第12話 人として

次の日、ギルドにて


・「セリス、おはよう。」


・セリス

「ようライオット、おはよう」


あ、いつものセリスさんだ。

周りのギルド員さんが驚いてるけど、どうしたんだろう。

まあ良いや、依頼を受けに行こう。


・「おはようございます、

今日も糸草の依頼を受けに来ました。」


・受付嬢

「あの、ライオットさん。

ギルド長とはどう言った関係です?

とても仲が良い様に見えますが。」


何だろう?

呼び捨てで呼んでるからかな?


・「仲間、、、と言ったところですかね。」


・受付嬢

「そう、、ですか。

近々ギルド長のパーティーが帰ってくるらしいのですが、ハリスさんには気を付けて下さいね。

はい、手続きおわりました。

では、お気を付けて。」


・「ハリスさん?

とりあえず気をつける事にしますね。

ては、行ってきます。」


気になる事を言ってたけど、まあ知らない人だし考えても仕方ないな。

俺は切り替えてセリスさんに手を振りつつ、ギルドを出た。

そして、いつもの群生地へと向かう。


・「さて、テンチュウ倒してもレベル上がらないから採取と加工中心でやるか。」


早速採取を始める。

取れるだけ採ったら裁縫を行う。

それを繰り返す。

3セット程繰り返してひと休み。


・「さて見てみるか。

ステータス」


ステータス 

レベル3 所持金 1156c

筋力 32 +10

知力 31 +30

敏捷性 35


スキル

自動マーカー、マップ、精神自動回復、順応力 


魔法

癒しの波動


技能

剣術レベル8 補正レベル1 筋力 2 敏捷生 2

杖術レベル1

盾術レベル1

体術レベル5 補正レベル1 筋力 2 俊敏性 3


特殊技能 補正値パッシブ

採取レベル12 補正レベル2 筋力 10 知力 10


加工技能 補正値パッシブ

裁縫レベル10 補正レベル2 知力 20


ふむ、採取レベルが上がってないな。

裁縫レベルも3しか上がってない。

一応、補正レベルは2になったか、、、

基本値は筋力と敏捷性が少し上昇ってとこか。

ん〜、そろそろ場所を変えるか。

依頼品だけ適当に集めて帰ろう。


俺は糸草を集めて街に帰る事にした

相変わらず裁縫は上手くいかない。

あれだけやって今回は糸7本だった。

何かコツでもあるのかな?

帰ったらサリーヌさんに聞いてみるか。

ギルドに帰りいつものやりとりをする。


・受付嬢

「糸草が30束、糸が7本ですね。

60と、28で、88cですね。

では、奥で納品お願いします」


工房に向かう、サリーヌさん居るかな。


・「こんにちは、

すみません、サリーヌさんいらっしゃいます?」


・工房受付嬢

「はい、居ますよ。

お呼びいたしますので少々お待ち下さい。」


すると奥からサリーヌさんがやって来た。


・サリーヌ

「あら、ライオットちゃんじゃないの。

アタシに何か様?デートのお誘いかしら?」


う、いつにも増して露出度が高いな。

更にムッキムキの体にエプロン姿

その格好でクネクネしてるのはちょっとキツイ。

でも、不思議と嫌いにはなれないんだよな。


・「えっとですね、糸草の加工なんですけど、

中々上手くいかなくて。

何かコツでもあるのかな?っと思いまして。

もし良かったら教えて頂けませんか?」


・サリーヌ

「あら、そんな事ならお任せあれよ。

じゃあ奥にいらっしゃい。」


サリーヌさんの後を付いていく。


・サリーヌ

「じゃあ一度、貴方の加工を見せ貰えるかしら。

上達具合を見たいわ。」


俺はサリーヌさんが出してくれた糸草の前に座る


・「イメージ、

完成品、加工過程、魔力の形状、

糸草へ当てて、細く切るイメージ」


サリーヌは驚きを隠せない。

つい昨日教えたばかりのはずなのに、ここまで上達しているとは思って無かった。

イメージ力、そこはあまり問題ではない。

誰でも出来る事だ。

だから数をこなせば完成品も出来る。

しかし1番の問題は魔力の形状と動かし方。

何年もかけないと思い通りには動かないはず。

だからこそ職人と呼ばれる者達がいる。

安定して品物を作り出す者達だ。

昨日見た時は魔力の質は悪く、形状変化も不安定だったが魔力の放出は上手くできていた。

だからこそ、職人達が弟子に欲しいと思ったのだ。

魔力の放出だけでも相当な努力が居る。

それなのにライオットという冒険者は易々とこなしたのだ。

そして今、形状変化も魔力の質も申し分ない。


・サリーヌ

「この子、一体なんなの?」


サリーヌは戦慄を覚えた。


ドゴッ!


・「ああ、失敗しちゃった。

やっぱり上手く作れないや。

裁縫って難しいですね。」


サリーヌの方を見ると凄い剣幕で俺を見ている。

やべぇ、怒らせたか?

凄い怖いぞ、とりあえず謝っておこう。

マジで怖いぞ。


・「さ、サリーヌさん。

俺、何かしてしまいましたか?

もしも、サリーヌさんの気分を害してしまったのなら申し訳ありません。」


・サリーヌ

はっ!あ、いや、大丈夫よ。

こちらこそごめんなさい、ついついボーッとしちゃってたわ。

ひとつ聞いて良い?

貴方は何者?」


どう言う意味だ?

何て答えれば良いのだろう?


・「ら、ライオットと言う低レベルの冒険者です

あと、世間知らずで少しずつ勉強中です。」


俺は出来るだけ詳細に答えようとしたが、伝えられる内容が薄い事に、ちょっと泣きたくなった。


・サリーヌ

「ふふ、フフフ、ハーッハッハッ!

面白え、お前最高だわ。ハーッハッハッ!」


笑っているサリーヌさん。

ちょっとオッサン出てますよ?


・サリーヌ

「ふぅー笑ったわ。

貴方は凄いのね、良いわアタシが教えてあげる

本当は自分の弟子にしか見せない、教えない事。

貴方なら上手に使えるかもしれないわ。」


・「ありがとうございます。」


サリーヌさんが糸草を取り出す。


・サリーヌ

「良い?よく見ているのよ。

仕事があるから1度だけ見せるわ。

見えやすい様にいつも隠している工程も隠さずにやってあげる。

それで感じ取りなさい。

手取り足取り教えても良いけど、貴方の可能性を見てみたいわ。」


やはり何かしらのコツがあったんだな。

職人と呼ばれる秘密、弟子にしか教えない事。

重要な事だ、目を凝らせ、違和感を感じろ。


・サリーヌ

「細かい説明はしない。

貴方なりに解釈しなさい。

行くわよ。」


サリーヌさんの魔力が高まる。

俺の作業と比べるんだ、イメージ、加工過程、魔力の形状、、、む?何だ?違和感を感じる。

形状は刃の様にしてある、一緒だ。

だが何かが違う。

何だ?よく見ろ、いや、感じろ、深く、深く。


サリーヌはゆっくりと、

そして繊細に加工を行なってくれた。


魔力の形状だけじゃない、何かが違う。

何だ?魔力の感じ方が違う。

魔力が刃を覆っているみたいだ、

でも普通の魔力ではないな。

あの感覚を覚えるんだ。


そして加工が終わる。


・サリーヌ

「さあ、どうだった?

感想を聞かせて。」


・「はい、加工過程は同じでした。

違和感を感じたのは魔力の形状を変化させた時、

魔力の刃を覆っている魔力、普通の魔力の感じではありませんでした。

質そのものを変化させている様に思いました。」


・サリーヌ

「素晴らしいわ。

貴方、本当に何者なの?

いい?加工にはそれぞれコツがある。

魔力の形状と言ってもひとつじゃないわ。

ならば質もひとつとは限らない。

どうすれば良いかわかる?」


整理しろ、魔力の質とは何か。

そもそも魔力の形がひとつならばネネさんやリーシュさんの回復魔法とセリスさんの氷魔法、分類されないはずだ、、、つまり属性の事か。

属性をイメージして魔力を変化させる事ができれば、加工も出来るという事か。

形状はそのままの意味だ。

ならば質とは?属性とは?斬りやすくするには?


・「わかった気がします。」


・サリーヌ

「なら、もう一度やってみて。

アタシの魔力をよく思い出すのよ?」


俺はもう一度出された糸草の前に座る。

深く深呼吸をして目を瞑る。

完成品、加工過程、魔力の形状ここまではいつも通り、ここから魔力の質を変える。

切りやすくする属性、風だ。

魔力の刃の周りに風を纏わせる。

素早く振動させる。

薄く、早く、振動

薄く、早く、振動

薄く、早く、振動、

、、、、そして固定!

魔力の風の刃を作り出す。

糸草に這わせる様に魔力を動かす。

凄い切れ味だ、いつもと段違い。

そして、


スパーン!


いつもと違う完成品の出来る音。


・風魔法を取得しました。


アナウンスが聞こえる。


・サリーヌ

「凄いクオリティの糸ね。

貴方は恐ろしい才能を持ってるわ。

1度見ただけで魔力変換も出来てしまうのね。

つまり、貴方は風属性持ちなのね。」


魔力変換?知らない単語だ。

だが意味合いは解る。


・「わかった気がします。

職人と呼ばれる要因も、素人との違いも。

そして、職人の皆さんの凄さも。

魔力のスペシャリストなんですね。」


・サリーヌ

「えぇ、私たち職人は魔力を扱う達人集団。

それを隠すため、加工過程の属性を隠すの。

見えない様に、真似されない様に。

まあ、普通は見られても出来ないんだけどね。」


サリーヌさんが苦笑いをしている。

俺は考える、、、そして行動に移す。


・「俺は職人さん達を尊敬しています。

属性を隠すやり方を教えて下さい。

皆さんの努力を俺にも守らせてください。」


サリーヌさんに土下座をして頼み込む。

属性の隠蔽が出来なけば属性加工をやめよう。

そう思いながら土下座する。


・サリーヌ

「貴方は不思議な人ね。

アタシ達、職人を守ろうなんて人居ないわ。

ただの道具なのよ。

必要な物を作る道具。

貴方はその秘密を見つけた。

好きに使って良いのよ?」


・「違います。

職人と呼ばれる方達がいるからこそ生活が成り立つのだと俺は思います。

だからこそ、

蔑ろにしてはいけない。

尊敬の念を忘れてはいけない。

感謝を忘れてはいけない。

俺は、そう思っています。

職人さん達の努力を、技を軽く見てはいけないんです。

だからこそ、守りたいんです。 

お願いします。

属性の隠蔽を教えて下さい。」


もう一度、深く頭を下げる。

職人の真髄を得る事ができるなら、頭を下げる事など容易い事。

今の俺に出来る事はこれしかない。


・「お願いします。」


暫く沈黙が続く。

そしてサリーヌさんが声を掛ける。


・サリーヌ

「頭を上げて、ライオット。

貴方の気持ちはわかりました。

加工の全てを教えるわ。

皆んなもそれで良いでしょう?」


頭を上げると、いつの間にか集まって来ていた職人さん達がいた。

中には涙を流している人も居る。


・サリーヌ

「ライオット、ありがとう。

職人として、これ程嬉しい事は無いわ。

貴方の言葉、深く受け止めました。

アタシも人への感謝を忘れていたかもしれない。

隠蔽の方法は難しいわよ。

ビシビシおしえるから、覚悟しておきなさい。」


笑顔のあふれる工房で、俺は職人の真髄を得る事となる。

この日を境に、

いつもの作業と割り切ってやっていた職人達は、自分の技に自信を持って作業する様になる。

この日、ギルド工房から出荷された全ての品物がいつもとは比べ物にならない品質となっていた。

これは先の話だが、

素晴らしいクオリティの品が送られて来ると商人の間で評判を呼び、オルドラギルド工房は大きなブランドとして有名となる。

全ては職人を理解し、尊敬し、感謝を忘れないと言った、ライオットの一言から始まった。

人の心を動かすのは人であり、

心の在り方次第で大きな成果を上げる。

感謝の念を忘れた時、それは結果として現れる。

負の副産物として。


人を尊敬し、尊重する事。

当たり前で難しい事、

忘れてはいけない忘れやすいもの。

ライオットはそれを職人達に示したのだ。

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