31「前哨の魔獣退治」

 さてキャンプをしているマグヌスたち、

彼らは火を囲んで、座っている。なお先ほどまで夕食を食べていた。

そしてマグヌスは、エリアに、


「奴らの、言う通りにしてよかったのか」


奴らとは、マグヌス達が酒場で会って、意気投合し、

行動を共にし始めてから、彼らを支援してくれている冒険者たち、

宿泊場所の手配や、食料や衣類の提供をしてくれている。

実はタルインガ商会の、シビルの手によるものなのだが彼らは知らない。

そして、支援はしてくれるものの、正体が分からないので、

マグヌスには、心を許せないところがあった。


 さて今回は、ヴィンセントたち五人が、魔獣退治に行く場所が、

分かったとかで、ここに連れてきてもらった。

魔獣との戦いで、疲弊したところを襲えば、

うまく行きそうだと、みんな思ったからである。


「親切心じゃ、ないようだけどな。俺たちのすることが、

自分たちの理になるとか言ったけど……」

「やっぱり、アイツらのいるドラゴス商会に恨みがある連中かな」

「そうだろうな」


とエリアは言いつつ、


「まあ利用できるもんは、利用しないとな」


とも言った。


 しかしマグヌスに、もう一つ気になる事が、


「しかし、奴らは何者なんだ……」


一応助っ人と言う形で、紹介された連中だが、

フード付きローブで、そのフードを深々と被っていて、

顔は分からない上に、話しかけても、黙ったまま。

しかも今も、距離を置いている。この連中が不気味だった。


 マグヌス達は知らないが、この一団は勇者パーティーなのである。

ユリアーナ達は、どうやってアンジェラを呼び戻すか、仲間たちで話し合った。

この場にジャンヌが居れば、彼女の立場が低いとはいえ、

話の多少の軌道修正くらいはできる。

これまでもどうにか、それこそギリギリの所で暴走を抑えてきた。

それでも、アンジェラの追放は防げなかったが。


 しかし彼女は居ない現状、今いるパーティーメンバーは、

全員、ユリアーナのイエスマンで、異論を言うものは居なくて、

もはや暴走の一択。


「あの商会を無くせば、彼女は戻って来るしかなくなるわ」


と言うユリアーナの意見も、全員賛成だった。


 ただ、直接的に手を出せば、現状では自分たちの立場が危うい。

そんな中、現れた人物、ユリアーナは知る事はないが、

タルインガ商会の使者から、モブト商会を紹介させ、

金を払い、ドラゴス商会を襲わせたが、失敗に終わり、

ラウロ達はファスティリアから出ていった。


「役立たずな連中ね」


ラウロ達が逃げたことで、今後の事をどうするか、考えていたが、

その後、同じ人物から、アンジェラたちが魔獣退治に行くことを知った。

その人物からは、どうするか聞かれ、

もしその場に行くなら、足を用意するとも言われた。


 話を聞いたユリアーナは、


(いい機会ね、何かあっても、魔獣の所為にできるわ)


商会を潰すのは、勇者の立場を悪用すれば、出来ない事ではなかったが、

信頼が地に落ちた現状では容易ではない。

しかし彼女と親し気な面々を潰すのは簡単である。

そうヴィンセント達を手にかけ、脅せば、

戻ってこざるを得ないと考えたのだ。


(アンジェリーナ、私たちの元に戻るしかないのよ)


とそんな事を思っていたが、

戻るどころか仲間を失ったアンジェラが、

復讐鬼となり、対立がより決定的になりかねないという事は、

思いつかないようであった






 翌朝、昨晩から念の為、戦闘機形態で空中で待機していたアスタリテが、

魔獣退治の現場近くの広い場所に、着陸した。

余談だが、アスタリテの戦闘機形態は、垂直離着陸機である。


 そして、五人は、ヴィンセントが作った朝食の後、

リーゼは、転移ゲートを介し、一旦レナの館に向かいマックスを預けた。


「夕方、また来るから、いい子にしているのよ」

「うん!」


と元気に返事をしつつ、その場を立ち去るリーゼに、


「お仕事頑張ってね」


と声をかけた。


 そして、ボックスホームから出た五人は魔獣退治に向かう。

達也は、いつものように待っている。

そして、マグヌス達の気配を感じ取るが、


(まだ奴らは、動く気配はないな)


連中も様子見をしているようだが、

達也も状況によっては、動くつもりだった。


 森の中に入ったヴィンセントは、ある程度進んだところで、


「この辺で良いな」


五人は、準備を始める。ヴィンセントとリーゼ、

メリッサとエディトとアンジェラに分かれ、マジックアイテムの

設置を始める。今回の魔獣は、ポイズンゴブリン。

ゴブリンの変異体で、その名の通り、毒を持っていて、もちろん群れである。


 爪や牙から毒を分泌するだけでなく、周囲に毒ガスを巻くので、

解毒効果のある薬を飲み、毒ガスを無力化するマジックアイテムを使って、

討伐に当たる事になるが、通常のゴブリンとは違い、巣は毒で充満していて、

薬では抑えきれないのと、マジックアイテムは洞窟内では使えないので、

外におびき寄せる必要が有る。


 ただ、個体数が減れば、巣の毒ガスも薄れるので、

最終的には巣に乗り込んでの殲滅となる。

加えて本来ゴブリンは、夜行性だが、ポイズンゴブリンは、

昼行性で、討伐は日が出ているうちに行う。


 ヴィンセントとリーゼは、

魔獣を誘導するナジックアイテムを設置する。

それは、複数の鉄骨で構成された小さな櫓のようなもので、

頭の部分に石のような物があり、これが輝くので誘導灯のようにも見える。

櫓は使いまわせるが、この石は使い捨てで、尚且つ使用期限がある。

なお本来、ゴブリンをおびき寄せることは出来ないが、

ポイズンゴブリンは例外である。


 一方、メリッサとエディトとアンジェラは、周囲の木々に、

札のようなものを張り付けている。

これが毒ガスを無力化するマジックアイテムで、

木を通して大地の力で発動する結界で、毒ガスの他、体液など毒を無力化する。


 ただし外気に触れた物のみの無力化で、

爪や牙は外気に触れずに、毒が注入できるので、

解毒薬は必要である。なおこのアイテムも、使い捨てである。


 途中から、マジックアイテムを組み立て終えたヴィンセントと

リーゼが加わって設置していき、それが終わると、今度は全員で手分けして、

ゴブリン用の罠の設置である。それと並行して、

アンジェラは、毒に耐性のある動物や虫をテイムして、周囲に配置し索敵する。


 これらの作業が終わった後、


「ふぅ~」


と全員一息つく、しかしここからが本番である。一休みし終えると、


「起動させるぞ」


とヴィンセントが声をかけ、全員がうなずく。

そう、誘導のマジックアイテムを、起動させたのだ。

マジックアイテムは、まばゆい光を放つ。


 起動させたからと言って、魔獣がすぐに来るとは限らない。

五人は緊張しながら、その時を待つが、

加えて、マグヌス達の事があるから、奴らがいつ来るかわからないから、

余計に緊張するのである。


 少し時間がたった後、索敵していた動物が敵を捕らえた。


「来るよ!」


とアンジェラが声を上げる。全員武器を手にしていた。

ヴィンセントはシンラから、弓を出現させ手にしていて、

リーゼは、魔導具の腕輪を身に着けていて、

メリッサもローレライを手にし、アンジェラも剣を手にしていたが、

そのアンジェラの声で、みんな武器を構えた。

なおエディトは、回復薬なので、武器は持っていないが、

アンジェラの声を聴いて、手を組んで祈りを捧げるような、仕草をする。


 そして、


「グシャー」


と言う悲鳴が次々に聞こえた。どうやら罠に引っかかったようだが、

何体かは、それを乗り越えて、やってくる。


「来たなポイズンゴブリン……」


ポイズンゴブリンは、体格は普通のゴブリンと変わらないが、

体色が紫色をしていて、あと武器を使うこともあるが、

今回は、爪と牙で襲い掛かっていた。


 ヴィンセントは、弓で矢を放ち、敵を倒していくが、

攻撃を乗り越え接近してきたときは、剣に切り替え、

魔獣を切り裂いていく。


 リーゼは、ゴブリンたちに雷魔法を使っていく


「サンダーエッジ……シュート!」


雷の刃が、ゴブリンに突き刺さっていき、

倒していく、攻撃を乗り超えて、接近されたときは、


「サンダーランス!」


以前とは違い、雷の槍を手にしたまま、魔獣を薙ぎ払っていく。


 メリッサはローレライを弾き、氷塊を生成し射出する

ポイズンゴブリンは水属性が弱点なのだ。


「♪~~~~」


更に歌を歌う事で、効果を高める。

なお接近されても、自身を含め皆にバフをかけており、

歌い、演奏しながら蹴りで応酬する。


 アンジェラは達也から学んだ剣技を使って戦う。

更に離れた敵には、


「ゴウオウザン!」


遠距離系の奥義を使い、接近してきた敵には


「シデンイッセン!」


更には


「ミサキギリ!」


とスキルのお陰という事もあるが、

それらを駆使して、敵を倒していく。途中、


「タツヤ、ありがとう……」


と呟き、達也への感謝も忘れない。


 一方、エディトは、他の面々とは、少し離れた場所にいるが、

これは回復役だからと言う訳ではない。そんな彼女に魔獣は近づいてくる。


「ヒール!」


接近していた魔獣は凍りついて、砕け散った。

これもまたヒールの応用であるが、まだコントロールが難しいので、

他の面々を巻き込まない様に、距離を取っているのである。


 この後、魔獣は全滅させ、アンジェラが索敵をし


「周囲に魔獣は居ないよ」


ヴィンセントは、


「よし、第一波は乗り越えたな」


ポイズンゴブリンは、交代で巣から外に出て行動する。

マジックアイテムが引き寄せたのは、外に出ていた連中であり、

魔獣は、まだまだいて、 交代と言っても、

戻ってこなくても、次の魔獣は、巣から出てきて、

マジックアイテムで引き寄せられる。それを再び討伐する。


 そう二波、三波と来るわけである。

しかも間が空くので、朝から晩まで定期的に、魔獣と戦わねばならない。

あと魔獣の量も多いのと、夜になったら出てこないので、

結果として、討伐には二日を要する事になる。

なお魔獣が来ない間に、休憩を取ったり罠の張り直しをして次に備えるのだ。

昼食も、この間にとる。


 そして罠を設置しながらヴィンセントは、


(こんな時に、来ないでくれよ)


マグヌス達の事を気にするのだった。





 その頃、マグヌス達は、鏡を見ていた。それは遠見の鏡だ。


「連中が、遠見の鏡を持ってきてくれてるとはな」


マグヌスは、ほくそ笑む。


「これで、奴らの事がわかる」


エリアは、


「そのために昨夜は大変だったがな」


遠見の鏡は過去に行ったことのある場所しか映さないので、

この森は全員、初めてきた場所なのと、

どこで、五人が魔獣退治するかは不明なので、

当たりを付けて、夜に森の中をうろついたのである。


「よし、見つけたぞ」


うろついたおかげで、ヴィンセント達の居場所を見つける事が出来た。

丁度ポイズンゴブリンと、戦闘中を始めるところであった。

様子を見るだけでなく、地図の様なものが表示され場所もわかる。


「ちょうどいい、今から行けば」


場所は距離があったので、

丁度、戦闘が終わったくらいに到着する。

そうすれば、ヴィンセント達は疲弊しているから、絶好の機会だと思われた。

ただポイズンゴブリンの毒ガスには気をつけねばならないが。


「行くぞ」


とマグヌスの声に他も同調して、動き出す。


 しかし、事は思い通りにはいかない。ある程度進んだところで、一行の前に


「この先には行かせませんよ」


達也と、更にはムラマサもいて、二人が立ちふさがった。


「何だお前ら?」


ユリアーナは分かっているはずだが、

正体を隠す為か、声をあげない。


 なお達也は、気配から、奴らの動きを知り、

同時に、奴らが魔獣退治の最中に、乱入するのではと、

予測して、ここに来たのである。


「すいませんが、眠っていただきます」


この少し後、連中は達也とムラマサによって全員、気絶した。

しかし大した怪我はしていない。そう達也は手加減をしていたし、

ムラマサにもそうするように命令していた。

こいつらは、あの五人が決着をつけるべきと言う思いに変わりが無いからだ。


 そして二人係で、連中を安全な場所に運ぶと、

その場を立ち去った。そして奴らが目を覚ました時には、

五人が、この日の討伐を終え、その場を去った後だった。

因みに、マグヌス達はエディトの力の事、

間抜けな話であるが、彼女の家族も失念しているので、

疲弊を狙うこと自体、無理がある事に気づいていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る