35「騒動の終わり」

 洞窟を出て、暗視魔法の効果が残っているうちに、

森を抜けてカオスセイバーの元に戻ると、


「おかえりなんし」

「あんた、ヨシノとかいうオートマトン……」


とヴィンセントが言う。カオスセイバーの前で待っていたのはヨシノで、


「旦那様は、急用で、わっちが来んした」


そして、ボックスホームの扉を開ける。


「旦那様による夕食が用意していんす。さあ、ゆっくりとお休みくんなまし」

「ああ……」


達也の急用が気になったものの、ヴィンセントたちはボックスホームに入った。






 その頃、達也はゴブリンの巣の前にいた。

実は五人がいる時からいて、五人が洞窟を出てきた事から、

決着がついたと思い。気づかれないように五人と入れ替わりに、

洞窟に入った。そう後始末の為である。もちろん解毒剤は飲んでいて、

カオスセイバーから借りた「暗視」を使っている。


 まずはユリアーナたちだ。順番は、洞窟の入り口から近い順である。


「あんたは、ドラゴス商会の」


とユリアーナは言うが、達也は答えることなく、

淡々とした様子で、眼術を使っていく。

その後はマグヌス、エリアたち、最後にエディトの家族だが、


(必要はないけど……)


達也が来た頃には、幻覚は解けていたが、すっかり廃人同然なっていて、

後始末の必要ないと思ったが、他の面々とは違い、

このままだと、ここから出ていかないようなので、

ここから出ていき、近くの村まで行くように暗示をかけた。


 そして後始末を終えた達也は、洞窟を出て、

カオスセイバーの元に戻って、車を発進させた。

五人の仕事は、まだ残っているが、それは村への報告、村人による死骸の確認と

報酬の受け取りだけで、今日は遅いから無理である。

ただ明日は、達也も運送の仕事があるので、このまま、ファスティリアに戻り、

明日は、五人をアラハバキが、依頼人のいる村へと送っていく。








 翌日、アラハバキで、依頼人の村長の元に五人は向かい、依頼の完了を告げ、

村人たちによる確認が行われた。なお洞窟には、マグヌス達の姿はなかった。


 そして依頼完了に伴い、報酬と依頼完了書をもらうのだが、

その際に依頼人である村長、年配の女性が、


「そういえば、今朝、見慣れない四人組の男女が村にいたんです。

しかも、気がふれた状態で」

「はぁ?」

「どうも、森の方から来たようなんです。

あなた方は昨日まで森で、魔獣退治をしてましたから、何かご存じですか」


エディトには、それが自分の家族だと思い当たったが、


「いえ、知りません」


ここでリーゼが、


「私たちは、魔獣退治で手一杯でしたから、

その人たちが森にいても、気づきませんでしたよ」


そう言うと村長が、


「そうですよね。すいません、変なこと聞いて」


その後、四人がどうなったかは、あえて聞かなかった。


 数日後、事務所にてベティとニーナから、その後の情報を

五人は聞くことになった。この場には達也とレナもいる。


「モブト商会は地元に戻ったみたいだけど、失敗続きで、

評判がガタ落ちになってる」


商会がつぶれるのは時間の問題らしい。


「あのマグヌスって人も、地元に戻ったけど、ダイフ商会は閉めちゃって、

ルチアナって人と一緒に、別の商会で働きだしたみたいだけど、

苦労してるらしいよ」


モブト商会も、ルチアナ、マグヌスも、

こっちに来る余裕はなさそうだという。

それ以前に、眼術の暗示で来ることはできないのだが。

 

 ここからは、ニーナが、


「エリア、リトヴァ、マルセラって人は、衛兵に自首したよ。

かなり余罪があるみたい。特にマルセラって人がね」


それを聞いたリーゼは、どこか納得気に、


「やっぱりね。証拠はつかめなかったけど、

私が結婚してた頃から、色々とあくどい事をしてたみたいだから」


と言う。


「それと、エディトさんの家族だけど、今は、国の施設で保護されてるみたい」


国の施設だからか、それ以上の情報は手に入らなかったが、

施設に入る直前、ポイズンゴブリンの依頼があった村で、うわ言を言っていて、


「ずっとエディトさんに謝罪してたみたいだよ」

「そう……」


エディトは家族に対し、何も感じなかった。

心が壊れた故の本心の謝罪かもしれないが、もはや遅いのだ。


 そしてユリアーナの事だ。この時は、まだわからず、

更に数日後の事、商会に来客があった。


「こんにちは、この前、失礼しました」

「イザベル!何しに……」


以前来た、異端審問官がやって来たのだ。今回は、一人きりである。

この時、達也は留守で、彼女がやって来たことに、事前に気づかなかった。


「アンジェリーナさんは、居ますか」


ちょうどこの時、彼女は事務所にいた。


「彼女が何か……」


彼女が一人だから、通常の異端審問とは違う気がしたが、

それでも審問官なので、身構えてしまう。


「勇者解任の件で、彼女から話を聞きたいの」


との事だった。勇者の解任に関して、話を聞きに来る者がいるとは思われたが、

彼女が来るとは思わなかった。


「どうして、異端審問官が」

「勇者選定には、光明教団も関りがあります。

それと今回の解任には、王室内の政治的な力もあるので、

王室ではなく、我々が中立的に調べることになったのです」


そんな訳で応接室で、二人きりで聞き取りが行われた。

その中でイザベラは、ユリアーナを含めた勇者パーティーの弁明の場が、

王宮でも設けられたが、その中で、アンジェリーナの追放だけでなく、

洞窟での一件も、話したという


「彼女が、そんな事を……」

「実際のところはどうだったのですか」


アンジェラは、驚きつつも、正直に話し、


「証拠となる映像も持っているとか」

「そこまで話したんですか!」


益々驚きだったが、イザベラが持って来た。

同様の映像記録のマジックアイテムを使い、

複製と言う形で、彼女に提出した。


「原版は持っていてください。何かあった時の為に」


とイザベラからの申し出で、こういう風になった。


 すべてが終わると、


「ありがとうございました」


と言って、頭を下げ、彼女は去って行った。しかしアンジェラは


「何がどうなってるの?」


弁明の場で、ユリアーナが自分が不利になる事を、

言いだしたのか正直、理解できたなかった。もちろんそれは、達也の眼術で、

ユリアーナ達は、自分たちが行って来た悪事を、

弁明の場で、正直に話すという暗示を掛けられていた。

アンジェラやドラゴス商会に対して行った事以外は、

嫌がらせ程度なので、罪には問われなかったが、

洞窟での一件が致命的になり、ユリアーナの勇者解任が決定的となった。

ジェンヌは、事を起こす前に抜けていたのと、

アンジェラは被害者なので、両者ともにお咎めなし。


 なお勇者が解任されると、その後はどうなるのかと言うと、


「次の選定まで、空席となるんじゃ」


勇者解任の話を聞いた達也は、疑問に感じメディスに聞いた。


「大体、今も昔も、魔王が襲ってきたことはないしの、

他国の状況に不安を感じて、作った制度じゃしな」


なお魔王相手ではないが、初代勇者は英雄的な活躍をしたし、

その後の勇者の何人かも、同じような活躍をしている。

なお英雄的な活躍をした勇者の何人かは野良魔機神を倒す。

または封印している。


「しかし、多くの勇者はユリアーナも含め野良マキシには

関わってはおらん。魔王以上に現実的な脅威にもかかわらずじゃ、

正直、勇者制度は形骸化しておる」


あってもなくても変わらないという事。

あと、勇者選びに失敗した時の戒めという事もある。


「ただ、問題はユリアーナが過去の解任勇者たちと、

同じ道をたどらんことを願うだけじゃ」

「災いですか?」


と達也が言うと、


「そうじゃ、とにかく奴がおかしなことせねばいいのじゃが」


まだ不安が残る部分がある。


 勇者の件は、まだ不安が残るが、とにかく勇者の処遇を持って、

五人にまつわる厄介ごとは、終わったように、達也は感じた。

そして五人は、商会の一員として、活躍するのだった。




 王都の、とある豪邸にて一人の男が憤っていた。


「ユリアーナめ、俺の顔に泥を塗りおって」


その男の側には、一人の人物がいた。ショートヘヤーの髪で、

顔は中性的で、男とも女とも見る事が出来る。

そして黒い服を着ている。


「彼女が、勇者になるにあたって、多大な尽力をされましたものね。

お気持ち察します」


と言いつつも


「ただ彼女をドラゴス商会にぶつける事には、

貴方も同意した。そう考えれば、貴方の自業自得とも言えます」


そう言われて、悔しそうな顔をする。


「それにしても、ミレイユ姫め、またしても、俺の邪魔を……」

「そのミレイユ姫の暗殺失敗にも、ドラゴス商会が関わってるようですし

何かと、因縁がありますね」

「ふん!まあいい。いずれ潰してやるさ。あの商会は……」


と男は息巻くが


「たかが一介の商会、あまりご執心にならない方が、よろしいかと、

もう彼女は居ないのですから」


悔しそうに目線を逸らす男。しかしこんな事を言っている黒衣の人物は、

後にドラゴス商会と関わっていくことになり、

達也と因縁の間柄となるのだった。

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