたが、今は、このなりじゃからな、門前払いじゃ」


この世界にも、カジノはあるが、さすがに子供は入れない。

当然、子供の姿をしているメディスは入れないわけで。


「それよりも、タツヤ、おぬしはするのか?」

「いいえ、僕は、賭け事はしちゃいけない人間なんで」

「なぜじゃ?もしや、やり出したら止まらなくなるとか」


すると達也はムッとした表情で、


「違いますよ。その……ちょっと……」


気まずそうにしつつも答える。


「煌月流には賭博術と言うのがあるんです。愚術の一つなのですが」


煌月流には愚術と呼ばれ、しょうもない目的で作られた術も存在する。


「賭博術と言うのは、賭け事に勝つための極意との事ですが、

はっきり言えばイカサマの事です。それが体に染みついてるものですから、

賭け事をすると、本能的にイカサマをしてしまうんです」


するとメディスは、興味深そうに


「なぜそのような技を身に着けておる」

「僕は、煌月流を道楽で学んでいたものですからね。

あの頃の僕は、とにかく技を覚えることが楽しくて、

その良し悪しもわからず、身に着けてしまったんで」


その中に、賭博術があったのである。


「それがいけない技である事を知ったのは、だいぶ後になってからでした。

本能的にイカサマをする人間は賭け事なんかしちゃいけないでしょ?」


と言いつつ、ダンテス一家に自嘲しながら、


「これも、心が成熟していないゆえの過ち、

みんなも気を付けないと行けないよ」


と諭す。


 しかしメディスは、興味深そうな様子のまま、


「しかし、面白そうじゃな。賭け抜きでポーカーをせんか?」

「いえ、それでもだめです。とにかく賭け事に使うゲーム類は、

どれもダメで……」


するとメディスは、


「イカサマはしてもよいぞ。見破られたら負けという事にすれば良い」


ここで、ベティが、手を上げながら、


「はいはーい!アタイ、これでもイカサマ見破るのが得意だよ」


と言い出す。


 するとメディスは意地の悪そうな笑みを浮かべつつ、


「ならば、皆で見てもらうとしよう」


ベティだけでなく、周りにいるダンテス一家やリリィの見ている前で

ポーカーをする。誰かにイカサマがわかったら、即敗北で、


「どうかの?達也」


と意地の悪そうな笑みを浮かべたまま、達也をまっすぐ見ながら言うメディス。

この状況では、断りづらそうな雰囲気なので、


「まあ、賭けをしないのと、イカサマをすると分かっていて、

勝負を挑むようですから、良いでしょう」


こうして達也とメディスのポーカー勝負が始まった。


 しばらくした後、レナが事務所に戻って来たのだが、


「何、この状況……」


ダンテス一家とリリィに囲まれる形で、メディスとポーカーをしている。

特にベティが必至な様子で、それこそ鵜の目鷹の目で見ている。

逆にエリンやマックスは、訳がわかってない様子で、

取り敢えず見ているという感じ。


 そしてロイヤルストレートフラッシュで、

メディスを負かす。するとベティが頭を掻きむしりながら、


「うにゃあ~~~~~~~~~~~~~~~~!」


と言う声を上げ、


「全然見破れない!」


と頭を抱えて悶える。一方メディスは、どこかスッキリしたように、


「完敗じゃな」


と言いつつ


「いったいどんな手を使ってるんじゃ?」

「それは、言えません。賭博術は門外不出ですから」


と達也はきっぱりと答えた。


 今、来たばかりで状況が理解できないレナは、


「誰か状況を説明して!」


と言うレナに対し、達也がトランプを片付けながら、


「実はですね……」


達也がここまでの事を話すと、レナは、あきれ顔で


「まったく、何やってるんですか」


と言うレナに、メディスは


「イカサマをしてると分かっていて、注意していても全然わからん」


そしてベティも頭を抱えながら、


「こんなの初めてだよぉ!」


と声を上げる。レナは、


「それ以前に、イカサマをしてなかったんじゃ」


しかし達也は、


「いえ、してましたよ」


と言い更に、状況をみていたエドが、


「ロイヤルストレートフラッシュの連発だがら、何かをしてたとしか」


イカサマと分かった上でのポーカーなので、達也も意図的に、

あり得ない手を使い続けていた。しかし、誰もイカサマを見破れなかった。


 そして、


「イカサマの事はともかく、メディスさん、

子供相手に賭け事はしないでください!」


とレナも達也と同意見で以降、事務所内では賭け事は禁止になった。


 ただこの後、賭け事を切っ掛けにしたある出来事が起きるのだった。

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