27「元嫁現る」

 勇者パーティーが居なくなると、レナは崩れるように、床に座り込んだ。


「大丈夫ですか?!」


と身を隠していた達也が出てきて声をかける。


「大丈夫、さすがに勇者相手だと、緊張したというか」


どうやら緊張の糸が切れた様だった。


「かっこよかったよ。レナさん」


と言うアンジェラ。更にメディスも出てきて、


「よく言ったなレナ。お主こそ真の勇者じゃ」


と茶化すよう言ったので、


「茶化さないでください」


と笑いながら言うレナであった。


 この時、達也だけでなく身を隠していた面々は、

姿を見せていて、ここまでの出来事を見ていたというか、

聞いていたヴィンセントは、


「俺も、ルチアナと話を付けないと」


と呟いた。


 その時は直ぐに訪れた。二日後、ルチアナがやって来たのである。

その日は、仕事でヴィンセントは居なくて、またメアリーが応対したが、

事前にヴィンセントは、不在時ルチアナがやって来たら、

約束を取り付けておくように頼んでいて、三日後に約束を取り付けた。


 そして当日、応接室で待つルチアナの前に、 ヴィンセントは座る。


「久しぶりだな」


とルチアナに声をかけるが、どこか冷たい感じである。


「そうね、ところで横にいるお嬢さんは?」

「僕は、同僚です。心配なので立ち会わせてもらいます」


と言った後、


「あと僕は男ですよ」


そう予定通り達也が立ち会っていた。


 ヴィンセントが断る事を心に決めていたから、断ったら、何かしかねない。

なんせ自分が不倫しておいて、ヴィンセントが愛人と一緒に出ていったという

嘘を流す様な女だ。以前に決めておいたようにしていたのである。


「あなた、本当に男なの?」


疑いの目で見られるが、達也は、


「はい……」


とだけ答えた。あと達也だけじゃない、応接室の扉は開けっ放しになっていて、

商会の他の面々も、この様子を見ていた。

達也だけでもまだ不安なところがあるからである。


 リリアナは、達也や他の面々の事に関しては、


「まあいいわ」


と気にしないことにしたようで、ヴィンセントの方をまっすぐ見ると


「ねえヴィンセント、私たちやり直さない?」

「お前とはもう無理だよ」


即答するヴィンセント。


「そんな事言わないで、お願いだから」


と懇願するが、


「あの時、裏切っただけでなく、散々人の事を馬鹿にしておいて、

いまさらに何言ってるんだ」


と冷たく言い放つ。そうリリアナは、浮気がばれた時、悪びれるどころか、

浮気相手であるマグヌスとヴィンセントが器用貧乏である事を、

馬鹿にしたあげく、浮気されるのが悪いと、罵ったのである。


「だって、あの時はどうかしてたのよ。マグヌスとはもう縁を切るから」


だがヴィンセントは、


「そもそも、俺はもう、お前に未練はねえよ」


と言い放つ。


  するとルチアナは、涙目で

  

「せめて商会に戻ってきて、今大変なことになってるのよ」


ヴィンセントが居なくなってから、商会が傾いてしまった事を話し、


「貴方に立て直してほしいの、貴方、最近活躍してるって、

昔は使えなかったアーツも使えるって聞いたわ。その力を貸してほしいのよ」


と嘆願するが、


「それも断るよ」

「どうして……」

「さっきから言ってるだろ、散々人の事を馬鹿にした挙句、

追い出しておいて、悪評まで流して、そんな奴の所に戻れるわけがないだろ」


と冷たい口調を維持したまま言う。


 するとリリアナは、


「貴方、父さんへの恩を忘れたの!貴方の様な器用貧乏を雇って、

可愛がってくれたじゃない」


ここで達也が、


「器用貧乏って、アンタはよりを戻しに来たんですか、

それとも怒らせに来たんですか、どっちです?」


と思わず声を上げてしまう。因みに達也は気配からもリリアナを、

敵として認定している。


「何よ、あんた、同僚だか何だか知らないけど、夫婦の事に割り込んでこないで」


と達也を睨みつける。思わず達也も


「貴女ねぇ」


敵認定しているから、思わず声を荒げようとしたが、


「タツヤ……いいんだ」


と言って、制止させるヴィンセント。


 そして、ルチアナの方を見ると、


「確かに死んだオヤジさんには恩がある。でも十分返してきただろ。

これまで商会を支えてきたぜ。

まあ、お前にとっては、満足じゃなかっただろうがな」


それこそ、他の男と不倫したくらいである。


「それに、俺はこの商会にも恩がある。

俺を雇ってくれ、その上、力まで与えてくれた。

すべてはこのドラゴス商会、いやタツヤのお陰だ」


と言って、側にいた達也の肩を叩いた。


「いえ、大したことは……」


と謙遜するも、


「さっきも言ったが、オヤジさんへの恩は十分返した。

これからは、この商会へ恩を返していくつもりだ。

だから、もうダイフ商会には戻らない」


と言った後、


「さっき未練が無いって言ったよな。俺には、お付き合いしている女性がいる」


するとルチアナは達也の方を見て


「まさか……」

「違いますよ。さっきから男って言ってるでしょ」


と達也が言う。

すると、外から応接室を見ていた面々にリーゼもいて、彼女は部屋に入って行き、


「私です。今、ヴィンセントさんとお付き合いさせてもらっています」

「貴女が……」


リーゼを睨みつけるルチアナ。

そんな彼女に、ヴィンセントが、


「とにかく、お前と復縁するつもりはない。大人しく帰ってくれ」


決して揺るがないような強い声で、まさしく決別を告げるものだった。


 すると、ルチアナは立ち上がり、


「分かったわよ……」


と低い声で言った後、ヴィンセントを睨みつけて、


「後悔しても知らないわよ……」


と意地の悪そうな顔で言う。


「アノ時と一緒だな。浮気がばれて、開き直った時のな。同じ顔してるぜお前」

「うるさい!」


そう怒鳴り散らすと、応接室から出ていき、館からも出ていった。


 ヴィンセントは、その姿を見送ると、


「これで良いんだ……」


そう呟くも、


「ああ、でもリーゼに、いや商会にも迷惑をかけるかも……」


するとリーゼは


「私なら、大丈夫だから……」


覚悟を決めたからこそ、応接室入って来たのである。


「でも、マックスは……」


そのマックスも部屋の外にいて、


「僕も、大丈夫だよ。あんな人に負けるもんか!」


子供ゆえの勝気な声を上げる。


 ここで、達也が、


「大丈夫ですよ。彼女は何もできません」


不敵な笑みを見せながら、そう言った。


「タツヤ、何かしたのか?」

「ええ、ちょっとね……」


ヴィンセントのリリアナへの決別宣言を聞き、これで決着がついたと思い、

後始末として眼術を使ったのである。

なお達也の笑みが怖かったのか、彼が何をしたのか、みんな詳しくは聞けなかった。


 後日、ヴィンセント達が、買い物に出かけた時の事、

馴染みになったアイテムショップの男性店員から、


「ヴィンセントさん、貴方、大変だったんだね。

元奥さんがとんでもない人で……」


と慰めの言葉を貰い、


「えっ?」


と首を傾げるヴィンセントであった。詳しい話を聞くと、リリアナは、

なぜか自分がヴィンセントにした悪行を言いふらしているらしい。


「なんで……?」


店員も、


「さあ僕は酒場で、本人から聞いたんですけど、まあひどく酔っていたとしか」


酔っていた所為かとも思われたが、

最近、馴染みになったタルインガ以外の商会に所属する冒険者からも、

同じことを言われ、聞いた時は、シラフだったというので、


「何やってるんだアイツ」


と思わず言ってしまった。

もちろんそれは、達也の眼術の所為である。

リリアナは暗示で、ヴィンセントやリーゼだけでなく、

商会を貶めるような悪口を言えないだけでなく、言おうとすると、

自分の悪行を口にするようになってしまったのである。


 その後、ニーナがリリアナの動向を探っていたのだが、


「あの人街から出ていったみたいだよ。地元に帰ったんじゃないかな」


とニーナは事務所で、達也やヴィンセントを含めた従業員の前で報告した。

どうやら、リリアナは周りからの白い目に耐えらえなかったらしい。

街を出ていったからって暗示は消えないので、

恐らく地元でも居場所を無くすだろう。


「ただマグヌスって人は、街に残ってるから気を付けた方がいいよ」


ヴィンセントは、


「そっちの方は、俺がケリを付けるから」


と決意を新たにしているようで、

どうやら彼に関わる出来事も大詰めの様だった。


 




 さてこれは買い出しの時の事、

買い物をしているヴィンセントとリーゼを、遠くから隠れてエリアが見ていた。


(クソ……リーゼの奴……)


その場にはメリッサもアンジェラもエディトも居たが、

付き合っているからか、あるいは関係者だから、

彼にはヴィンセントとリーゼが目立って見えた。

更に幸せそうに見えたので、自身の現状の事もあって、

憎しみをたぎらせた。とにかく、元嫁のリーゼが幸せそうなのが、許せないのだ。

だが、それだけではない。ヴィンセントの事も、元嫁と仲良くしているから、

嫉妬の様の物も感じる。浮気した割には、リーゼに未練があるようだった。


 そんな彼に、後ろから声をかけるものが、


「お前、あいつらに恨みがあるのか?」


エリアはハッとなって、短剣を手に振り替える。


「落ち着け、別に、何もしねえよ。俺もアイツに、恨みがあるんだよ」


と言ってヴィンセントを指さす。


「アイツにか」

「ああ……」


と答えた後、


「俺は、マグヌス。お前は?」

「エリアだ」


ここで出会った二人は、クズ同士気が合い。結託するのだった。

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