30「決着へ向けて」

 メリッサの件が片付いたので残るはヴィンセントとリーゼ、エディト、アンジェラの関係者だけとなった。


「勇者たちは動く気配はないね」


と達也とヴィンセントたちは、事務所にてニーナから報告を受ける。

そう勇者は何かすれば、解任は決定的になるから、下手に動けないと思われる。

ここでベティが、


「モブト商会の黒幕が勇者かは不明だけど、もしそうなら、

頼みの綱が切れたことになるね。この街じゃ、ゴロツキでもタツヤさんを恐れて、

商会に手を出す奴はいないし」


さらにヴィンセントが、


「俺も、そんな話、聞いたな。だから先の襲撃の時も、

結託した連中の仕業だと思ったからな。まあ違ってたがな」


ここでリーゼが、


「でもモブト商会と聞いて、納得でしたけどね」


と言った。確かに結託した連中も、モブト商会も、

更には勇者パーティーも、この町の人間ではないから、

達也の事はあまり知らない。そして話を聞いた達也は、


「そうなんですか……」


何とも言えない表情を浮かべた。


 手を出してくるのは、タルインガ商会くらいであるが、

レティへの襲撃の際にも達也の姿を見ただけで逃げる始末である。


「タルインガ商会が、仲介したかもだけど、

モブト商会にたどり着くまでにいろんな奴らに、

断られてるんじゃないかな」


ラウロ達は、この街の人間じゃないので達也の凄さと言うか、恐ろしさを知らない。


 勇者はともかく、マグヌスと、エリアとその関係者、

エディトの家族の件である。ベティは、


「連中はまだ、行動を共にしてるみたいだね」


エリアはお尋ね者なので、大っぴらに行動はしていない模様。


 そしてベティは、


「今度は、下手は打ってないからね」


既に、連中の新たな居場所も特定していて、

今度は、バレていない様だった。


 さて、この報告を受けた時点で、

直ぐに事を起こしたかったが、ヴィンセントたちは、

翌日から、泊りの仕事が入っていた。

仕事を疎かにできないので、その後でという事になった。


「でも大丈夫かな。下手は打ってないからって、

移動しない保証はないよね。こっちのことがバレてなくたって、

向こう都合で移動してるかもだし」


するとベティは、


「大丈夫だよ。その時は、アタイが責任も持って見つけてくるから

それに、網も張ってるしね」


たとえ今の場所を移動されても、すぐに特定できるという。


「この町を出ていかない限り、大丈夫だよ」


とのことだった。


「だといいけど、でもベティちゃんやニーナちゃんに悪いな。

他の仕事もあるのに、その私たちの事に、手を患させて……」

「いいって、いいって、仲間の事なんだから」


と言って笑うベティ。


「これが、私の仕事だから」


と笑顔で言うニーナ。


 ただ二人に気を使っているのは、エディトだけじゃなかった。

その日の夜、達也は、ベティから事前に聞いていた居場所に、来ていた。

煌月流忍術により、気配を消している。

そこは、廃屋のようだが、明かりはついている。

なおヴィンセントたちに代わって、何かするつもりでもなく、

見張りに来たわけでもない。


(これが、連中の気配か……)


マグヌスや、エリアたち、エディトの家族たちとは、

直接、会っていないこともあり、気配を覚えてはいなかったので、

気配を覚えに来たのである。


 建物の中と周辺には、複数の人間の気配があった。

周辺の方は、おそらくタルインガの見張りと思われる。

彼らを見張り、状況に応じて介入して、

ドラゴス商会にトラブルを起こさせようとしていると思われる。


 そして、中にいるのが、マグヌス達と思われるが、


(こいつらは僕の敵だな……)


全員そのような認識を抱いた。

その後、気配を覚えた達也は、そのまますぐに帰ってもよかったのだが、

しばらく、その場にいた。


 なお今回、達也一人ではない。


「旦那様、わっちが見ていんすんで、

お帰りになってくんなまし、明日もお仕事があるでありんしょう」


念のためヨシノもつれてきていた。

なお仕事と言うのは、何の因果かヴィンセントたちの手伝いである。


「い、大丈夫。もう少しいるよ」


達也はすぐに帰る気にはなれず、周囲の連中から、

身を隠しつつ、建物を見張り続けたのだが、

これが、すぐに功を、そうすることになる。


 しばらく様子を見ていると、


(この気配は、勇者パーティー……)


ユリアーナと仲間が近くまで来ているのだ。

それにもう一つ気になる気配がある。その後、建物に入っていく人影を見て、

やがて、マグヌス達と思える連中が、入っていった人間ともに出てきて、

どこかに向かう。


 達也とヨシノは気配を消して、後を追う。すると途中で、


(勇者……)


全員ローブで身を隠していたが、気配で分かる。

どうやら勇者パーティーと合流したようだった。更にこの後、


(あれは、アッシュ君)


そこには、アッシュとバン形態のダークエンジェルがあった。


「こいつらを、連れて行けばいいんだな」

「そうだ、急いでくれよ。

こいつらには、早朝から魔獣退治をしてもらうからな」


連中を連れてきた奴は、そう言ったが気配から達也には、

嘘を言っていることがわかる。


 その後、連中をバンに乗せると、発進する。

この事は見るからにわかるので、達也は事前に、


「ヨシノ、あのバンと言うかカーマキシは追ってほしい」

「わかったでありんす」


すると、ヨシノはムラマサに、姿を変える。この姿になれば、

車を追えるので、発進とともに、達也と別れ、追跡を始める。


(念のため、ヨシノを連れて来ててよかった)


と思いつつも、このまま彼女に任せるつもりはなく。

キーホルダーを取り出すと、


(カオスセイバー!)

 

そうカオスセイバーを呼び出した。


 なおカオスセイバーは、目立つので、レナの館に置いてきていた。

そして達也の呼び出しに応じ、車形態で、動き出し発進する。

その後、達也は自分の足でバンを追っていた。

もちろんバンは視界から消えていて、達也の力が届く範囲からも、

離れていた。


 やがて、車形態のカオスセイバーがやってきて、

達也の側に停まり、彼は乗り込んだ。

その後、ヨシノことムラマサは、バンを追えていた。

そして、ムラマサの位置はカオスセイバーで、把握できるので、

そこに向かい、バンに追いつきつつ合流する。

ムラマサと合流し、ムラマサは転移でボックスホームに入る。


 あとは、カオスセイバーで、追跡できるが、


(車だと気づかれるかな……)


そう思った達也は、機体をアスタリテの戦闘機形態に変身させ、

飛翔し、空から追跡した。


(どこに行くつもりだろう……)


なおダークエンジェルも、戦闘機形態になれるが、

こっちの事は気づかないのか、終始カーマキシ形態のまま、

どこかに向かっていた。


 やがて、バンある場所に停まる。それに合わせて、

アスタリテも、上空でホバリングするが、


(ここって!)


達也はこの場所に身に覚えがあった。

その後、全員がバンを降りて、バンは去っていき、

連中は近くに移動し、キャンプを張った。


 達也は、アスタリテを上空待機にしたまま、

転移で、ボックスホームに移動し、五人のいる道場に向かう。


「夜分にすいません」


この時、マックスは就寝していたが、5人はまだ起きていた。

そして、達也は事情を説明した。


「奴らが……」


と言うヴィンセント、アンジェラも、


「やっぱり仕事の邪魔をしに来たのかな」


そう、連中がやってきた場所は、

翌日から5人が魔獣退治をする場所であった。

アッシュには、早朝からの魔獣退治と言っていたが、

それは、汚れ仕事をやりたがらないアッシュを誤魔化す為と思われ、

実際は、仕事の妨害、あるいは仕事終わりに襲ってくる事が想定される。


 ここで達也は疑問を感じた。


「どうして、場所が分かったんだろ」


冒険者ギルドには、タルインガと繋がっている奴がいるから、

どんな依頼を受けたかは、向こうに伝わった可能性があるが、

しかし、冒険者への割り振りは、商会で行うから、

誰がどの依頼を受けたかは、商会内に内通者、

あるいは盗聴でもされてない限りは分からないはずである。

しかし、達也はどちらもあり得ない事を知っているので、疑問だった。


 するとヴィンセントが、


「あ~もしかしたら、俺の所為かも」

「えっ!」

「何も考えずに、堂々とアイテムショップで買い物したから」


アイテムショップの買い物内容から、

討伐する魔獣を予測する事は、可能で、

しかも買い物の時は、大勢の客がいたので、

その中に、タルインガの関係者がいてもおかしくはない。

買い物からの予測と依頼の状況を照らし合わせれば、

五人がどの依頼を担当するかは容易に予測できる。


 加えて、連中が今日出発したことについても、


「今回買ったアイテムの中には使用期限付きがあって、

店員からも三日以内に使えって言われたから、

それを聞かれてたとすれば、何時仕事に行くか予測が付く」


三日以内、購入した当日は、魔機神を移動に使っても、

時間的に無理があるので、少なくとも、明日と言う形になる。


「すまんな、俺が油断したばっかりに」


と申し訳なさげに言うヴィンセントだがするとリーゼは、


「そんな事を言ったら、私たちも同じですし」

「ヴィンセントさんだけの所為とは言えないでしょう」


とメリッサも同調するし、話を聞いた達也も、


「買い物の時まで、気を付ける必要はないと思いますよ。

まあ今回は運が悪かったって事ですね」


と言った。


 ただ問題は今後の事である。連中がこっちに来ていて、

何をされるか分からない状態だが、


「そうします?明日の仕事は?」


と達也が尋ねると、


「俺は、予定通りにしたいが、他の皆は?」


とヴィンセントが言うと、他の面々も同意する。


「ちょうどいい機会ですしね。来るなら来いと言う所でしょう」


とリーゼは言う。エディトも


「私もいい機会だと思う」


アンジェラも


「私も大丈夫だよ」


そしてメリッサも


「何かあれば、私も手伝いますよ」


達也も


「僕も、出来る事があればお手伝いします」


と言うが、


「いや、タツヤとメリッサは見守っていてくれ、

俺たちだけで、事を済ませたいから」

「でも……」


と言うメリッサに


「メリッサの件は、終わったんだから、俺たちの番だ」


そして達也には。


「タツヤは、教えてくれただけで十分だ。

おかげで、前もって、覚悟をすることができるんだからな」


元より達也は、決着は各人に付けてもらい。

後処理を、自分で行うつもりである。


 とにかく、奴らが来るかもしれないものの、

明日は予定通り、五人は魔獣退治に挑む。

そして残りの面々の決着の時は近いようである。

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