29「メリッサの決着」

 会議の結果、モブト商会への警戒をしつつも、

ヴィンセント達の方を先に片付けるという事にして、

早速、彼らがいる宿へと向かった。

ヴィンセント達だけでなく、達也とレナ、ベティも立ち会っていた。

ベティは、案内役だが、達也たちは、心配だからである。

ただ、やりあうとなった時は、危険な状況になるまでは、

手を出さないという約束であるが。


 しかし、宿に到着すると、


「遅かったか……」


とヴィンセントは悔しそうに言う。ベティは申し訳なさげに、


「ごめん、アタイが、下手を打ったせいで……」


ベティがマグヌスの宿を突き止めた際に、

自分を見ている男に気づいた。その男は直ぐに去っていき、

最初は、気にならなかったが、後々考えると、

連中と関係のある人間、即ちタルインガの連中じゃないかと思ったのである。


「アイツらアタイの顔を知ってるだろうから、

連中に話して、宿を移らせたんだね……」


五人の事を優先させたのは、この懸念があったからである。


「こちらから、来られると困るんでしょうね」


とレナは言う。確か、来るとなればそれなりに準備をしてくるわけだから、

不利になるというのもあるが、


「タルインガが裏にいるとなれば、事を長引かせて、

私たちの業務の妨げになればと思ってるんでしょう」


とレナは断言する。ベティは相変わらず申し訳なさげに、


「ごめん……アタイの所為で」


と言うが、達也は、


「そんなに気にしないで、元々分が悪いんだし」


タルインガの規模は大きく、例の男だけでなく、

他にも何人かで、連中の監視、サポートを行っているに違いない。

それに対し、ベティ、ニーナを含めて二人じゃ分が悪い。


「それでも、連中の居所をつかめたんだから、それだけ十分だよ」


ここでリーゼも


「そうよ、気にしないで」


励ますように言い、他の面々も同意する。


「ありがとう……」


とベティは言う。そしてヴィンセントは、


「今日は、ダメでも連中はいずれ向こうからやって来る。

いつ来ても良いように、心構えしておけばいい事だ」


その言葉に、全員が同意した。そしてベティは、


「今度は、下手を打たないよう頑張るよ」


と決意を新たにした。


 その数日後、メリッサは一人、街を歩いていて、

なおそばをハエが飛んでいる。そして人気のない場所に入ると、


「よう!メリッサ」

「ラウロ……」


声をかけてきたのはラウロで、更にその仲間たちもいる。

なおモブト商会に関しては、ベティとニーナは、マグヌスたちが結託したことで、

そっちに気を取られ、襲撃があるまで、ノーマーク状態だった。

これは勇者パーティーにも言える事だが。

なお襲撃後、モブト商会の状況を追うとしたが、

その時には、とっくに身を隠していた。


 メリッサは、ラウロ達のローレライを取り出し、


「顔を見せるなって言ったでしょ、

そっちこそ、二度と来ないんじゃなかったの?」

「別に良いだろ。固いこと言うなよ」


と言って、近づいてくるので、弦に触れつつも、


「私の事を襲いに来たの?」

「ちげーよ。つーか、その物騒なもん仕舞えよ」


とメリッサの持つローレライに動じつつも、

ニヤつきながら言うが、


「仲間を襲っておいて、信頼できないわ」


メリッサは冷たく突き放すように言いつつも、


「私への、当てつけなの?」


引き続き、冷たい口調で尋ねる。


 するとラウロは、


「そんなんじゃねえよ。ある人からの依頼があってな。

まあ正直、気が引けるが、俺たちにも生活があるからな」


襲ったことを、とぼけることはなく加えて悪びれる感じもない。


「生活って……そもそも、この町はあんた達の拠点じゃないでしょ、

いつまでいるのよ」


と言うとラウロは不機嫌そうに、


「手ぶらで、帰れねぇんだよ」


と言いつつも、ここでニヤリと笑い、


「それより、俺たちも勉強したぜ。ハーメルン・パイドパイパー、

音楽の魔法だってな」


と言った。


 ラウロはメリッサとの一件があってから、

この町の図書館に向かい、ハーメルンの事を調べた。


「お前には、ハーメルンの才能があったんだな。

それに、『歌手』ってスキル持ってないか?」


彼が読んだ本の中に、ハーメルンだけでなく、

スキル「歌手」の事が、書いてあった。


「………」


ラウロの問いに黙っているメリッサ。彼はさらに話を続ける。


「お前は、昔、願掛けで歌ってたよな。鬱陶しかったが、

妙に元気になれるから聞いてたけどよ」


この一言に、メリッサは、腹立たしさを覚え、

それが表情にも出ていたが、ラウロはお構いなしに話を続ける。


「あれは、バフだったんだな。

つまりはお前が、俺たちを支えていたんだな」


ここにきてラウロは、メリッサの重要性に気づいたみたいであった。

しかし、それはスキルのことであって、

彼女の魔法による補助の重要性には気づいていない。


 そして、


「悪かったな。お前を無能扱いしてよぉ」


といった後、


「お前らも謝れ」


と言って、かつての仲間たちは次々に、


「すまなかったな」

「ごめんね」


と言う感じで、謝罪の言葉を言うが、

軽い口調で、心はこもっておらず、ヘラヘラ笑っていて、

どう見ても、馬鹿にこそすれ、謝っているようには思えなかった。


 更に、ラウロは、


「なあ、俺達の元に戻ってこないか。これまでの事は水に流してよぉ」

「はぁ~?」


アンジェラを追い出したユリアーナと似たようなことを言い出す。


「前のように一緒に、仲良く仕事しようぜ。

共に、商会を盛り上げていこうって言った仲じゃねぇか」


かつて、モブト商会を引き継いだ頃の事だ。

そんなに前じゃないのに、ずっと昔の事のように思った。


「それに、俺たちの元に戻るなら、依頼も反故にするぞ。

お前が戻ってくれば、もっと稼げるからな」

「じゃあ、ドラゴス商会には攻撃しないって事」

「そうだ、今の商会に迷惑をかけたくないだろ?」


確かに、ドラゴス商会への襲撃をやめてくれるというなら、うれしい事でもある。


 しかし、信用することはできない。

追放された時点で、仲間への信頼は地に落ちているのだ。


(それに、もう昔には戻れない……)


そう思った彼女は、


「もうあんた達の元には戻らない」


ラウロは、両手を広げ、ニヤニヤしながら、


「そんなことを言うなよ」


と寄ってくるが、彼女が先の時と同じように、

弦を弾き、小さな雷をラウロの足元に落とす。


「!」


険しい顔で、足を止めるラウロ、そんな彼にメリッサは、


「追放された時点で、アンタたちとは決別してるのよ!」


すると、ラウロは、


「今の商会が、どうなってもいいのか!」


と怒号を上げるが、メリッサはもの落ちせず、


「いいわけないでしょ!だから私は守るわ。

あんた達みたいな奴らから、商会をね!」


更に弦を弾き、衝撃波を放つ。

威力を抑えているからか、全員倒れることなく、耐えきる


 メリッサの答えに対し、ラウロは剣を抜き、

他の面々も、武器を構える。そして終始上から目線だったにもかかわらず、


「人が下手に出ていりゃ、付け上がりやがって」


と自分の事は棚に上げた何ともベタなことを言い出し、


「無理にでも来てもらうぞ。お前が悪いんだからな!」


と言って迫ってくるが、メリッサは、


「私は戻らない!」


と再度、宣言するように言い、戦闘態勢に入った。


 メリッサは、歌いながら、ハープを演奏するが、なお歌は音を外している。

そして音を奏でるごとに、ラウロ達に雷が落ちたり、

真空刃が放たれたり、氷塊が生成され、射出される。

そうハーメルンによる攻撃魔法を使っているのだ。


「クッ!」


ラウロ達は、ラウロを含めた数人が、接近攻撃を仕掛け、

三人ほどいる魔法使い後方から援護する、

ラウロ達は、メリッサの攻撃をどうにか避けながら、接近するが、

メリッサも歌い、演奏しつつも間合いを取る。

ハーメルンによる攻撃は、基本的に遠距離で近距離向けの攻撃はないため、

近距離攻撃に持ち込まれたら、危険だからである。


 近距離戦がダメなのは、ラウロ達も彼女の動きから、わかることなので、

どうにか接近戦に持ち込もうとするが、

メリッサは加速の効果のある音を奏で、素早くなっていたので、

なかなかうまくいかなかった。


 ラウロは、後方へ援護している魔法使いに、


「補助魔法まだか!」


ときつい口調で最速するが、魔法使いの一人の女が、


「ちょっと待ってよ!こっちだって、避けなきゃいけないんだから」


メリッサの攻撃は、街中とあって、控えめにしているも、

それでも、後方の魔法使いに届いていた。

魔法使いたちは、攻撃をよけながら援護をするしかなかった。


「早くしろ!補助魔法があれば、俺らも攻撃できるだろうが!」


ラウロは、イラついた様子で叫ぶ。


「わかっているわよ」

「だったら、さっさとしろ!」


ラウロは怒鳴るが、そのせいで、余計に詠唱がおくれる。

彼らが使う加速と防御強化の魔法は、それぞれ詠唱が長い。

余談であるが、メリッサは早口なので、

かつてラウロの元にいた時は、素早く補助魔法が使えていた。

ただし当時、評価はされなかったが。


 メリッサに攻撃が届かず、逆にメリッサのハーメルンによる

衝撃波や、雷、氷塊による攻撃を受ける。


「おい!回復魔法はまだか!」

「やってる!」


回復を担当している魔法使いは、力が弱く、回復の実感が得られなかった。

余談だが、エディトほどずば抜けてはいないが、

メリッサも、回復魔法が強い。ただ彼女がいた頃は、

皮肉にも彼女のバフで怪我する事が少なかったので、

これも評価されなかった。


 ラウロは、メリッサに傷つけられる度に、苛立ちを募らせていく。


「畜生がぁ!」


ラウロは叫び、怒りに任せて、剣を振るうが、

メリッサは余裕を持って回避し、弦を弾き、反撃を行う。

これを繰り返し、益々苛立つラウロ、

その苛立ちが最高潮に達した時、補助魔法が発動した。


「やっと来たか!」


ラウロ達は、強化された防御力で、メリッサの攻撃に耐え、

更に強化された素早さで、一気にメリッサに、剣を振り上げながら近づく、


「終わりだ!」


ただ殺す気はない。多少痛めつけて、捕まえるつもりだった。


 この時、メリッサは歌っていなくて、

更に、涼し気な表情をしていた。ラウロはその意味をすぐに知る。


「えっ?」


メリッサを前にして、ラウロ達は剣を落とした。

重くて持てなくなったのだ。

更に、補助魔法が切れたのを感じたが、

加えて、体の力が抜ける。なお補助魔法の効果時間はまだある。

しかし、力が抜けるというのは異常である。


 ここで、ラウロは前に、魔獣討伐で危機に陥った時、

メリッサが歌う事で、囮になった事を思い出した。

あの時は、失敗で役立たずと思ったが、しかし、なぜか魔獣が弱くなっていた。

いま彼女は、その時の歌を歌っていたことに気づく。

あの頃は、気づかなかったが、今ならわかる。


「まさか、俺たちにデバフをかけていたのか!」


メリッサは答えない。実際は、その通りで音を外していたのは、

演奏は魔法、歌はスキルと言う形で分けて使っていたからである。


「クソ!」


ラウロ達は、武器は持てず素手で襲い掛かるか、簡単に避けられ振り払われる。


「畜生……」


全員尻もちを付きながら悔し涙を流す。


 そしてメリッサは、全員の顔に平手打ちをした。


「これで、勘弁してあげるわ」


そう言うと、


「もういいですよ」


と言うと、達也がやって来た。


「えっ?」


彼だけじゃない、ヴィンセントもリーゼも、エディトも、アンジェラ。

更には、レナの姿もあった。


 ラウロは驚いた様子で、


「どういう事だ?」


メリッサは、


「私が、囮をかって出たのよ」


ヴィンセントは、


「俺たちは、反対したんだぜ。危険だってな」


メリッサが一人で居れば、ラウロが接触してくる事は間違いなかったが、

だからと言って囮にすることは気が引けた。

でも、メリッサは、囮になると言ってきかなかった。ここでアンジェラが


「アタシがテイムした蠅で、状況を把握してたから」


もしメリッサが危なくなったら、みんなで助太刀に入るつもりだった。


 ここで達也が、ラウロ達に、


「ところで、あなた達に頼んだ人は誰ですか?」


と聞くと、ラウロは、


「………」


不機嫌そうに口を噤む。すると達也はラウロに耳打ちをする。

ラウロは、大きく目を見開き、達也は、


「本気だって、証明しましょうか?」


するとラウロは、血相を変えて、


「しらないんだ。本当だ!」


依頼人はフード付きのローブを着ていて、顔は見ていないとの事。

何処の誰かも聞いていない。ただ前金としてかなりのお金をくれて、

更なる高額の成功報酬も約束してくれた。

その金に目がくらみ、ラウロ達はドラゴス商会に攻撃を仕掛けたのだ。


 達也は、気配から


「嘘は言ってないようですね。わかりました。さっき言った事はしません」


と言う。彼がラウロに何と言ったかは定かではない。

そしてメリッサに、


「後は、僕が処理しますが、良いですか?メリッサさん」


彼女は達也が何をしようとしているかは分からなかったが、


「もう気が済みましたから……」


と答える。するとラウロは


「おい、お前、何する気だ?」

「大丈夫です。死ぬどころか、怪我さえしませんから、

ただ僕たちに関わってこれないようにするだけです」


達也は笑顔だが、その笑顔が、かなり怖い。


 この後、メリッサの決着がついたと思った達也は、

ラウロ達に眼術を使い、強力な暗示でメリッサはおろか、

ドラゴス商会に関わる事が出来なくさせた。

そして、彼らは速やかに街を出ていくことになる。

こうしてメリッサにまつわる出来事は終わりを告げた。

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