第26話 ライルの決断

裕樹に助けられたライルだったが、彼も相当なダメージを受けている。

そのお陰で動けずにいた。


・???

「ライル団長、今助けます。」


懐かしい声がする。


・ライル

「ハナ?」


そうだ、裕樹にはハナが付いていた。

ハナの治療魔法のお陰で動けるようになった。


・ライル

「色々話が聞きたいがそれは後だ。

早く騎士団の元に戻らないと、、、」


しかしハナは知っている。

これ以上魔物が襲ってこない事を。


・ハナ

「大丈夫です。

大半の魔物は裕樹が倒しました。

残りの魔物も騎士団により退治されるでしょう。

我々の勝利です。」


ライルは裕樹を見る。

裕樹は意識を失いその場に倒れていた。


・ディアボロス

「ぅ、、、、」


魔族は生きていた様だ。

ライルはフラフラになりながらも剣を取る。


・ライル

「ハナはここに居ろ。」


ライルは魔族の元までやって来る。


・ライル


「凄まじい強さだった、、、

勝負は完全に俺の負けだ。

だが、この戦いは俺達の勝ちだ。」


剣を構えるライル。

後はその剣を振り下ろすだけだ。


・ディアボロス

「どうした?私はもう動けん。

お前たちが勝ったんだ。

好きにすればいい。」


こいつは騎士を殺した。

そして王国を襲ってきた。

殺すべき対象だ。

なのに、、、、


・ライル

「何故、泣いている?」


魔族の涙に気付いてしまったライル。

気付く前に剣を振り下ろすべきだった。


・ディアボロス

「我が主は居なくなった。

正直、生きているのが辛かった。

私は死に場所を探していたんだと思う。

そして、やっと死ねる。」


この話は聞いてはいけない。

迷わずに殺すべきだ。


・ライル

「貴様がやった事は許されぬ事だ。」


自分に言い聞かせるライル。


・ディアボロス

「解っている、お前は強かった。

お前なら私も納得できそうだ。」


目を瞑るディアボロス。

俺が強かっただと?

俺に勝って置いて何を言う。


・ライル

「くそ、、、、」


ライルは大きく振りかぶる。


・ディアボロス

「グランツァー様。

これで、、、自由に。」


ザン


ライルは剣を振り下ろした。

その剣は地面に刺さる。

魔族の顔の横の地面に、、、


・ライル

「辞めだ、戦争は終わった。

お前には全てを吐いてもらう。

悪いがまだ死なせねぇ。」


・ディアボロス

「晒しものにするというのか?

殺せ!私を殺してくれ!」


・ライル

「うるせぇな、駄目だと言ったら駄目だ。

俺がお前に勝つまで生きて貰う。

それがお前の罰だ。

お前が殺した騎士の穴埋めはお前がやれ。」


ライルには殺せなかった。

何故かは解らない。

ただ、、、、

彼女の流した涙があまりにも悲しかったから。

殺す事が出来なかった。


・ライル

「すまねぇな、、、こんな団長で。」


亡くなった騎士に謝るライル。

しかしその声はもう届くことは無い。

ライルはハナにディアボロスの治療を命じる。

ハナはその命令に従った。


・???

「君の気持ちは決まったかい?」


不意に聞こえた謎の声。

全てを見透かされてるような嫌な感覚。


・ライル

「何者だ!」


振り返るとそこには一人の少年が居た。


・ハナ

「あ、、、あなたは。」


・グラン

「あの距離を走破してエバを倒すなんて。

流石は勇者って所かな?」


口振りからして少年はこの女魔族を知っている。


・ライル

「貴様は何者だ?」


ライルは地面に刺さった剣を再び手に取る。

そして少年に向けた。

この少年、、、油断できる相手ではない。

ライルは直感的にそう感じた。


・グラン

「僕の名はグラン。

そうだな、君の危険を勇者に知らせた者。

そう言えば仲間と思ってもらえるかな?」


ライルはハナを見る。

ハナもこの少年を知っていた。

ならばこの証言は嘘とは言い切れないか?


・ハナ

「貴方のおかげで団長を救えました。

ありがとうございました。」


ハナが少年に頭を下げている。

どうやら本当のようだな。

ライルは剣をしまった。


・グラン

「どうやら解って貰えたようだね。

それで、この女性はこの後どうなるかな?」


・ライル

「あ?決まっている。

まずは今回の企みを全て吐かせる。

その後は、、、、」


何も決めていない。それもその筈、ライル自身もさっきまで死にかけていたのだから。


・グラン

「治療してくれるのはありがたいけどさ。

もしも元気になって襲ってきたらどうする?

君では勝てないよ?」


いちいち癇に障る奴だ。

だがこいつの言う通りだろう。


・ライル

「お前の言う事が正しいだろうな。

だが、、、あれだ。

殺す気が失せた。

後の事は何も考えてねぇ。

逆らうのならばもう一度倒すまでだ。

なに、次は負けねぇさ。」


完全に強がりである。

この時、ライルは考える事に疲れていた。


・ライル

「戦争は終わった、話す事を話してくれればそいつに用はねえ。どこかに行くなり好きにすればいい。」


・ディアボロス

「後悔するぞ、、、。」


ディアボロスは大人しくハナの治療を受けている。

ディアボロスも考える事に疲れた。

どうやらここでも死ねないらしい。


・グラン

「それじゃあ僕の話を聞いてくれるかな?

その魔族、君の傍において欲しい。

この先、この王国はまた狙われるだろう。

この子が居てくれると僕が安心できる。

どうかな?」


とんでもない提案をしてきた。

魔族を王国に入れるだと?無理だろう?


・ライル

「本気で言ってるのか?」


・グラン

「もちろん本気だよ。

この子もきっと力になってくれるからさ。」


まるで女魔族の性格を知っている様に話す。

この少年は一体何者だ?


・ディアボロス

「勝手に話を進めるな。」


ディアボロスは立ち上がれるまで回復した。

ハナの治療魔法はかなり上達している様だ。


・ディアボロス

「治療をしてくれた事には礼を言う。

しかし私は貴様らの敵だ。

たしかに貴公は強かった。

だが私が従う理由にはならない。

悪いが断らせてもらう。」


当然の話である。


・ディアボロス

「だが今回の計画については話そう。

私は敗北者だ。

その事に関しては貴公に従う。」


話の分かる魔族ではあるらしい。


・ライル

「そうか、そりゃありがたい。

正直、俺も疲れちまった。

さっさと終わらせて休みたいんだ。」


その場に座るライル。

どうやらここで事情聴取をする気だ。


・グラン

「似たもの同士だな。」


グランの一言に二人は同時に反発。

シンクロした行動にハナが笑ってしまう。


・ハナ

「全く同じタイミング、、、」


顔を合わせるライルとディアボロス。

恥ずかしそうにライルが話し出す。


・ライル

「うるせぇな。

とりあえず事情聴取だ。

それが済んだら好きにしな。」


・ディアボロス

「む、、、、良いだろう。

何が聞きたい?」


大人しく応じる魔族。

その様子に安堵するライル。


・ライル

「んじゃ、、、今回の戦争だが、、

っと、その前に少年。

何か話したかったって言ってたな。

手短に話しな。」


・グラン

「へぇ、なかなか話の分かるお兄さんだね。

んじゃ遠慮なく。

ベルガルは負けて人間側に着いた。

エバはどうする?」


・ディアボロス

「何故、私の事をエバと呼ぶ?」


・グラン

「まだ解らないかい?」


グランと呼ばれる少年から魔力が放たれる。

信じられない程の深い魔力。


・ライル

「お前、、、、何者だ?」


・ディアボロス

「な、、、、、うそ、、、だろう?」


ディアボロスは目を見開いた。


・グラン

「自己紹介しよう、元魔王グランツァーだ。

今はグランと名乗っているがね。

久しぶりだね、エバ。」


魔王と名乗った少年。

彼の魔力はその事実を肯定する。

まるで異質の魔力だった。


・ライル

「魔王、、、だと。」


・グラン

「あ、勘違いしないでね。

僕は君達の味方だから。

ほら、この情報を持ってきたのも僕だし。」


ライルは考える。


・ライル

「つまり、今回の情報源はお前という事か?

ライオットとか言う冒険者ではなく。」


・グラン

「そう言う事。

彼の名は僕が勝手に使っただけ。

その方が話が早く進むと思ってさ。

だから彼を責めないでね。

彼は今、遠くで戦ってるから。」


何が何だかわからない。

ただ一つ言える事。

魔王と名乗る少年のお陰で勝てた。

その事実だけで十分だろう。


・ライル

「だぁ~、もう疲れた。

考えるのは辞めだ。

この作戦はあんたが考えたんだよな?

だったらお前に任せた。

戦争の真意を聞き出して報告してくれ。

もうそれで良い。

おい、女魔族。

お前が探してたのはこいつだろう?

聞こえたぞ、グランツァーって名がよ。

やっと出会えたんだ。

後はお前の好きにしろよ。」


やけくそだ。

ライルは裕樹を背負う。

面倒事はコリゴリだ。


・ディアボロス

「でも、私は魔族よ。

このまま逃げるかもしれないわ。」


・ライル

「好きにしろって言っただろう?

逃げたきゃ行けよ。

俺は戦争には勝ったが勝負には負けたんだ。

敗者に決定権はねぇ。

好きな男が見付かったんだろう?

だったら二度と離すんじゃねえぞ。」


そう言い放ちライルはその場を離れた。

ハナもそれに付いて行く。

この場にはグランとディアボロスが残された。


・グラン

「何とも不器用な男だね。」


・ディアボロス

「そうですね。」


・グラン

「で、、、君はこれからどうする?」


ディアボロスは考える。


・ディアボロス

「ベルガルが人間側についたとは?

彼も魔王様との盟約があった筈。」


・グラン

「ニュートって冒険者に負けてね。

その後、死にかけてた所を助けてもらった。

ベルガルはその少女に従う事を決めたらしい。

僕との盟約を破棄してその子の盾となったよ。」


・ディアボロス

「そうでしたか、ベルガルが負けたか。

信じられない事ですが事実なのですね。」


ディアボロスは考える。


・グラン

「あの時、急に居なくなって悪かった。

どうしてもやらなきゃいけない事が出来てね。

だがこうして逢えるとは思わなかったよ。

久しぶりに逢えて嬉しい。」


グランはディアボロスに語りかける。


・ディアボロス

「私は、、、」


・グラン

「大丈夫だ、解ってる。

『グランの名の元に汝との盟約を破棄する』

これで君は自由だ。

好きに生きれば良い。

彼の元に行く気だろう?エバ。」


ディアボロスはずっと魔王に付き従っていた。

しかし魔王はあの日、忽然と姿を消した。

ずっと探し続け、疲れ果て、諦めた。

何も考え無いようにして今まで生きてきた。


そして今日、魔王に出会う事が出来た。

このまま魔王に付いていく事も出来る。


探し続けた人が目の前に居るのだ。

しかし彼女は魔王を選ばなかった。

盟約が破棄となったから。


今まで彼女にとってそれは死よりも重い物。

その契約が無くなった。

彼女は本当の意味で自由となったのだ。


・グラン

「決まったみたいだね。」


・ディアボロス

「はい。」


元魔王四天王 ディアボロス・エバーナ


彼女は時代の流れで四天王となった。

元々四天王だった彼女の父。

その父親を凌駕する実力を買われて世代交代。

ディアボロス家を護るために四天王となった。


別に嫌だったわけではない。

寧ろ誇りに感じていた。

ただ、そこに自由は無かった。

その時代は常に争いが絶えず。

誰もが戦いに明け暮れた。

自由を欲した彼女も戦うしかなかった。


今、彼女は本物の自由を手に入れた。

そして彼女は決断する。

初めて自分の意志で、、、

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