32「洞窟にて」

 夕方になって、もうポイズンゴブリンは、やってこないと判断したので、

五人は、マジックアイテムを停止させ、片付けて、森を後にした。

アイテムは使い捨てとはいっても、あと一回は使用可能である。


「おかえりなさい」


と達也が出迎える。


「奴らは、来なかったよ」


とヴィンセントが言うと


「それは良かった。でも気を付けてください。

こんなところまで来て、何もせずに帰るはずはないんですから」


と達也が言うと、リーゼが、


「そうね、明日も気を付けないと」


そしてメリッサが、


「洞窟が一番危ないんじゃないでしょうか?」


ポイズンゴブリン討伐の締めは、魔獣の巣がある洞窟で行うのは、

知られているので、そこを狙って来てもおかしくない。


「まあ、でも洞窟に閉じ込めるようなことはしないだろうな。

奴ら、エディトやアンジェラを連れ帰りたいだろうし」


閉じ込めてしまえば、二人を連れ帰る事は、かなわない。

まあ、二人を連れだした後は別だろうが。


「とにかく洞窟だろうが、来るなら来いってところだ」


左手の掌に、拳をぶつけながら、そんな事を言うヴィンセントで、


「そうだよね」


と同意するアンジェラ、他の面々も同意する。


 そんな五人に、達也は、


「皆さん頑張ってくださいね。でも今日は、ゆっくり休んでください」


そして全員ボックスホームに入る。今夜、達也は、みんなに夕食を作っていて、

料理はおいしくて、五人の心も体も癒していき、明日への英気を養うのだった。






 その頃、意識を取り戻したマグヌス達は、


「なんだ、あの女と鎧武者は?」


マグヌス達は達也を女性と認識している。


「手も足も出なかった」


と言うエリア、


「何なのよ、あの二人は!」


と声を上げるエリーズ、

ユリアーナは、身分を隠すため声を出さないが、

悔しいのか地面を思いっきり、殴りつけた。


 更に悪い事に、


「遠見の鏡が壊れてる」


達也たちの襲撃の際に遠見の鏡が、

地面に落ちただけでなく、ダメージも請けたらしく、

遠くを映し出せても、地図が表示されなくなっていた。


「これじゃあ、奴らの居場所が分からない」


それ以前に、森を出てボックスホームに入っているので、

見る事さえできない。


 ここでエリーズが、


「でもさあ、どうせ最後はゴブリンの巣に行くんでしょ」


マグヌス達はゴブリンの巣の位置は把握している。

森をうろつく過程で発見したのだ。


「そうだな、奴らが巣にいる時に行こう」


その時には、五人がゴブリンをあらかた片づけているから、

巻き添えになる事もない。


「それしか無いよな」


とエリアも言い、他の面々も同調した。









 


 

 翌日は、早めに朝食を食べ、早朝から魔獣退治にかかった。

場所は、マグヌス達を気にして、別の適した場所で行う。

初日と同じように、マジックアイテムの設置。

罠の設置を行い、寄ってきたポイズンゴブリンを倒していく、

襲撃が収まると、前日と同じく、休憩と罠の再設置など次の襲撃に備える。


 何度目かの襲撃の後、ちょうど昼になったので、

食事をとりつつ、解毒剤を飲む。効果はまだ続くが、

戦闘中に切れたら、大変だから余裕をもって飲むのだ。

そして薬を飲み終え準備を整え、次の襲撃を待つ間ヴィンセントは、


「しかしうまかったな、タツヤのおにぎりは……」


昼食は、達也が作って持たしていた。リーゼは、


「食べるだけで、力が湧いてくるような気がするわね。

メリッサさんの歌のようにバフの効果があるのかしら」


実際は、そんな効果はないが、名前を出されてメリッサは、

恥ずかし気な表情を見せつつ、


「そのタツヤさんのおかげですよね。私たちがこうやって一緒に働けるのも、

自分の隠れた才能に気づけたのも」


するとエディトは、


「タツヤさんが、私たちを誘ってくれなかったら、

メディス様と会う機会もないし、

それに、また家族に利用される日々に戻されたかもしれない」


アンジェラも


「アタシも似たようなもんだね。ホントにタツヤには感謝だよ」


そしてヴィンセントは、


「タツヤには、シンラも貰ったし、それに……」


リーゼをチラッと見て、リーゼも意識したか、赤い顔をして、


「私もタツヤさんには感謝しています。その……」


とリーゼは、言いかけて、恥ずかし気に口ごもったが、

ヴィンセントと会えたことを言っていると思われる。


 さて五人は、雑談をしつつも、敵が来るのを待ったが、

どれだけ経っても、ポイズンゴブリンは来ない。日が陰りだすころまで待って、

リーゼは、


「もしかしたらもう……」

「そろそろ打ち止めだな。行くか?」


全員がうなずき、ゴブリンの巣へと向かう。

ポイズンゴブリンは、群れの数が一定数減ると、

その時点から二日ほど外に出てこなくなる。

それが、突入可能の目安でもある。

場所は、依頼人である周辺の村の村長から聞いていて、地図も貰っていた。


 やがて、その地図に書かれている場所へとやってきた。


「ここだな……」


そこは岩山の洞くつであり、よくあるゴブリンの巣である。


「ここは、アタシが」


アンジェラはテイムした毒ガスの影響を受けない鳥を、洞窟の中に放つ。

因みに、ゴブリンが、巣に入っても気にしない種類の鳥でもある。

そして鳥を介して、サーチを使う。念のための確認だ。

それによって分かった洞窟内のゴブリンの数を話し、


「毒ガスの濃度も薄いから薬で十分だね」


話を聞いたリーゼは、


「まだ外にいるゴブリンもいるかもしれないから、

夜まで待って突入しましょう」


一部の少数ではあるが、マジックアイテムに

引き寄せられない個体もいる場合があるからだ。


 五人は、日が暮れるまで、待ったのち突入する。

洞窟内の構造や、魔獣の位置は、アンジェラの索敵で分かっていて、

待っている間に、彼女は、全員分の地図を描いて、渡す。


「それじゃあ、行くぞ」


地図を手に、五人は、再度解毒剤を飲み、

アンジェラ以外は、暗視魔法を、アンジェラは、

魔獣から手に入れたスキル「暗視」を使い洞窟に入っていった。








 五人が入っていって、しばらくした後、マグヌス達はやってきた。

連中は遠見の鏡で、彼らが入っていったのを確認してから、

ここに来た。ちなみにアンジェラの索敵を気にして、

離れた場所にいたので、鏡で状況を確認しながら、

駆け足で来ている。そのおかげか、間に合った。


 マグヌス達は、


「はぁ、はぁ、はぁ……」


息を整えつつ、マグヌス達は、それぞれサーチを使い、状況を確認する。


「まだ戦闘中だな」

「終わるまで待つか」


とエリアは言い、他も同調する。

そして、タルインガ商会の使者から、解毒剤をもらっているので、

何度かサーチを使って、戦闘が終わるのを待ち、

解毒剤を飲んで、暗視魔法をかけて、洞窟へと入った行った。






 ヴィンセント達は、手分けして洞窟内の、ポイズンゴブリンを倒していく。

ここからは、普通のゴブリンと変わらない。

個体数は減らしていたが、それでも結構な数な上、

洞窟内に分かれて、隠れているので、手分けして各個撃破していったが、

結構時間が掛かった。


 そして洞窟内の広い空間に、ヴィンセント達が集まり、

アンジェラが索敵を行い、結果を待つ。


「もう魔獣は居ないよ」


ポイズンゴブリンは、全滅した。これにてお仕事終了だが、


「それと奴らが来たよ」


全員に緊張が走るが、エディトが、


「回復しますね……ヒール」


ゴブリンとの戦いのより疲弊した体を回復させる。メリッサが


「一曲歌いますね」


バフ効果のある歌を歌おうとするが、


「そっちはいい、このままで行く」


ヴィンセントは言い、他の仲間たちも同調する。

全員決意に満ちた表情で、メリッサは、


「そうですか」


と皆の意思を尊重しつつ。


「でも、できうる限り、お手伝いします」


と言った。


 そして五人は、再度戦闘準備を整えた。

マグヌス達が到着したのは、それから間もなくだった。

連中は、アンジェラの索敵に引っかかっていた。

もちろん、連中もそれを覚悟して洞窟に入って来たのであるが。


 最初にヴィンセントが、


「マグヌス!付いて来い!」


と大声を上げ、洞窟の奥へと走り去る。


「待て!」


と言って後を追うマグヌス。


 同時に、リーゼも


「こっちよ!」


と言ってヴィンセントとは別の方向に入って行き


「ちょっと待てリーゼ!」


元旦那のエリアと今嫁のリトヴァが追っていく、

ただ、元姑のマルセラはどこかに行ってしまった。


 エディトは、


「………」


彼女は、無言でその場を立ち去った。


「ちょっと待ちなさい!姉さん!」


とエリーズを先頭に、エディトの家族が後を追っていく。


 そして、メリッサもどこかに居なくなった。

ここまでの事は、事前に決めていた事で、

マグヌス達と出くわしたら、散って、各自の関係者

洞窟内で、実行する実行するつもりは、なかったが。


 そして、残ったのはアンジェラとフードで顔を隠している勇者パーティー、

なおユリアーナ以外の勇者パーティーは、マグヌス達のサポートの為か、

別れて、後を追うとしていたが、


「させない」


アンジェラのテイムした蝙蝠に阻まれ、それは適わなかった。


「素顔を見せたらどう?ユリアーナ?」

「よくわかったわね」


彼女を含め、全員、フードを取るが、

達也から話を聞いていたからバレバレである。


 そして、アンジェラは、


「わざわざこんなところにまで来て、そんなに私を連れもどしたいの?」


と聞くと、ユリアーナは、


「貴女がいないと、私は勇者を辞めさせられるのよ。

折角、手に入れた称号を手放したくない」


と言いつつ、


「私が勇者でなくなることは、この国の損失なのよ。

国の為にも、戻って来なさい」


とどこか偉そうに言う。

 

 アンジェラは、


「いいんじゃないの。私にはアンタ達が勇者をやってる方が、

世の為にも、人の為にもならないわよ」

「アンタね!」


ユリアーナは、怒りで顔を歪ませながら、声を上げ、剣を向けてきた。


「やるっていうなら、相手になるわよ。あと私はスキル『斬撃』を使うわ」


そう言うと、アンジェラも剣を抜いて、

周りには他にも勇者の仲間がいるが、ユリアーナが


「手を出さないで!」


と言ったので、一騎打ちの形相となった。

ただし、手出し無用と言ったのは、正々堂々と言う訳でなく、

自分一人で十分だという。アンジェラをなめきった考え故である。

しかしそれが間違いである事をすぐに知るのだった。

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