第24話 オルドラ王国防衛戦

~ハミラ高原~


ここは国土門の北に位置する高原。

ゴブリン・オーク・ワームと言う魔物が多く生息している地域でもある。


・ハナ

「頑張って裕樹。」


・「はぁはぁ」


かなり疲弊しているが速度は落ちていない。

凄まじいスピードで駆け抜ける。


・「魔物が、、、いないな。」


息を切らしつつハナに問いかける。


・ハナ

「普通ならゴブリンやオークがいる筈なの。

何かおかしいよ。」


異変に気付いた裕樹は更に早く走る。


・「くそ、、、間に合え。」


既に日は沈み辺りは暗闇に包まれていた。



~『国土門』左翼~


・サリス

「何ですって?」


サリスは驚いていた。

魔物が姿を現す前、人間が魔物に変化したと言う報告が入ったからだ。

しかし驚いている暇はない。

直ぐに思考を切り替える。

各ギルド長と目が合う。


・サリス

「魔物が人間に化けている可能性がある。

この周辺は数日前から封鎖されています。

兵士、ギルド以外の人間は居ない。

魔物が変化しているのは明らかです。

迷わず魔法を放ちなさい。」


非情とも取れる指示。

しかし迷っていればこちらが死ぬ。

一瞬の迷いも許されない。


・サリーヌ

「胸糞悪い戦術で来やがって。

もう許さねぇ。」


いつもはおねぇキャラのサリーヌ。

怒りで本性が出始めた。


・ハリス

「そろそろ俺達も出る。」


聖剣を抜きサリスに許可を願う。


・サリス

「お願いします。」


ミミ、サリス、ドンク、サリーヌが駆け出す。

遠距離魔法で撃ち漏らした魔物を倒すのだ。

冒険者軍と魔物の戦いは中盤を迎える。



~『国土門』右翼~


・ライル

「たとえ人間の姿だろうが関係ねぇ。

ここは戦場だ、たたっ斬れ。」


鬼神の如く斬り伏せる。

何体も何体も斬り裂く。

人の姿のまま息絶えた者。

魔物に変化する途中で斬られた物。

完全に魔物になって討ち取られた物。

騎士団の進む道には多くの屍がある。


・ライル

「全てだ、全て斬り伏せろ。

一匹も逃すんじゃねぇぞ。」


横に大きく展開しながら進んで行く。

王国騎士団は一人一人が強い。

2人一組での連携で斬りかかる。

誰一人掛ける事無く魔物を斬り伏せていく。


・ライル

「よし、半数は一旦引け。

うち漏らしが無いか調べてこい。

残りはここで迎え撃て。」


うち漏らすわけにはいかない。

人間の姿をしているのだ。

万が一、王国に入られると不味い。


・ライル

「いいか、ここから一歩も引くな。」


騎士団の士気が上がる。

魔物の群れが押し寄せても跳ね返す。

王国騎士団の強さが光っていた。



~『国土門』中央~


・バルドロスト

「魔法部隊、弓矢部隊、放てぇ~」


こちらも敵の姿など気にしない。

戦場に現れる者は全て敵である。

兵士として戦場に立つ者として。

向かってくるものは全てなぎ倒すのみ。


・バルドロスト

「第2陣用意、、、、放てぇ~」


5段構えでのローテーション。

敵に隙を全く与えない。

敵を撃つと言うより範囲を攻撃している。

鼠一匹通すつもりはない。

例え姿を隠していようが関係ない様に周辺を焼き尽くす、そんな攻撃を続けていた。


・バルドロスト

「日々の訓練は今この時の為だ。

魔力が枯渇するまで撃ち続けろ!」


熱気と爆音。

中央の防衛は続いていた。



~『国土門』左翼~


ギルド員達の遠距離魔法でかなりの敵を倒す事に成功した。

左翼に展開された魔物は約500

半数以上は遠距離魔法の餌食だ。

残りは近距離戦での殲滅戦となる。

冒険者たちは近接戦闘に移る。


・サリス

「ここからが正念場ね。」


既に遠距離魔法での攻撃は出来ない。

魔物が近くまでやって来たからだ。

ここまで来ると指揮系統は無意味となる。

サリスも参戦し全ての魔物を討伐するのだ。


・サリス

「行くわよ、ローズ。」


いつも仲の良いギルド工房、夜の受付嬢。

綺麗で妖艶な彼女にはファンが多い。

2人で出撃したつもりだったが、、、


・冒険者

「ローズさん、アンタは俺が守る。」


・冒険者

「いや、俺が守る。」


・冒険者

「いや、俺が」


等と言いながらかなりの人数が付いてくる。


・サリス

「凄い人気ね、、、」


・ローズ

「あら、サリスのファンも多いのよ?」


ローズのファンに混じってサリスのファンもやる気満々であった。



~『国土門』左翼最前線~


ここではハリス、ミミの二人が戦っている。

ドンクとサリーヌも近くで戦っているが、効率を重視して2組に分かれた。

既に4人で50体は倒したであろう。


・ハリス

「ミミちゃん、まだ行けるかい?」


・ミミ

「もっちろん!」


まだまだ元気な2人であった。

しかし、一瞬の殺気に2人が止まる。


・???

「おや、バレてしまいましたか。」


謎の人物が現れた。

魔族だ。


・ハリス

「あんたが親玉かい?」


・???

「さて、どうでしょうかね。」


とぼける魔族。

どうやらこちらに関心がない様子だ。

そんな相手にハリスが魔法を放つ。

雷属性だ。

魔法は魔族の頬を少し焦がしてみせた。


・???

「雷属性、、、あなたもしかして?」


・ハリス

「ハリス・グランツ・ランバートだ。」


名を聞いた魔族は急に笑い出す。


・???

「そうか、そうかそうかそうか!

やはり私は運がいい。

まさか勇者の末裔と戦えるとは。

人間如きの命令を聞かなきゃいけないと分かった時は屈辱でしかなかったが、この様な幸運に巡り合うとは。」


魔族の魔力が一気に跳ね上がる。

周囲にただならぬ歪みが発生する。


・ゾイ

「喜べ、魔族なるゾイが貴様を殺してくれよう。その首は我が一族の家宝としてやる。」


嬉しそうに、非常に嬉しそうに話す。

ゾイは体を震わせながら笑う。


・ミミ

「んで、あんた魔族の偉い人?」


・ゾイ

「その通りだ!勇者の首さえ持って行けば晴れて私も魔貴族の仲間入りができるだろう。」


・ミミ

「なんだ、下っ端か、、、」


ミミの発言を聞いて静かになるゾイ。


・ゾイ

「今、何と言った?小娘。」


・ミミ

「下っ端か?って言ったんだよ~。」


ミミが手をひらひらさせながら答える

その瞬間、ゾイが魔法を唱え始めた。

真っ黒な魔力。

空間が捻じ曲がる、回る、収縮する。


・ゾイ

「小娘、、、訂正するなら今だぞ。

許しを乞うたなら楽に殺してやる。

だが、そうでなけれ、、、」


・ミミ

「さっさと掛かっておいでよ。

まだお仕事一杯あるんだよ?」


ゾイの話を遮るミミ。


・ゾイ

「きさまぁぁぁ!ならば死、、」


話している途中だった。

ゾイの身体が上半身と下半身に別れる。


・ゾイ

「な、、、、、何が?」


・ハリス

「戦場で長話は厳禁だ。

だからあんたは下っ端なんだよ。」


ミミが挑発してゾイの注意を引き付ける。

完全に意識がミミに向いた瞬間を狙っていた。

まさに一瞬の剣技だった。


・ゾイ

「ひ、、きょう、、、だぞ、、、。」


ゾイは息絶えた。


・ハリス

「戦場に卑怯も何もないだろう。言っておくがこれはミミちゃんと俺の連係攻撃だからな。」


魔族からの返事はなかった。


・ミミ

「こいつがアホでよかったね。

まともに戦ってたらどうなってたかな?」


・ハリス

「2人で本気を出せば何とかなったさ。

さあ、残りの魔物を倒してしまおう。」


2人は魔物の討伐を再開する。

実際に魔族のおぞましい魔力を目の当たりにした、実力は本物だっただろう。2人の背中には冷たい汗が流れていた。



~『国土門』右翼~


王国騎士団の快進撃は止まらない。

既に魔物の亡骸が所狭しと転がっている。

それでも魔物の数は減っていかない。


王国騎士団には致命的な弱点があった。

魔法が苦手な人物が多いのだ。

その為、範囲攻撃が出来ない。

剣の腕前は随一。

でも数で攻められると少し困ってしまう。


・ライル

「おらおら!気合入れろぉ~。

疲れたら少し下がって休んでから戻って来い。」


途中から数の多さに危機感を感じていた。

仕方なく騎士団の半数を交互にぶつける事にした。


・ライル

「一体どれだけ居やがるんだ、、、」


討伐数は数知れない。

魔法をあまり使っていないため騎士団は魔力の枯渇は心配が、流石に体力が持たなくなってきた。


・ライル

「さて、どうしたものかね。」


敵を斬り伏せながら考える。

中央に救援要請を掛けるか?

だが陣形を崩すのはリスクが高い。

かといってこのまま凌ぎ切れるか?


自問自答を繰り返しながら戦う。

そんな折、騎士団の一角が崩れた。


・???

「人間にしてはなかなか頑張りました。

しかし、そろそろ形勢逆転しなくてはね。」


妙に通る声が聞こえた。

ライルは振り返り確認する。


・ディアボロス

「私、魔貴族『ディアボロス・エバーナ』と申します、以後お見知りおきを。」


騎士団員の首を片手で貫き自己紹介をする。

遂に均衡が破られた、、、


・ライル

「こいつは俺がやる。

騎士団、ここが踏ん張り時だ!」


一瞬で魔族の間合いに切り込むライル。

こいつはヤバい。

そう直感した。

少しでもこいつを部隊から離す必要がある。

大丈夫だ、騎士団は強い。

必ず押し返すはずだ。

こいつさえ居なければ、、、


ライルは必死に食らいつく。

何度も斬りつけながら移動を試みる。


・ディアボロス

「成る程成る程、良いですね。

貴方とても良いですよ。」


軽々とライルの剣を受けつつ話す魔族。


・ディアボロス

「折角ですので、2人でお話でもしますか?」


そう言うとライルの目の前から消える。

刹那、ライルの背後に現れて蹴りを放つ。

ライルは何とか反転して剣で受ける。

しかし余りの威力に吹き飛ばされてしまった。


・ライル

「ぐぉぉぉ!」


凄まじい勢いで吹き飛ぶライル。

先程の場所からかなり飛ばされた。

だが、意図せず目的は達成した。


・ライル

「くっそ、なんつう威力だ。」


ライルが立ち上がる。


・ディアボロス

「ほう、あれを防ぎますか。

俄然興味が湧いてきました。」


ライルは凄まじいスピードで飛ばされた。

なのに背後から声が聞こえる。


・ライル

「全く、とんでもねぇ奴が混じってるな。」


・ディアボロス

「お褒めに預かり光栄です。」


綺麗な一例をする魔族。


・ディアボロス

「出来ればお名前をお聞きしたい。」


ディアボロスに促される。

今は少しでも時間を稼ぎたい。

ライルは答える事にした。

だが気を緩めるな。

一瞬の隙も見逃すな。


・ライル

「オルドラ王国騎士団団長。

ライル・グランツ・ランバートだ。」


ライルは名乗った。

すると魔族は満足そうに答える。


・ディアボロス

「やはり此処には貴方が居ましたか。

勇者の末裔が戦場のどこかに居る。

その様な情報しかありませんでしたのでね。

地理的に一番守りにくいこの門を攻めました。

今日は素晴らしい日です。」


魔族はなおも続ける。

ライル的にはありがたい。


・ディアボロス

「しかし、なかなか良い防衛網ですね。

他の場所も軍が展開しているのですか?」


答える事に少し迷う。

どうする?答えるべきか?

だが今は1秒でも時間が欲しい。

ライルは決断した。


・ライル

「まあな、どこも軍が機能している。

それだけ言っておこうか。」


曖昧な答えを返す。


・ディアボロス

「そうですか、という事は情報が漏れていたようですね。どうりで対応が早くて的確な訳だ。

本来は奇襲作戦だったのです。

しかし見事に破られました、ですのでこうして正面から突撃させたのです。」


作戦について妙に詳しいな。

これも時間稼ぎの一環だ聞いてやる。


・ライル

「あんた妙に詳しいな。

あの実力といい、ただ物ではないだろう。

前線に出てきているんだ。

部隊長みたいなもんか?」


・ディアボロス

「違いますよ、総司令と言えば宜しいかな?

今回の襲撃の指揮は私が取っております。」


ライルは驚きを隠せない。

指揮官が目の前に居る。

こいつを倒せば戦いの勝利が見えてくる。


・ライル

「指揮官がこんな所に居て良いのか?」


・ディアボロス

「そうですね、あなたの心配も解ります。

ですが今回率いる兵隊が問題なのです。

半数は半端物になっておりますのでね。

突撃するしか能のない奴らでして、、、

ですがご安心を。

残りの半数は純粋な魔物でございます。

既に私の指示で動いております。」


どういう事だ?

ライルは顔をしかめる。

それに気付いた魔族が続ける。


・ディアボロス

「簡単な事です。

奇襲が破られた瞬間から作戦など皆無。

正面から突撃させました。

前半は半端物、後半からが本番です。

私が出てくる前に攻め方を変えました。

敵陣形を崩せそうなこちらに魔物を、他の場所に残りの半端物を送る事にしましてね。そろそろあなたの居た場所に到着するのではないでしょうか?」


ライルは青ざめる。

先程戦っていた奴らが半端物だと?

結構強い奴も交じってたぞ?

もっと強い奴らが来る?

不味い、、、不味いぞ。


・ディアボロス

「無事に貴方の足止めも終わりました。

他に聞きたい事はありませんか?ライル殿。

無ければ私達も始めましょう。」


最初からそれが狙いか、、、

まんまとしてやられたな。

だが、ありがたい。

目の前に敵の指揮官が居る。

こいつを倒す事に集中できる。


・ライル

「最後に一つだけ、、、

俺を、人間をなめるなよ。」


ライルは魔力を開放する。

温存などしなくていい。

今ここで、全力でこいつを倒す。


・ディアボロス

「素晴らしい魔力と判断力だ。

私の部下に欲しいくらいです。

しかし悲しい事に私と貴方は相反する者。

貴方の最後に相応しい戦いにしましょう。」


ディアボロスも魔力を開放する。

ドス黒い魔力。

何処までも深く底の知れない魔力だ。


・ライル

「とんでもねぇ大物だ。

だが、負けるわけにはいかない。」


ライルは剣を握りしめる。

正直勝てるビジョンが浮かばない。

しかし、こいつは倒さなければならない。

大きく深呼吸して魔族に斬りかかる。

今度こそ、こいつを斬る。


ライルに迷いはない。

どんな敵だろうと必ず勝って見せる。

勝負は何が起こるか解らないのだから。

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