33「ヴィンセントとリーゼの決着」

 ヴィンセントは、さっきいた場所よりも狭いものの、

開けた場所へとやって来た。戦うには十分な広さがあった。

ゴブリンとの戦いの中で、もし洞窟内で戦うならここだという場所を、

いくつか見つけていた。ここもその一つ。因みに、周りにはゴブリンの死体がある。


(来い……)


ヴィンセントは、足を止めて、マグヌスを待ち構える。


 そして、やって来るマグヌス


「追いついたぞ……」


そして剣を抜き切りかかって来た。


「!」


ヴィンセントは、シンラから剣を出現させ、応戦。

そしてつば競り合いになる中。


「なるほどな……」


とマグヌスは納得気に言った。


「お前の武器は、魔武だな」


剣が出現するところを見れば、普通の武器じゃない。

魔武だという事くらいは分かる。


「ひょっとして、『習得』付きか?」

「だったら、どうなんだ?」


ここで、つば競り合いを止め、間合いを取る。


「変だと思ったんだよな。アーツを中途半端にしか使えない

お前が、奥義を使えるなんてな」


とマグヌスは言いつつ、


「でも、俺の方が上だからな!」


再度斬りかかり、ヴィンセントも迎え撃つ。

マグヌスは、剣を使いつつ、時に奥義も使ってくる


「バスターファイア!」


炎を纏った剣だ。ヴィンセントは素早く武器を盾に変え、防ぐ。


「何て丈夫な盾だ」

「いや、前に使っていた盾と大して変わらん。

昔一緒に、倒したサラマンダーの炎を防いだろ」


シンラは、様々な武器を出現させ、更にスキル「習得」も持つが、

各武器の性能は、ドワーフが作る武器並みで、

一流ではある常識の範囲内の威力である。

因みにかつて使っていた盾は、ジュア村のドワーフが作ったものを、

知り合いが冒険者を引退する際に貰った物である。


 ここで、武器を盾から槍に切り替える。


「今度は槍か!」


そう言って突っ込んでくるマグヌス、

ヴィンセントは、冷静に槍で迎撃する。

この様に、状況に応じて武器を切り替える。

例えば、マグヌスが間合いを取って


「エアロスラッシュ!」


遠距離系の奥義を使ってくるときは、

弓に切り替え、攻撃を避けながら光の矢で迎撃。

威力は、押さえてあるので、当たっても刺さる事はなく、

打撲をする位である。


「ファストラッシュ!」


素早い斬撃を繰り出す奥義には、短剣で応戦する。


 とにかく、素早く武器を切り替えながら戦うヴィンセント

剣を極め、奥義を使えるマグヌスだったが、

その手数の前に押されていった


「てめぇ、卑怯だぞ!」

「忘れたか、これが俺の戦い方だ。なにぶん器用貧乏だからな」


技を極められず、中途半端なヴィンセントは元来、

複数の武器を用意して、状況に応じて切り替えながら戦っていたのだ。


「お前には、極めた剣技があるじゃねえか、

俺の手数なんて、ものともしない筈だぞ。相変わらず慢心してたか」

「うるせぇ!」


図星なのか、悔しそうにするマグヌス。

確かに、ヴィンセントの言う通りで極めた一つは、

中途な多数に勝るのだ。


 しかしマグヌスは技を極めるまではよかったが、

維持をするというのが頭にないのか、

鍛錬を疎かにしがちであった。

それでも、冒険者としての仕事があるうちは、

仕事が、鍛錬の代わりとなっていた。

 

 しかし最近仕事が無く、それ以前にルチアナと結婚して以降、

彼は経営の方に力を注いでいたので、その腕はすっかり落ちていた。

因みにヴィンセントは、結婚後も元より雑用だったが、

冒険者として、仕事を受け持っていたし、鍛錬もしていた。

なおスキル『武器使い』の所為で成長しない事もあってか、

マグヌスやルチアナもバカにしていたが。


 一方、マグヌスは、ヴィンセントの戦い方から、


「お前こそ『習得』のお陰で、技を極めてるんだろ。

どうして使ってこない?」


確かに、ヴィンセントは、スキル「習得」で得られているであろう技を

使う気配がない。


「なんつーか、卑怯かなって思っただけだ。

まあ武器を瞬時に切り替えれるっていう恩恵を貰ってるからな。

それ以上はさすがにって思ったのさ」

「バカにしやがって……」


妙に情けをかけられたことに、余計に腹が立ったようであった。


 そして剣を構え、


「ギガンティックスラッシュ……」


それはマグヌスの使う剣技の中でも、かなり強力な奥義である。

ヴィンセントは、扱えないが、知識だけはある。

そして剣が異様なオーラを放つ中、マグヌスの足元はおぼつか無いうえ、

うまく剣が持てないのか、剣がフラフラしている。


「やめとけ!」


とヴィンセントは声を上げる。


「怖気づいたか、でもやめねえぞ」


マグヌスは声を上げ、剣を振り上げるが、

そのまま仰向けに倒れ、技は暴発し、爆発のようなものが起き、


「ギャアアアアアアアアアアアア!」


ヴィンセントには何もなかったが、

逆に発動したマグヌスは、爆発に巻き込まれる形になった。


 爆発に伴う煙が、収まると、


「畜生……」


マグヌスはボロボロだったが、まだ立てるようだった。

ただ剣は失われ、足元はおぼつか無いが


「うおおおおおおおおおお!」


とやけくそと言う感じで、こぶしを振り上げ襲ってくるマグヌス。

ヴィンセントは武器を引っ込め、

そしてマグヌスの拳を避けつつも、顔面に一撃食らわせた。

結果、再びマグヌスはあおむけに倒れて、意識を失った。


「ふぅ……」


とヴィンセントは一息つくと、


「今日の所は、この辺で勘弁してやる。次来たときは、容赦しないからな……」


返事はない。ヴィンセントも、聞こえていないなとは思っていたが、

言わずにはいられなかった。






 その頃、リーゼは、ヴィンセントと同じく、

事前に決めていた場所の一つにやってきた。そのあとから、


「追いついたぜ……」

「まったく、逃げんじゃないわよ」


エリアとリトヴァが、文句を言いながらやってくる。


「私に付きまとうのは、やめてくれるかしら」


別れ際に、エリアが言った言葉である。


「余計なことをしたのは、お前だろ!」

「そうよ!」


と言うエリアに、同調するリトヴァ。リーゼはもの落ちすることなく、


「アンタらが馬鹿なことしたのが悪いんでしょうが」


と言い放つが、


「うるせぇ!お前は、昔から言うことを聞かないし、

母さんとも仲良くしろって言ってたろ」

「突っかかってくるのは、マルセラさんの方じゃない。

こっちも努力してたんだから」


結婚したころは、姑と仲よくしようとはしていた。

それはかなわないし、夫だったエリアは、

知らん振りどころか、向こうの味方と言う最悪な状態だった。


 更にエリアは、


「お前が出て行ってから、もう無茶苦茶だ。

商会は傾くし、お尋ね者になるし、全部お前のせいだ」


と指をさしながら怒号を上げる。

リーゼが出て行ったのは、エリアの浮気が原因だ。

それ以前に、姑のイビリがあったが、

これだって、エリアがどうにかすることだったが、それを怠った。

加えて、彼女が出ていくとき止めもしない。

商会が傾いたのは、彼女がそれだけ商会にとって、重要な存在だったから、

それを理解すべきだった。

そして、お尋ね者になったのも、エリアたちが勝手に起こしたこと、

あの場にリーゼがいなくとも、似たような結果になった事に違いない。


 そうすべては、


「すべてアンタ達の自業自得でしょ!」


と強い口調で言い放つと、


「うるせぇんだよ!」


と怒号を上げると剣を抜いて、エリアはリーゼに切りかかる。


「!」


リーゼは素早く避けつつ、


「サンダーソード!」


彼女の右手に、光の剣と言うか、雷の剣が出現した。


 するとここで、リトヴァが


「アンチサンダー……」


と魔法を使う。するとエリアはニヤリと笑い、


「お前は、もう終わりだ」


リーゼは、その意味が分かっていた。

リトヴァが雷系の魔法を、弱体化させる魔法である。

二人は、余裕に満ちた表情を浮かべる中


「相変わらずわかってないのね」


とリーゼは呟きつつもエリアが剣を振るってきたので、

雷の剣で応戦する。


「なんで……」


アンチサンダーを使えば、本来なら弱体化して、砕け散るはずである。

そんな気配はない。そして、そのままエリアの剣を押し返し、


「サンダーシュート!」


雷の魔法弾で追撃した。


「ギャアアアアアアアアアアアア!」


魔法弾は命中したエリアは悲鳴を上げる。


「どうして、私の魔法は効いているはずなに!」


と声を上げるリトヴァ。リーゼは、


「アンタにも話したはずなんだよね。私の魔法は特殊だって……」


アンチサンダーは、雷系を弱らせる属性の力場を発生させるものである。

だがリーゼの雷は、属性による影響を受けない。

つまりアンチサンダーの無意味。


「なんで……」


リトヴァは、理解していなかった。いや聞き流していたのだ。

そしてリーゼは


「サンダーボルト!」


と強力な電撃を浴びせた。


「「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」


ボロボロになり地面に倒れる二人、


「クソ……」


リーゼは


「さっさと自首して、二度と私の前に現れないで


と吐き捨てるように言い放つ。するとエリアは悔し気ながらも、

どこか余裕そうな笑みを浮かべた。その表情に疑問を感じたリーゼ


(そう言えば、マルセラさんがいない)


その直後、近くから楽器を弾く音がした後、


「キャッ!」


悲鳴が聞こえ、その方を向くとマルセラが光の紐で捕まっていた。


 そばにはメリッサがいて、


「ナイフを持って、今にも襲い掛かりそうでしたから、拘束しました」


おおかた不意を突いて、リーゼを襲うつもりだったと思われる。


「母さん……そんな……」


絶望的な表情を見せた後、エリアは気絶した。

これにより、リーゼに関わる出来事が終わったことを意味していた。

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