34「エディトとアンジェラの決着」

 洞窟内を駆け抜けるエディト、後ろからは、


「待ちなさい!」


妹のエリーズが声を上げる。更にその後ろから、

他の家族に、元婚約者が追って来る。


「待てと言っているでしょう」

「待ってよエディト!」


と口々に叫ぶが、それを無視して彼女は走り続ける。

そして、行き止まりの広い空間にたどり着くが、ここが目的地。

彼女もまた、ヴィンセントやリーゼと同じように、

ゴブリンとの戦いの中で場所を見つけていていた。


 目的地に着くと、足を止め追手を待った。


「やっと追いついたわ」


とエリーズが息を切らしながら言うと、


「さぁ、一緒に帰りましょう」


と母親のマデリンが言う。


「そうだよ。帰ろう」


とフィクトルが言い。


「一緒に帰るんだ」


と父親であるフィクトルが言うが、エディトは彼らを睨みつけながら、きっぱりと、


「私はもう帰らない」


と言う。


「何を言っているの?アナタに帰ってもらわないと、私たちは破滅するの」


と必死で言うマデリンに、エリーズも


「家族がどうなっても言いわけ!」


と言うが、


「いいわよ」


とエディトは冷たく言い放った。するとフィクトルが、


「エディト、育てた恩を忘れたのか!」


と言い放ったが、すると頭の中で何かが切れたエディト、


「何が恩よ!散々、私に酷い扱いをして、あんなんで恩を感じるのは変態よ!

それともなに、アンタ達は変態なの?」


と怒号を上げた。こんな事は初めてだった。

ドラゴス商会に来て、自分の力に気づき、

商会での交友の中で、着実に自信をつけた結果でもあった。


 彼女の初めての怒号に、全員、怖気づくものの、


「なんだと!」


と声を荒げるフィクトル。だが、キレているエディトは怖気づくことなく、


「さっさと立ち去って、二度と顔を見せるな!」


と言い放った。


 するとエリーズは、


「無能の癖に、生意気言ってんじゃないわよ」


と言って、剣を抜いた。


「無理にでも連れ帰ってやるんだから」


エディトは、その状態でも物怖じせずに、手を合わせ祈りの仕草をし、


「地獄に落ちろ……」


と低い声で言った後、


「ヒール!」


直後、当たりはまばゆい光に包まれ、それが消えると、

エディトの姿も消えていた。


「何処に行ったの!」


とエリーズは声を上げ、他の面々も周りを見渡すも、

エディトはどこにもいない。だが直後、地面にヒビが入り、崩れ出した。


「なにこれ!」


とエリーズの声が上がる中、地面が崩れ、全員、地下深くへと落ちていった。


「いてて……」


とエリーズが言い、周りを見渡すと、


「ここは……」


そこは洞窟のような場所だったが、

側を溶岩が流れていて、人型の訳の分からないものが徘徊している。


「何なのよここは!」


困惑しているエリーゼを含めた家族だったが、やがて人型が彼らに寄って来て、

囲んだ。


「ちょっと、なんでこっちに来るのよ!」


と慌てるエリーズ。剣を振るって、追い払おうとするが、

人型、物怖じせず、近づいてくる。切り裂いても、剣がすり抜ける。

他の面々も抵抗するが、無駄で、全員捕まってしまう。


 そしてどこかに連れていかれる。


「何処に連れてくのよ!」


とエリーズは聞くが、人型は答えず、たどり着いた先には、


「ひっ!」


そこには、たくさんの拷問器具があった。中には血まみれのものもある。


「まさか……」


と嫌な予感がするエリーゼ達。すると人型が、彼らの手足に鎖を巻き付け、

動けなくした。


「やめて……」


と懇願するも、聞き入れられず

、彼らは次々と身の毛もよだつ拷問を受けることなった。

その内容は、余りに、酷いので割愛させていただく。


「あああ……」

「痛い……助けてぇ!」

「死にたくないぃ!」

「やめてくれぇぇぇぇ!」


しかし、人型達はやめることなく、むしろ過激になる一方、

それでいて、死ぬこともなく、強烈な苦しみだけが襲う。


「お願いだから、もう許して」


とエリーズは涙ながらに言うが、それは叶うことがなく、

強烈な拷問が襲う事になる。


「ギャアアアアアアアアアアアア!」


絶叫が響き渡る。そんな中、エディトの言葉が、思い返される


「地獄に落ちろ……」


まさしく、エリーズたちは地獄に落ちたのである。


 さて場面は変わって、元の洞窟、エリーズたちは地面に倒れ悶え苦しんでいた。

その姿を冷ややかな目で見るエディト。そう彼女たちが見ている地獄は、

ヒールの応用による幻である。


 応用治療師としての力を使えば、肉体的なダメージを与える事も出来たが、

この様な形にしたのは、まだ家族への情を捨てきれない部分があるからである。

しかし調整を考えずに使った強烈な幻覚なので、直ぐに覚める事はない。

 

 そしてエディトは、


「さよなら、もう二度と、私の前に現れないでね」


と言い残し、彼女はその場を後にするが、

幻覚から覚めた時には、もう廃人は間違いないから、

二度と会いに来られないだろう。






 剣で戦うアンジェラとユリアーナ。

その様子を、ペンダントの様なものを付けた蝙蝠が見ていた

そして剣のぶつかり合いの末に、間合いを取った時、


「どういう事よ……」


ユリアーナは、驚愕の表情を浮かべる。

彼女の知るアンジェラはテイマーで、サポート専門。

戦闘能力は皆無だった。加えてユリアーナは武術の達人である。

そんな彼女と、ほぼ互角に渡り合っている。


「言ったでしょ、スキル『斬撃』のお陰だって」

「アンタ、そんなスキルは……」


と言いかけて、ハッとなった彼女は、ニヤリと笑って


「その剣ね」


ユリアーナはアンジェラの持つ剣に、スキルが付与されていると、

思ったようであった。


「アンチスキルを使いなさい」


とパーティーの魔法使いに言い、


「はい!」


と返事をし、その魔法を使う。


 アンチスキルとは、スキルを無力化する魔法である。

ただし、生物には効果が無く、武器などに付与されているものに限る。

それで、限界があり、強力な武器や魔機神などにも効果はないし、

強力じゃなくとも「通信」や「遠見」、「暗視」には効果が無い。


 この時アンジェラが持っていた剣は片刃で、

見た目は、目立ったところのない安物にしか見えないので、

効果があると、ユリアーナは思ったのだ。

実際安物ではあったが。


 そして、魔法使いが、アンチスキルを使った事で、

ユリアーナは、余裕の表情を浮かべた。


「これで、貴女も終わりよ」


そう言って、アンジェラに切りかかるが、

しかし彼女は、剣で応戦する。「斬撃」を無力化させたのに、

アンジェラの剣の腕は、全然落ちなかった。


「一体どうして?」


アンチスキルは、特定の範囲に効果がある。

従って、剣が違っていても、他の持ち物にも、効果があるはずだった。

しかし無力化できない。そうなると、アイテムが強力か、

あるいは、本人が持っているかのどちらかである。


 ここでアンジェラは、


「スキル「斬撃」は私自身が持ってるのよ。いや最近、手に入れたの」

「一体何を言ってるの」


アンジェラの言う事が、理解できないユリアーナ。

彼女の説明不足であるが、例えきちんと説明したとしても、

プライドが邪魔して信じないであろう。

アンジェラがユニークスキルを持っているという事実を。


  そしてアンジェラは言う。


「勇者パーティーを追い出されて、今はよかったと思ってる。

だって、自分の可能性を見つけたし、

なにより真の仲間に出会えたんだから」


以前、商会に来た時と同じように、


「何なの、真の仲間って」


アンジェラは答えなかった。彼女が勇者パーティーに入ったのは、

確かにお金の事もあるが、それ以上に、寂しかったから。

彼女は天涯孤独で、冒険者としての仲間にも恵まれず、独りぼっちだった。

勇者パーティーに入れば、良い仲間に出会えるのではないかと、思ったのだが、

現実は、酷いものだった。

とにかく、寂しかったという理由は、恥ずかしいので、

彼女は、何も答えらえなかった。


「まあ、いいわ。戻ってこないなら、痛い目を見てもらうわ!」


 ユリアーナは、剣を構え、


「ストライクブレイヴ!」


強力な斬撃を繰り出す奥義。

そう、ここに来て奥義を使いだすユリアーナ。しかし、アンジェラも


「シデンイッセン!」


同等の奥義を使い応戦。


「何で……」


スキル『斬撃』があれば、短期間でアーツを覚える事は可能だ。

最も、スキルを発動しないと、まともに技は扱えないが。

ユリアーナは、その事は理解しているが、

それでも、下手に見ていた分、驚きを隠せない。


 奥義がぶつかり合い。最終的に相打ちになり、二人ははじけ飛ぶ


「クッ……!」


両者、素早く体制を立て直し、


「カノンブレイヴ!」

「ゴウオウザン!」


どちらも、斬撃を飛ばす遠距離系の奥義つかい、

それらはぶつかり会い。打ち消し合う。


 直後、アンジェラの方に火炎弾が飛んできた。

彼女は素早く避ける。


「助太刀します」


勇者パーティーの魔法使いが行った事である。

他の連中も、次々と武器を構えやって来る。

ユリアーナは、不利と言うほどではないが、

危機感を覚えていたのか、助太刀を拒まなかった。


 他の仲間たちが参加してくるとなると、

かなり不利となるが、アンジェラは冷静で、

勇者パーティーの方に、テイムしていた蝙蝠たちを嗾ける。

しかも、蝙蝠はただ襲い掛かるんじゃない。

蝙蝠たちは、雷や炎、真空刃など、本来蝙蝠が使ってこない。

攻撃をする。


「何だこれ!」

「何で蝙蝠が火を噴くのよ!」

「こんな攻撃聞いてねえぞ」


勇者パーティーの面々は慌てる。


 言うまでもないが、これは蝙蝠たちに、

スキルを付与したからである。

今日まで、魔獣退治の際は必ず魔獣にスキル「掌握」を使っていた。

彼女の言葉を借りれば、毎回「掴んで」いたのである。

もちろん掴んでいる間は動けないので、仲間たちの協力の下でだ。

お陰で、使い物になる魔獣のスキルを多く手に入れる事が出来ていた。

それを使っているのだ。


 ユリアーナを含めた勇者パーティーは混乱状態となり、


「卑怯だけど、ごめんね」


混乱に乗じる形で、アンジェラは、


「ミサキギリ!」


奥義を使った。混乱状態故に、回避も防御もうまく行かず、

ユリアーナは、もろに受ける事になった。

ただし、アンジェラの優しさ故の峰打ちなので、命には別状はないが、

それでも、かなりのダメージである。

そしてほかの連中も、混乱の中、同士討ちのような状態になり、

死人はいないが、全員のびていた。そうアンジェラの勝利である。


 ちょうどこの時、決着をつけたヴィンセント、リーゼ、

そしてメリッサが戻って来た。アンジェラの注意が、そっちに向いたとたん、

首筋に、何かが刺さった。彼女は素早くそれを抜いたが、

それは、木製の細長い針。そして、勇者パーティーの一人が

上半身を起こしながら、吹き矢を咥えていた。


 どうやら、毒矢の様で、ユリアーナは上半身を起こし笑いながら、


「それは、普通の解毒剤が効かない毒よ」


そう言うと懐から瓶を取り出し、


「これじゃないと解毒ができない。即効性だからすぐに効果が出るわよ!」


ユリアーナは、アンジェラたちがポイズンゴブリンと戦うと知って、

毒殺を考えていた。彼女が使った毒は、ポイズンゴブリンの毒と

見分けがつかないもの。もともとは魔獣退治に備えて用意していたもので、

誤飲した時の為解毒剤もセットである。


「これが欲しけりゃ、私たちの元に戻ってきなさい」


なおエディトのヒールなら解毒も可能だが、

彼女はまだ戻って来てなかった。


 この状況に、ヴィンセント達は


「アンジェラ!」


と言って、側に行こうとするが、


「来ちゃダメ!」


といつい言葉で言った後、余裕の表情で、


「大丈夫だから……」


とアンジェラは言った。


 この後、即効性と言う割には、アンジェラが体調を崩す気配はない。

そしてエディトも戻ってきて、事情を知り。


「今、治しますね!」

「その必要はない。もう解毒したから」


この言葉に、ユリアーナは


「どういう事よ……」

「スキル『毒牙』って知ってる」


それは、毒を付与する他、発動中は周囲に毒をまき散らすスキルであるが、

同時に、保有者のあらゆる毒を解毒する効果もある。

もちろんポイズンゴブリンから得たスキルだ。

 

 ただし、周囲に毒をまき散らすのを止められないので、

早い段階で得ていたが、周りへの迷惑を考え、使わなかった。

先ほど、ヴィンセント達の接近を拒んだのもこれを発動させるため。

なお効果範囲からはユリアーナ達も外れていた。

そして、解毒したのでスキルは解除している。


 企みが失敗したので、


「そんな……」


と言って、うなだれるユリアーナ。

そんな中、ペンダントを付けた蝙蝠がアンジェラの側にやって来た。

この蝙蝠もテイムしているが、攻撃には参加しなかった。

彼女は、蝙蝠からペンダントを外し、


「このペンダントは、映像記録ができるマジックアイテムなの。

『暗視』付きのね」


これは最近、旅の商人から買ったもので、街の店では売っていない。

ユリアーナが襲撃してきた時に、証拠を残す為に、

今は蝙蝠だが、その前は鳥と、テイムした動物の一匹に付けていた。


「これには、アンタ達がアタシを毒殺しようとした企んだことが、

記録されている。もし私の前に現れる事があったら、これを、王室に届けるから」

「そんな……」

「後、仲間に手を出した時も同じだから、バレなきゃいいなんて、

思わないで、さよなら勇者様」


そう皮肉たっぷりに言うと、アンジェラはヴィンセント達の方に向かう。


「もういいのか?」

「ええ」


この瞬間、アンジェラの決着がついた時だった。


 そして彼女は、


「皆も戻って来たし、仕事も終わったし、さっさと帰ろう」

「そうだな」


とヴィンセントは言い、他の仲間たちも同意し、

まだ動けない勇者パーティー、更に同じく動けないマグヌスやエリアたちや

エディトの家族も残し、洞窟を後にした。

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