28「クズ共の結託」

 酒場にて、エリアとマグヌスは、クズ同士で、仲良く酒を飲んでいた。

嫁であるリトヴァの他、母親であるマルセラの姿もあった。


「ヴィンセントの今の女は、お前の元嫁か、しかしとんだ女だな」


エリアたちからリーゼの悪口、もちろん事実ではないが

それを聞いて同調するマグヌス。その一方で、


「しかし、ヴィンセントとかいう、リーゼの今の男、

ろくでもない野郎だな。しかし、お前の奥さんも、かわいそうに」


同じくヴィンセントの、これも嘘だらけの悪口を聞き同調するエリアたち。


 ここで、酒場の男性店員が、


「相席、よろしいですか?」


上機嫌だった面々は、


「いいぞ」


とエリアが言い、他も同意する。そしてやってきたのはエディトの家族であった。

この出会いは偶然か、いやそうでは無い。

確か、エリアとマグヌスの出会いは偶然だし、エディトの家族がここに来たのも偶然である。


 だがそれを利用したものがいた。

相席を頼んだ男性店員は、酒場のとある席に向かう。

そこにはシビルがいた。


「頼まれたとおりに、してきましたよ」


と店員が言うと、


「ありがとう。これは後金よ」


と言って、お金を渡した。


「ありがとうございます」


そう言うと、店員は去って行った。


 残されたシビルは笑みを浮かべる。


(この偶然に感謝ね)


シビルは部下に、エリアとマグヌス、エディトの家族、

ラウロ達や、勇者パーティーを見張らせていた。

連中の動向を探り、上手く利用しようと思っていたからである。

そして行きつけの酒場に、エリアとマグヌスがやって来て、

更に部下から、エディトの家族がこっちに向かっていると、

連絡を受け馴染みの店員に金を握らせ、この状況を作ったのだ。

ただし、実際に来るかどうかは分からなかったのと、出会ったとして、

そこからどうなるかは、正直賭けであった。


 そしてエリアとマグヌスと、エディトの家族は、

やはりクズ同士で気が合うのか、仲良く酒を飲みだしたので、

シビルは、賭けに勝ったと思った。

このまま結託してくれれば、状況をより悪化させられる。

それがドラゴス商会のダメージとなってくれれば、彼女としては嬉しいのだ。


 上機嫌で酒を煽るシビル。


「このまま、モブト商会や勇者たちも、結託させることができれば」


そんな事を言いながら、彼女は邪悪な笑みを浮かべ、


「そうだ……」


と何かを思いついたようで、

スキル「通信」付きのマジックアイテムでどこかに連絡を取り始めた。





 リリアナが地元に帰ってから数日、特に動きはなかった。

ただマグヌスは未だに、ファスティリアにいるし、

ベティとニーナの追跡調査では、どうもエリアと更にはエディトの家族と接触、

行動を共にしているらしい。事務所で話を聞いたヴィンセントは、


「奴が、リーゼの元旦那と結託するとはな」


リーゼも、


「何の因果だか……」


そしてエディトも、


「しかも、私の家族とまで……」


ここでべティが、


「マグヌスって奴とリーゼさんの元旦那がどこでつながりを持ったかは、

分かんないけど、エディトさんの家族とは酒場で会ったみたいだよ」


同じく話を聞いていた達也は、


「妙に出来すぎてますよね」


と言うとベティが、


「その酒場はタルインガの連中が出入りしているから、

もしかしら奴らが関わってる可能性はあるよ」


その出会いが、偶然か必然化はともかく繋がりを持ったという事は、


「奴らが、一緒になって襲ってくる可能性があるんですよね、

エリアって人は、今の奥さんと、母親を一緒みたいですから、

エディトさんの家族を含め、合計、八人と言う所ですか」


と達也は言う。


 ただし、前に、エリアが一人で来たように、全員で来るとは限らない。

しかし、油断はできない。特に母親のマルセラは、以前に騒ぎを起こした時の様に、

身を隠して、煙幕を使ったりしたからだ。


「一番気を付けなければいけないのは、元姑のマルセラって人かもしれませんね。

油断したところで、一突きという事もあるでしょう」


と達也は言う。


 そしてヴィンセントは、


「リリアナは、居なくなったし、奴の方とも決着をつけようと思う。

もう準備も整ったしな」


実は達也との手合わせも、その一環だったりする。一方、リーゼも


「私も、エリアと決着をつけます。衛兵が役に立たないなら、

私の手でやるしかない」


マグヌスと違って、エリアは犯罪者だ。どうにかするのは衛兵の仕事であって、

彼女自身が、同行する必要はない。しかし、この街では衛兵は当てにならないので、

彼女の手でどうにかしないといけないようだった。そしてエディトも、


「私も、家族と決着をつけたいです。

あの人たちには、もう二度と私に関わってほしくない」


と決意を固めていた。


 具体的にどうするかはこれから、ただベティとニーナは、

全員の居所を掴んでいる。正確には結託し、行動を共にする事で、

分かるようになったというか、それまでは特にエリアは、

犯罪者であったが故か、居場所をなかなかつかめなかった。


 ともかく、居場所は分かっているので、具体的な計画はこれからだが、

こちらから、打って出ようかと言う話には、なっていたのだが、

ちょうど話をしていた時、次の仕事の準備の為に出かけていたヒミコが、

血相を変えて帰って来た。

達也も気配で、何か異常が起きている事には気づいていた。


「皆さん、大変です。私たちは狙われています」


この日、ヒミコは遠方に買い物に行っていた。

遠方と言っても、歩いて行き来できる距離で、

アラハバキを使うまでもなかったのだが、買い物を終えた帰り、


「お前、ドラゴス商会の人間だな」


と声を掛けられ、襲われたのである。

達也の力の範囲外だったので、彼は気づかなかった。

なお相手は数人の男女だったが、ヒミコは腕が立つので、容易に返り討ちにし、

連中は逃げていったが、その言い方から、商会が狙われていると知り、

大慌てで帰って来たという。


 話を聞いたヴィンセントは、


「まさか、奴らか」


最初は、結託した連中が襲って来たと思った。

ヒミコは、マグヌスもエリアも、エディトの家族も、

話は聞いていても、顔は知らなかったので、何とも言えなかったが


「襲ってきた連中は、全員、若かったですね」


エリーゼやフィクトルは、まだ若いと言えるが、

他の面々は、それなりの歳のはずである。


「他に何か特徴は?」


達也が聞くと、


「そうですね……紙を貰えますか」


とヒミコは似顔絵を描き始めた。


「リーダー格はこんな感じでしたが……」


その場にいた面々は、


「あっ!」


と声を上げ、


「ご存じの方ですか?」


この時、事務所にいたメリッサが


「ラウロよ……」

「えっ?モブト商会の」


ヒミコは、ラウロの事も話は聞いているが、顔は知らない。


「じゃあ、襲ってきたのはモブト商会の連中か」


とヴィンセントは言う。メリッサはもし分けなさそう顔で、


「まさか、私への当てつけじゃ……」


と呟いたが、達也が、


「そうとも限りませんよ。僕も、ラウロって人に

脇固めしちゃいましたからね」


アンナを守るための正当防衛とはいえ、

やられた本人からは、逆恨みされてもおかしくない。しかしメリッサは、


「やはり私が、強く言ったから……」


と気にしているようだった。


 ここでレナが、


「だとしても、タイミング良すぎるんじゃない」


マグヌス達の結託に、モブト商会の襲撃と確かにタイミングが良い。


「やはり、タルインガ商会か」


と達也は言う。先の結託と同様、タルインガが裏にいてもおかしい事ではない。


「連中がたきつけたか、依頼したか……」


と達也は言った後、


「最悪、勇者たちも……」


と言いかけて、ハッとなったように、


「もしかしたら、もう関わっているかも?」

「どういう事だタツヤ?」


とヴィンセントが聞くと、


「いえ勇者たちは、今、自分たちが何かしたら、立場が危うい。

だったら他の人間にやらせるとか?」


ここでおなじく事務所にいて、側で話を聞いていたアンジェラが、


「じゃあ、モブト商会の黒幕はユリアーナ達って事?」

「ええ、そして引き合わせたのは、タルインガかもしれませんけど」


あくまでも、推測、いや妄想に域にすぎず、確証は全くない。


 ここでレナは、


「あり得る話ね」


レベッカは、相変わらず申し訳なさげに、


「すいません私の所為で……」


と言うが、レナは


「気にする必要はないわ。こういうのも商会の仕事だから」


とフォローし、そして達也が、


「とにかく、モブト商会の件含め、今後の事を考えましょう」


と言う事で、ヴィンセント達だけでなく、

商会全体の事になったので、みんなを集めて会議を行った。

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