第27話 平和な一時

王国襲撃はオルドラ王国の勝利で終わった。

無数の魔物に襲撃されたオルドラ王国。

事前情報のお陰で被害は少ない。


しかしゼロではない。


多くの兵士、冒険者が犠牲となった。

これからが大変である。


襲撃終了後ライルはバルドロストの元に行く。


・ライル

「終わったみたいだな。」


・バルドロスト

「後は残党狩りだ。

魔物は一匹たりとも見逃さぬ。

今回は尚の事な。」


抜かりはない。

この男に任せれば大丈夫だろう。


・ライル

「悪いが後は任せる。

とりあえず休ませてくれ。」


ライルは気を失ったようだ。

ここまでギリギリ保ってきたのだろう。


・バルドロスト

「して、君は?」


・ハナ

「元王国特殊医療部隊所属・ハナです。

現在は冒険者として旅をしています。

旅先で王国の危機を聞き相棒と参上しました。」


ビシッと立って報告する。

その姿はまさに兵士そのものだ。


・バルドロスト

「そうか、詳しく聞きたいがやる事が多くてな。

悪いがライル団長を任せる。

君の相棒とやらと一緒に休ませてくれ。」


バルドロストは裕樹の正体を知っている。

しかしあえて勇者とは言わなかった。

お堅い人物と思われがちな総司令官。

しかし彼はそれなりに空気が読めるのだ。


勇者はこの国を守った。

その事実だけで十分だと感じたのだ。


・バルドロスト

「若いもんは自由で良いな。

尻ぬぐい位はやってやる。

それだけの働きはしたのだ。

今はゆっくり休め。」


彼はとても優しい男なのだ。



~数日後~


・「うぅぅ、、、」


俺は城の一室で目を覚ます。

久しぶりの感覚だ。

魔力枯渇による意識喪失。

始めて魔法を使った時以来か?


・「あぁ~、気持ち悪い。」


出来ればこの感覚は味わいたくなかった。


・「今日は立てそうにないな。

大人しく寝ておくか。」


体が言う事を聞かない。

魔力を絞り切ったから仕方が無いか。


・「さて、どうしたもんかな。」


意識は取り戻したが動けない。

水が飲みたいのだが、、、


暫く水を取る為にもがいてみた。

しかし無駄だと悟って我慢する事にした。


・「ここまで疲弊するのは初めてかも。」


これほど動けなくなるとは思わなかった。

仕方ないのであの戦いを振り返る。



~襲撃当日・裕樹視点~


俺は王国に向けて走っていた。

そして遂に追いついた。


・ハナ

「魔物の群れよ!」


無数の魔物が王国を目指していた。


・「手あたり次第に倒す。

ハナ、力を貸してくれ。」


俺はハナを抱えたまま走る。

そしてハナを上空に投げる。


・「無属性攻撃『剣閃』」


両手の空いた俺は剣気を放つ。

この攻撃が無属性の魔法だと気付いてから威力が格段に上がった。恐らくイメージしやすくなったのだろう。


・ハナ

「魔弾・剛」


ハナは空中で魔弾を撃ちまくる。

無属性魔法は燃費が良い。

そして自由落下で落ちて来るハナ。


・ハナ

「信じてるからね」


徐々に近づく地面。

それでもハナは裕樹を信じる。


・「よっと。」


裕樹は空中でハナを抱き抱えた。

そしてそのまま再び空中へ投げる。


・ハナ

「上からだと狙いやすい。

魔弾・剛!」


ハナを空中に投げて離れた敵を任せる。

自分は剣気を飛ばして近場の敵を殲滅。

裕樹がとっさに考え付いた戦術だった。


そのまま進み続ける裕樹。

そんな戦いの中、異常な魔力を感知する。


・魔族

「なんとも奇妙な戦い方をする人間ですね。」


何だこいつ?


・魔族

「私の名は、カンバ、、、」


・「悪い、急いでる。」


魔族の名乗りを途中で遮る。

と言うか斬り裂いた。

一瞬にして魔族を葬り去ったのだ。

全開の『魔闘衣』を常に纏って走って来た裕樹。

彼は既に限界を超えていた。


限界を超えた『ゾーン』と呼ばれる領域がある。

裕樹は知らない内にその領域へと足を踏み入れた。


・ハナ

「何か言ってなかった?」


ハナを何度も空へと投げていた裕樹。

現在の状況を聞く為に今は抱き抱えている。


・「気にしなくて良いだろ。

それより気付いたか?」


・ハナ

「えぇ、凄い魔力だった。」


間違いない、あそこにライルが居る。

そして強力な敵も。


・「目的地はそこだ。

向かう途中の魔物は通過点として捌く。」


再び空に投げられるハナ。

ハナは裕樹の戦術を受け入れて奮闘する。


・ハナ

「出来るだけ倒さなきゃ。

魔弾・剛。」


一撃必殺の魔弾を無数に放つ。

無属性魔法を覚えてからずっと努力してきた。

今ではハナも立派な戦力なのだ。


・「スピードを上げるぞ。」


裕樹自身が理解している。

今は何故か疲労を感じない。

しかし、もうすぐ動けなくなるだろう。

何故か解るんだ。


・「時間が無い、、、、」


裕樹は凄まじい魔力に向かって進んで行く。

激し光、そして爆発。

目視で捉えるにはまだ遠い。


・ハナ

「魔弾・剛」


ハナの魔法が敵を葬る。


・「どけぇぇぇぇ!」


裕樹の剣気も無数に飛び交う。

そして遂に、、、


・「もうすぐだ。」


裕樹はハナをキャッチして地に降ろす。

見えた!


ライルが倒れている。

何者かがトドメを刺そうとしている。


・「間に合えぇぇぇ」


裕樹は更に魔力を絞りだす。

『魔闘衣』の魔力を上げる。


・「もっと速く、もっと!」


体が悲鳴を上げた。

『ゾーン』が解けたのだ。

それでも魔力を絞りだす裕樹。

すると体に異変が起きる。

肩が、腕が、脚が、筋肉が。

悲鳴を上げちぎれ始める。


・「がぁぁぁぁぁ」


裕樹は思わず声を上げる。

その時、魔族の剣が動いた。


・「届けぇぇぇぇ!」


裕樹の体が発光する。

『魔闘衣』の魔力が変化した。

無意識で行った行為。

光属性の魔力を使い始めたのだ。


裕樹は光る弾丸となり飛んだ。

まさに閃光。

裕樹の攻撃が遂に届いた。

魔族を一撃で貫いて見せたのだ。



~現在・城の一室~


・「間に合った、、、筈だよな?」


それからの記憶は曖昧だ。

すぐに気を失った気がする。

何かライルに言ったような覚えもある。


・「無事だと信じたい、、、」


今はそれしか出来ない。

モヤモヤする気持ちを抱える裕樹。

そんな時、やっと誰かが入って来た。


・ハナ

「あ、起きたんだね。

心配したんだよ?」


体は動かないが傷も痛みもない。

ハナが治してくれたのか?


・ハナ

「傷は癒せても魔力は無理だから。

もう暫くゆっくりしててね。

お水、飲む?」


流石ハナ、俺の願いを解ってくれてる。

俺は頷きやっと水にありつけた。


あぁ、、、、しみわたる。


・「助かったよ、動けなくてさ。

水が取れない時はどうしようかと思った。」


マジで助かった、、、。


・ハナ

「裕樹が倒れて今日で3日目よ。

無理しないようにね。

少し待ってて。」


そう言ってハナは出て行った。


俺は3日も寝ていたのか、、、

考えられん。


3日か、、、、

3日?ちょっとまて。

3日も寝てたって事は。


・ハナ

「それじゃ始めるけど。

ビックリしないでね。」


ハナは大きな桶と布を持ってきた。

徐に布団をめくるハナ。

俺は凄い薄着だった。


・「ちょ、ハナさん。

一体何を、、、」


・ハナ

「何って、体を拭きゃなきゃダメでしょ?

それにずっと同じ格好で寝てると体が傷つくの。

知ってる?同じ体制はダメなんだよ。

これは看護の基本なんだから。」


そう言って濡れた布で体を拭いてくれるハナ。

嬉しいのだが、、、すっごい恥ずかしい。


・「じ、、、自分でやるよ。」


ついついそう言ってしまう。


・ハナ

「はいはい、無理な事は言わないの。」


ハナは手慣れた様子で俺を拭いてくれる。

恥ずかしがる俺。


そんな俺の姿を見たハナ。

彼女の悪戯心に火が付いた。


・ハナ

「初めは凄いおっきくてビックリしちゃった。

でも、今は随分慣れちゃって、、、」


そう言ってハナは俺の下腹部に手を、、、


・「ちょい待って、ちょい待ってって!

ハナさん!ハナさぁ~ん!」


恥ずかしくて死にそうだ。

そこは自分でやるから!

そんな時だった、


・ライル

「ダメだ!我慢できん!」


爆笑しながらライルが入って来た。


・ハナ

「団長!笑っちゃダメですよ!」


ハナがライルに怒る。


・ライル

「またまた~、ハナも途中から楽しんでたろ?初めはあんなに反対してたのに後半は完全に俺の言った通りの行動してたよな?」


貴様かライル!


・ライル

「よう裕樹、元気か?

お?息子は元気そうだな。

かっかっか、何よりだ。」


真っ赤な顔になるハナ。

いや、ハナも遊んでたろ?


元気になったら真っ先にライルを殺そう。

俺はそう誓ったのだった。



~次の日~


俺は動けるようになった。

魔力の回復はこれでも早い方だ。


・ライル

「あの時は助かった、、、。

本当に感謝してる、、、。」


目の前にはボロボロになったライルが居る。

はい、俺がやりました。


・ハナ

「回復魔法、、、要ります?」


ハナが心配そうに見つめている。


・ライル

「お願いします。

その、調子に乗ってすみませんでした。」


何故か敬語のライル。

本当に無事でよかった。

あの時、魔族に殺されそうだったもんな。


・「なあライル。」


・ライル

「なんだ?」


どうしても聞きたい事がある。


・「何でお前を殺そうとしてた魔族が居るの?」


そう、あの時の魔族が目の前に居る。

どういう事?


・エバ

「やはりお前には解るか。

ディアボロス・エバーナだ。

エバと呼んでくれ。

お前の事はライルから聞いた。

勇者なんだってな。」


めちゃめちゃ美人なお姉さんが名乗る。

見た目は完全に人間だけど、、、

俺には解る、あの時の魔族だよね?


・「ライルお前、魅了されてる?

殴り足りなかった?

もっと殴って魅了解いてあげようか?」


俺は笑顔でライルに話しかける。


・ライル

「辞めろ、俺は正気だ。

色々あって彼女は俺の副官とした。」


ほほう、、、副官ね。


・「美人だもんね。」


・ライル

「ああ、綺麗だ。」


誘導尋問に弱いライル。

大丈夫か?


・「んで、信用していいのか?」


・エバ

「お前の言いたい事は解る。

だがこれは私が選んだ道だ。

私はライルの剣となる。

誰にも何も言わせない。」


かなり意志が固そうだ。

どうやって落としたんだろう?

ちょっとうらやまし、、、


・ハナ

「裕樹、、、」


ハナの殺気で思考を止める。


・「ライルが良いならそれで良いや。

よろしく、エバさん」


何かどうでもいいや。

ライルも無事だったし。


・エバ

「お前達に話す事がある。

ライルも聞いてほしい。

もうすぐ戦争が始まるぞ。」


戦争が始まる?

どういう事だ?


・ライル

「俺も聞いた時はビビった。

だから心して聞いてほしい。」


ライルの真剣な表情。

ただ事ではなさそうだ。


エバは自分の知っている全てを話し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る